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ガルディア・アフター ~甦りし影の魔女~

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ガルディア・アフター ~甦りし影の魔女~

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第四章「反撃」

〜町上空・高高度〜

 ガーディアンヴァルキリー。大型の超級空母であり、【『シャーウッドの森』空賊団】の新旗艦である本艦は空賊団の活動拠点として運用されている。
 その艦橋に立つミュート・エルゥ(みゅーと・えるぅ)は大型モニターを見詰めていた。
 そこには戦場となる町の上空に展開した教導団艦艇、イコン部隊の損耗度が表示され、その位置情報も映し出されている。
 状況は完全に劣勢、このままでは数刻も経たないうちに教導団艦隊は全滅するだろう。
「うーん、いい感じにピンチですねぇー……じゃ、はじめましょうか?」
 彼女達の乗るガーディアンヴァルキリーは数十隻からなる護衛艦隊を連れていた。
 カーディアンヴァルキリーを中心に右翼、左翼に分かれ、前方に突き出るように展開している。
 艦のオペレーターが護衛艦隊の射程圏内に敵艦隊を捉えた事を告げた。
「護衛艦隊、敵艦隊側面に集中砲火。味方のイコン部隊への誤射に注意しつつ、此方から送る発射指示を基にミサイルも惜しみなくばら撒いてくださいねぇー」
 指示を聞いた護衛艦隊の砲門が開き、一斉射が影の艦隊の側面へと放たれる。
 無警戒であった左側面から砲火を浴びせられ、影の艦隊は次々とその形を保てなくなり塵へと変わった。
 影の魔物が接近する事も折りこみ済みであったのだろう、ミュートの指示したタイミングで放たれたミサイルの爆炎がそれらの接近を許さない。

「こちらツァンダ【『シャーウッドの森』空賊団】、これより貴軍を援護する!」
「救援、感謝する! 此方の被害は甚大。もはや航行しているのがやっとの状態だ……後方の大型輸送艦にはまだ無傷のイコン部隊が搭載されている。だが、カタパルトが損傷し発進ができない、そちらの救援を頼む」
「了解した、ガーディアンヴァルキリーには大型輸送艦を収容するように指示しよう」
 通信を終了させたヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)は甲板で出撃待機しているしている自らの親衛部隊『空賊団 親衛天馬騎兵』を率いて空へと飛び立った。
 目的は一つ。教導団艦艇を囲む影のイコン部隊を撃破し、退路を作る事。
「総員、突撃陣形ッ! 敵を蹴散らし、彼らの退路を作るッッ! あたしに続けッ!!」
 飛竜“デファイアント”【ブライトブレードドラゴン】を駆り、先頭を行くヘリワードの弓が影のイコンに素早く撃ち込まれる。真っ直ぐに飛んだ矢がその頭部を貫いた。損傷で身体を保てなくなった影のイコンは霧散。
 ヘリワードの攻撃に続いて親衛天馬騎兵による攻撃が影のイコンを殲滅していく。容赦のない攻撃は教導団イコン部隊を囲んでいた影のイコン達に降り注ぎ、抵抗を許さない。
 戦場を縦横無尽に駆ける彼女達はまるで流星の様に見える。
 アロー・オブ・ザ・ウェイク【アルテミスボウ】を引き絞り、影のイコンの頭部に狙いを付けた。瞬く間に放たれた三連射が影のイコンを襲う。回避行動をとる影のイコンだったが二射を避けた所で最後の一撃に頭部を貫かれ、消滅した。
「敵の頭部は比較的防御が薄いようね……これなら問題なく落とせるわ!」
 彼女達は空を駆け、敵を次々と落としていく。その様子は当たり前の光景のようにも見えた。そう、誰も大空の覇者には敵わないのだから。

 そんな彼女達から少し離れた場所を一騎のペガサスが飛ぶ。ヘリワード達が流星ならば彼女は弾丸とでもいうべきだろうか。
 イーダフェルトソードを振り回し、敵を薙ぎ払いながら進む彼女の目標は影の艦隊。
 いかにヘリワード達がイコンの相手ができるとはいえ、弓矢で艦隊を相手取るのは難しい。
 ならば捕捉しづらい単機での急速接近、急速離脱による一撃離脱戦法ならば効果的ではないか。
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)はそう思ったのである。
 影の艦隊に接近しながら彼女は贖罪の銃を抜く。発砲。彼女に向かっていた影の艦隊の直衛と思われる影のイコン数体が一瞬にして消滅する。
 彼女は降り注ぐ対空砲火を変則的な機動で回避すると艦の直上へと急上昇。イーダフェルトソードを突きの体勢で構えてきり揉み回転しながら急降下した。
 高速で回転する彼女は浴びせられる対空砲火を弾き返しながら影の艦の中心部分を貫いた。装甲を裂き、一気に貫通して艦の直下へと抜ける。
 大穴を空けた影の艦は折れるようにして影を噴出し、その身を塵へと変えた。
「よしっ! まずはひとつッッ!」
 リネンは目視で敵艦を探し、次の艦艇に目を付けた。空を駆け、敵艦の側面から接近。
 敵艦は側面に備えられたビーム砲塔を彼女に向け正確な射撃を放つ。
 真っ直ぐに伸びてくるビームにタイミングを合わせ、彼女はイーダフェルトソードで弾いた。ビームは反射するように曲がり、後方の影のイコンを吹き飛ばす。流れ弾とは哀れである。
「はぁあああああーーッッ!」
 きり揉み回転しながら敵艦側面に突っ込んだリネンは一息のうちにその先へと抜けた。
 航行不能なほどの大穴を空けられた影の艦はでたらめに砲火を撒き散らしながら影を伴って爆発四散する。
「ふたつッ! 次ッ!」
 休む間もなく、彼女は空を駆け次の敵へと向かった。

 味方の奮戦により、大型輸送艦は後方から接近するガーディアンヴァルキリーと合流を果たす。
 大型輸送艦の損傷は酷く、更に推進器不調の為に航行速度も平時の五分の一程度に低下している。
 モニターには収容作業が順調に進行している事が表示されている。ミュートはそのモニターを眺めながら呟く。
「……ここを狙われたらぁ、ひとたまりもありませんよねぇー」
 直後、オペレーターからの報告が届いた。敵艦、八時方向に発見と。

 モニターに映るガーディアンヴァルキリーと大型輸送艦を見ながら腕を組んで高笑いをしている人物が一人。
 秘密結社オリュンポスの幹部ドクター・ハデス(どくたー・はです)である。
「フハハハハハハハハハッッ、この世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデスに柔らかな脇腹を見せるとは……甘い、生クリームの乗り過ぎたショートケーキの様に甘いぞッ!」
 少し意味不明な事を述べながら、彼は天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)に指示を飛ばす。
「オリュンポスキャノンのチャージは完了しているな?」
「ええ、完了していますよハデス君。いつでも発射可能です」
「よし、目標……敵大型輸送艦、オリュンポスキャノン、てぇえーーーーッ!」
 大振りなハデスの攻撃指示により、機動城塞オリュンポス・パレスの中心部に備えられた大型砲塔オリュンポスキャノンにエネルギーが収束する。
 周辺を青い雷光が迸り、そのエネルギー量の高さを窺わせる。一瞬、砲塔の奥が輝いたと思うと轟音と共にビームが放たれた。衝撃を相殺する為にオリュンポス・パレスの後部スラスターが火を噴く。それでも衝撃を完全に殺すことはできず、少しオリュンポス・パレスは後退した。
 空気を振動させ、ビームが大型輸送艦に迫る。そのビームの大きさは並みの艦艇であれば即座に飲み込んでしまうほどに太く、大きい。

 ガーディアンヴァルキリーの艦橋でミュートは考えを巡らせる。
 ――どうする? 収容作業を中断して艦を盾にして守るか? いや、間に合わない……何か手はないだろうか。
 それほどにオリュンポスキャノンの放たれたタイミングは絶妙であったのだ。守るにも、回避するにも時間が足らない。
「こちら、教導団所属四番艦。貴艦はそのまま収容作業を継続されたし!」
 その通信の直後、煙を上げながら高速でこちらに向かってくる四番艦の姿が見えた。

「機関出力低下! 第五戦速を保てませんッッ!」
「第三戦速まで落としても構わんッ! 何としても持たせろッ!」
 火花が散り、小規模な爆発に晒される艦橋で艦長は指示を飛ばす。使用できる火器もなく、イコン部隊を失った自分達に何ができるのか。それを考えた末の行動であった。
 大型輸送艦に迫るビームに正面から突撃する。
「シールド出力最大で艦前方に展開ッ! 魔力障壁も同時に展開せよ!」
 四番艦の先端を包む様に薄い青のシールドが顕現、同時にその周囲に小さな魔法陣が無数に展開された。
 数秒後、直進するビームと四番艦がぶつかった。
 激しい轟音と衝撃波が周囲に発生、ビームと四番艦が拮抗する。
 が、すぐさまその拮抗は崩れシールドが割れるように損壊、障壁も吹き飛ばされてしまう。
 ビームが四番艦に直撃、装甲を削り取り残っていた砲塔も全てもぎ取る。四番艦にぶつかったビームは四散し、大型輸送艦に届くことはなかった。
 艦のあちこちを爆発させながら四番艦はオリュンポス・パレスへと突撃する。
 額から血を流し、艦長はモニターに映る敵を見据えた。その隣では物言わぬ屍となった副官が横たわっている。腹部に大きな破片が刺さっているようでそれが致命傷となったようだ。
「どのような相手であろうとも……負けるわけには、いかんのだぁぁぁーーッッ!」

「何をしているッ!? 手負いの艦など撃ち落としてしまえッ!!」
 ハデスは突撃してくる四番艦に全砲門を合わせるように指示、一斉砲火を浴びせる。
 降り注ぐ砲火にも拘らず、四番艦の突進が止まる様子はない。
「何故だッ! 何故落ちんッッ!! 天樹十六凪、なんとかしろッ!」
「わかりました、善処してみます」
(あの艦は、オリュンポスキャノンの直撃を受けてもなお健在……流石は教導団所属の戦艦です。このままでは撃ち落すのは不可能に近い……ならば受け止めるしかありませんね)
 オリュンポス・パレスの防御機構を最大限に稼働させ、来たる艦との衝突の衝撃に備える十六凪。
(まぁ、ハデス君には後で色々言われそうですがね……それもいいでしょう)
 砲火を止め、全ての出力を防御にまわしたオリュンポス・パレスのオリュンポスキャノンの砲口に四番艦が突き刺さり爆発する。
 爆発の衝撃がオリュンポス・パレス全体を大きく揺らした。
「被害、被害状況を報告せよッ!」
「ハデス君、オリュンポスキャノンは破損しました、次弾は撃てません。それと敵イコン部隊がこちらに迫っています」
「なにっ!? 敵イコン部隊は出撃不能ではなかったのか!?」
「どうやら敵大型艦船が輸送艦ごと収容し、備え付けられたリニアカタパルトでこちらに放り込んできているようですね。実に荒業ですが、効果的な戦術だと判断します」
 落ち着いた口調の十六凪とは対照的にハデスは悔しそうに床を叩いた。
「くっ! 残った火砲でイコン部隊を掃討する、全砲門――」
「待ってください、ハデス君」
 指示を出そうとしたハデスであったが十六凪に制され、前のめりになって倒れそうになる。
「なんだ、今度は!」
「申し上げにくい事ですが……先程の防御に出力をほとんど使ってしまったので、もう離脱する分のエネルギーしか残っていません」
「どうしてそうなった!? あれほど――」
「なんとかしろ、との仰せだったので。全力を尽くして、なんとかしました」
「――――ッ! 撤退だ……総員、退き上げ!」
 ハデスはその指示の後、外部スピーカーのスイッチを入れた。
「フハハハハハハッ! よくぞ我らが機動城塞オリュンポス・パレスをここまで追い込んだ! その功績に免じて、今日はここで退いてやろう! またまみえる時を楽しみにしているがいいッ! その時こそ、勝利するのは我々秘密結社オリュンポスだ! フハハハハハハッ!」