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ガルディア・アフター ~甦りし影の魔女~

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ガルディア・アフター ~甦りし影の魔女~

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第二章「憧れと現実」

〜町・大通り〜

 大通りの地上部隊と影の魔物達の衝突は時間の経過と共により激しいものとなった。
 上空の艦艇の被害が甚大な物と報告され、地上部隊は無理にでも前進を余儀無くされる。
 到達する前に艦艇が全滅でもしてしまえば、上空と地上の挟み撃ちにあい救出はおろか撤退さえもままならず全滅は免れない。
 いかな強固な教導団兵と言えども消耗し疲弊した状態で退路を断たれれば勝ち目はない。
 ならば、そうなる前に勝敗を決しなければならなかった。

 地上部隊の先鋒を務める一機のパワードスーツフライシャッツが影の一団へと猛進。その身に多数の影の砲弾を受け、装着者に激しい振動が伝わる。
 カル・カルカー(かる・かるかー)の目の前にダメージ過多の警告文表示がされるがそれを無視する。
 ――装甲の強度にはまだ余裕がある。無理をしてでも戦線を押し上げなければ。
 着地と同時にブーストソードを力任せに振り回す。細かな動きは剣の方が微調整し最適な動きへと攻撃は変じる。
 数体の魔物を斬り飛ばし、突進してくる別の魔物を掌底を放って吹き飛ばす。
「カル坊ッ! 突出しすぎだ、いったん下がれぃっ! この数では守るのも……」
「誰かが無茶しないと戦線を押し上げるのは無理だろッ! それに――もう守られるだけの僕じゃないっ!」
 背後から追いつき、彼を守る様に戦う夏侯 惇(かこう・とん)の言葉を聞かずカルは更に前進する。
 確かに前線を押し上げる事には成功しているが、彼の戦い方は被弾を気にしないものとなっておりその動きには危うさを感じる。
 魔物を攻撃を受け止め、その胸を剣で貫く。引き抜いたと同時に別の魔物の攻撃を受け止めた。
「くっ……こんなんじゃ、あの人みたいには……とても……くそぉぉぉぉぉっ!!」
 力を込めて押し返し、魔物の頭部を斬り裂く。彼の脳裏には作戦前の出来事が思い浮かんでいた。

 作戦開始前、彼がパワードスーツの調整を行っているとふと視線を感じた。疑問に思って振り向くと、そこに女性が立っている。
 彼女は教導団少佐ルカルカ・ルー(るかるか・るー)。自身の機体に乗り込もうとした時に興味を引かれ立ち止まったようであった。
「へぇー……そんな細かいところまで自分で調整するんだ?」
「え、あ、その……ははいっ!」
 緊張からか声が裏返り、謎の返事を返す。すこぶる恥ずかしい。穴があれば入ってしまいたいほどであった。
「そんな緊張しなくていいよ……ってもう時間か。えと……」
「か、カル・カルカー中尉ですっ!」
 驚くような表情をした彼女はカルの肩に手を乗せ、笑顔を見せる。
「なんか似たような名前だったんだね! うん、カル……ね、覚えたわ。次の作戦、カルの配置場所はどこ?」
「えと、地上部隊の最前面、先鋒部隊です!」
「そう、先鋒か……貴方達の部隊の働きで戦いの動きが変わる重要な場所よ? 頑張ってね!」
「はいっ! 全力を尽くしますっ!」

 カル達の少し後方で支援用トラック『シュレンドリアーン』のモニターを眺めるジョン・オーク(じょん・おーく)は心配そうな声を上げる。
 モニターではカル、夏候の装着しているパワードスーツの損耗度が警告文と共に明滅していた。
 夏候の方はそう大したダメージではない。上手く損傷を分散させ、戦っているようだ。
 それに比べカルの方はいつ装甲が破砕し、機能不全に陥ってもおかしくはない状態である。
「カル……一体何を考えて……」
 再三、ジョンはカルに自重するように声を掛けたのだが、カルは聞く耳持たずといった所であった。
「やべぇぞ、ジョンっ! カルと夏候のダンナが囲まれた!! あのままじゃ押し切られるぞっ!」
 トラックの上に位置し、支援砲撃をしていたドリル・ホール(どりる・ほーる)の視線の先でカルと夏候は敵に囲まれ猛攻を受けている。なんとか凌いでいるが長くは持ちそうにない。
「オレが助けに行く、途中まで送ってくれっ! こいつの足なら間に合う――」
「その必要はないわ、支援機はそこで後方支援を続けなさい」
 通信の声はルカであった。彼女の駆るレイが高速で戦場の上空を横切る。通った後を猛風が吹き荒れ家の窓を簡単に割っていく。
 晶術長距離ライフル(貫通)の砲火がカルと夏候の周囲の敵を次々と焼いていく。数分も経たずに魔物達は蒸発した。
 レイをカル達の上空に滞空させながら彼女はスピーカー越しに叫ぶ。
「何をしているの! たった一機で突出しても何も意味はないわよ」
「僕が……僕が……守らなきゃ、守らな――」
「カル・カルカ―少尉っ! 貴官の職務は何か!」
 ルカの声にハッとしてカルは顔を上げる。
「ぜ、前線部隊の……先鋒として、突入部隊を……屋敷まで送り届ける事です!」
「ならば、貴官の職務を全うせよ!!」
「……はいっ!」
「――いい返事、できるじゃない。もう大丈夫そうね」
「はい! ここはお任せくださいっ!」
 曇っていた目の前が晴れたような気がした。ブースターを吹かし屋敷へと突進していくルカのレイを見詰めてカルは思う。
 ――突入部隊は、屋敷まで送り届けて見せる、誰ひとり欠けることなく。
 地上部隊と連携を取れる位置まで後退したカルは先程の遅れを取り戻すかの様に奮戦する。
 その甲斐あって地上部隊は勢いづき、屋敷へと少しずつではあるが歩を進めていった。

 地上部隊と影の魔物達との乱戦の中、数人の部下を連れた女性が家屋の扉を破り中へと侵入した。
 彼女――ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)に連れられるのは特殊舟艇作戦群【Seal’s】【特戦隊】。
 選りすぐりの者達五人一組で運用され、今回彼女は彼らを二組連れてきていた。
 家の扉を開け銃口をその中へと向ける特戦隊の面々。彼らの的確で無駄のない行動は数体ほど潜んでいた影の魔物を素早く掃討する。
「……クリア」
「……クリア」
「……クリア」
 部屋の各所に散った隊員達から制圧完了の報告が次々と届いた。
「ん? これは……?」
 ローザマリアはテーブルに無造作に置かれた紙片に注目する。そこには走り書きで『町はずれの教会』と書かれていた。
「住民の救出部隊に連絡、町はずれの教会に逃げ遅れた住民がいるかも知れないと」
 そう連絡するように指示するが、そこに住民がいる可能性は低いと思われた。
 なぜなら、この魔物の中そこまで逃げられたとは思えない。逃げたとしても、魔物の攻撃に対抗する術もないただの教会では持ち堪えられる時間もたかが知れている。
(それでも生き残っていてほしい……そう思う私は……甘いのかしら)
 愛用の銃を抱え、二階に上がって狙撃準備を整えながら彼女はそう思う。
 しかし、そのことを考えていたのも一瞬。すぐさま彼女はそれを意識の外に締め出し、スコープを覗いた。
 狙撃手特有の感覚が彼女に冴え渡る。銃と身体が一体になる感覚、それはまるで銃が自分の手足の延長の様に。
 スコープの先ではベルネッサ・ローザフレック(べるねっさ・ろーざふれっく)が影の魔物の頭部を吹き飛ばし、回し蹴りで容赦なくその身を砕くのが見えた。
(……あれじゃ、どっちが魔物かわからないわね)
 そう皮肉めいた事を脳裏に浮かべながら彼女は敵を探す。ベルネッサの右前方、口を開いて影の弾丸を吐き出そうとしている魔物を捕捉。射撃。魔物の口に弾丸が飛び込み口内で爆ぜる。頭部が粉々に砕け散った魔物は倒れる様にして消滅した。
 すぐさま彼女は別の敵に狙いをつけ、連射態勢を取る。M6対神格兵装【DEATH】【黄帝の火竜槍】が数度弾丸を吐き出す。銃撃を浴び、影の魔物は立ち上がる間もなく消失する。
 射撃を中断し、彼女は銃器を持ち上げて場所の移動を開始する。狙撃ポイントを素早く変えるのは敵に狙撃場所を気取られない為の常套手段である。もっともあの影の魔物達にそこまで考える知性があるのかは甚だ疑問ではあるが。
 別の家屋を先程と同じように制圧し、ローザマリアは再び狙撃体勢を取った。
 彼女は敵を纏めてスコープ内に捉えると素早く射撃する。放たれた弾丸は正確に影の魔物達の頭部を貫いてその活動を停止させた。

 家屋の外、町の上空から敵を探すグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)
 彼女の任務はローザマリアが狙撃をしている間、その邪魔者になりえる敵を可能な限り殲滅する事。
 王騎竜『ア・ドライグ・グラス』【水雷龍ハイドロルクスブレードドラゴン】を駆り、彼女は飛来する影の魔物と対峙した。
「空中型の影の魔物か、いいだろう。その力に自信があるのならばわらわの太刀、受けきって見せよっ!」
 翼の生えた影の魔物に向かって王騎龍が突進。その背ではグロリアーナが二対の片手剣を構えて一瞬の時を狙う。
 すれ違う瞬間、彼女の片手剣が交差。影の魔物へ十字の傷を刻み込んだ。流れるような動作で片手剣を接続、巨大な大剣へと変じさせ影の魔物を頭部から縦に両断する。
 両断された影の魔物は形を保てずに塵の様に細かく消え去った。
「ふんっ……わらわに挑むには力量不足だったようだな。勇気と無謀を履き違えぬように、来世では心しておくとよいだろう」