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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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【祓魔師】イルミンスールの祭典

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第17章 イルミンスールの祭典 Story10

 祭典の準備開始から3日目。
 一輝が見回りしていたが特に不審な人物の姿はなく、出店班のアークソウルも反応を示さなかった。
 必要な物資の調達等は内々ですでに済ませており、それらに紛れる隙はない。
 姿を見ず気配も感じられないのは、当然といえば当然だ。
 しかし、突然の襲撃も予想しておかなければならず、警戒心を解くことはできなかった。
 なぜなら本日は、祭典の開催日。
 今度こそ一般客に紛れてくる可能性が高い。
 弥十郎も笑顔で接客しながらも、誰がそうなのか気が抜けない状態なのだ。
「まいどありがとう、また来てね♪」
 クグロフを買った一般客にスマイル対応で手を振り見送る。
「売上げは順調ね」
「んー…売上げはね」
 パートナーの“は”という言葉に、かぶりを振って“気配はないよ”と仕草で答える。
「人の出入りが多いなぁ」
「祭典だもの、当たり前よ」
「まぁね…ん……?」
「何?」
 急に忙しなく辺りを見回す、弥十郎の姿に小首を傾げた。
「地球人なら探知しないし…、魔性…とも違うような」
 ヒトでなく魔性とも異なる奇妙な気配を僅かに感じとり、ペンダントを握り意識を集中させて探る。
 出入り口を通れば、すぐに人間レーダーの探知にかかる。
 となれば、相手はまだ外にいるということになる。
 賑わう声で聞き取れないだろうと思い、そっと一輝と連絡をとる。
「もしもし、ワタシだけど。今どこにいる?」
『裏口辺りだが、何かあったか?』
「妙なお1人様が外にいるみたい。真宵さんと誘導してもらえる?」
『了解。接客は親切丁寧が大事だからな。…真宵か?一輝だが、すぐに案内したい者がいる。すぐ、カフェの出入口前へ来てくれ』
 一輝は通話を切り、すぐさま真宵に携帯をかけて出入口へ来るように伝える。
 連絡を受けた彼女は、時の宝石の力を使い数秒で駆けつけてくれた。
「とうとう来たのね」
「それはそうと、テスタメントは?」
「今日のところは“案内”だけでしょ。置いてきたわ」
 そのテスタメントは、ただの一般客を捕まえては懺悔の言葉はないか求めていた。
 どこで何を行っているか知られるわけにはいかず、無駄に騒ぎを起さないように置き去りにした。
「―…新しい制服でも買ったのか?」
「出向で着てるほうはディアボロスに見られたのよ。祓魔師だってわかったらストーキングされるわ」
 僅かなほころびの箇所でも、本人特定されるかもしれないということで、校長から新品を借りていた。
「イルミンの祭典は、ほとんどうちの学校の生徒が接客とかしてたからね。それで、あなたもそれ着ているんでしょ?」
「所属的には蒼空だからな」
 一輝のほうも普段着の上から、すぐ見破られないよう魔法学校の服を簡単に着ていた。
 パートナーのコレットが祓魔師として活動してはいるが、祭典に参加するのは初めてのことだ。
 彼らに目撃されてしまえば、集まって何かをしていると認識されるだろう。
 できるだけ周りの生徒に紛れて、判別できないように活動する必要があった。
 カフェの外へ出ると、ヒトではない何かが真宵の探知能力にかかった。
 強制憑依させる手ごまの魔性はもういないのか、しっかりと視界にはいっていた。
 おそらく偵察しにやってきたのだろう。
 諦めさせれば封魔術の完成まで時間が稼げる。
 とはいっても1度だけでなく、また客に紛れて探りにくるはず。
 その時はディアボロスもいる可能性が高い。
 今は1秒でも惜しい時期であり、時間稼ぎしようと真宵は思考を働かせる。
「―…あーどうしよう、必要なものが足りないみたい。取りに行かなきゃ」
 真宵は彼の脇を肘でつっつき、話しを合わせるように伝える。
「荷物が重いから一緒に来てくれる?」
「あぁ…うん、落としたらまずいからな」
 それらしい言葉を撒いてやり、相手の注意を向けさせる。
「(こっちに気づいたみたいね)」
 目深に帽子を被った者がこちらを見たことを確認し、のんびりとした足取りで歩き始める。
「ねぇ、わたあめがあるわ。食べてかない?」
「えっと…そうだな」
 しっかりついてきているかちらりと目をやり、わたあめの出店に視線を戻す。
「はむ…、美味しい。時間もあるし、いろいろ見ておきたいわね」
「任務中にいいのか?」
「うるさいわね、これも作戦よ」
 甘いものを食べ歩きしたいだけじゃ…と思い小声で呟いた一輝の脇を肘でつっつく。
 時折足を止めては偵察にやってきた者を視界にいれ、まだついてきているのを確認すると、あれやこれやと見て回る。
「そろそろあれを取りに行かないと」
 真宵は階段を使い一輝と地下へ降りていく。
 無論、教室や訓練場がある場所とは反対方向の階段だ。
 扉をあけるとそこには、祭典に使う食材がぎっしりと積まれていた。
「あった!これがないと困っちゃうものね。早く戻らなきゃ」
 重たい袋を当然のように一輝へ渡した。
「うわ…何だ?」
「行けば分かるわ」
 自分だけ身軽なのをいいことに、さっさと倉庫から出て行く。
 カフェに戻った真宵が足早に向った先はプリンの出店だった。
「はい、持ってきたわよ」
 一輝に運ばせた紙袋をテスタメントに投げ渡す。
「へ?わわ、こんなに!?お砂糖は足りていますよっ」
「うるさいわね、どうせ使うでしょ?わざわざわたくしが取ってきてあげたんだから感謝しなさいよ」
「そりゃあれば使いますけど…。おや、後ろの方はお客様?特性手作りプリンを買っていきませんかっ!!今ならお茶のサービスもあるのですよ」
 立ち去ろうとする帽子の男の腕をテスタメントが掴み、山のような大きなプリンを買うように言う。
「むっ!この肌の色の悪さ…。さては…」
「ちょ、あなた!?」
「止めないでください真宵。こういうことは、はっきり言わないといけないのです!」
 堂々と胸を張って言うテスタメントを、もはや誰も止めることはできなかった。
 せっかくの作戦が台無しになってしまうのか。
「そこのあなた、甘いものばかり食べて血色が悪くなったのでは!?そんなあなたに、食べさせるプリンはないのですっ」
 …と思いきや、ただの客と勘違いしているようだ。
 引き止めておいて売らないと宣言したあげく、何事かと周りの注目も浴びせていた。
「この近くに、栄養たっぷりのお料理がありますから、そちらで…っと……。やや、帰ってしまうのですか?」
 帽子の男はテスタメントの手を振りほどき、足早にカフェを出てしまった。
 真宵と一輝が彼の後を追ったが、どうやら校舎から出て行ったようだ。
「気配はまったくないわ」
「―…何とか出て行ってくれたようだな。俺はまた見回りに戻るよ」
 そう告げると一輝はカフェの中で別れた。
 地下で見張りをしている樹と定期連絡を取り、偵察者がきたことを伝える。
 幸い騒ぎにならず、こちらの行動も知られずに立ち去ってくれた。
 だが、コレットの“来る”という言葉が気にかかり、明日は油断できないだろうと話し通話を切った。