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魔女と傭兵と封じられた遺跡

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魔女と傭兵と封じられた遺跡

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魔女


「ねぇ? このペンダントってなんだか力が込められてるような気がするんだけど見てもらっていい?」
 粛清の魔女を探して遺跡都市を穂波たちとは別の場所を進むアーデルハイトに芦原 郁乃(あはら・いくの)はゴブリンキングからもらったペンダントを見せる。
「ふむ、これはミナスが作ったペンダントじゃな。私も地球時代に一緒に研究しておったから分かるのじゃ。衰退の力による影響を完全に遮断する効果があるのじゃ」
 儀式そのものとも言える繁栄の魔女や衰退の魔女にはその効果は望めないがとアーデルハイトは言う。
「それは誰からもらったのじゃ?」
「ゴブリンキングからだよ」
「キングからか……そのペンダントはミナスが長い年月をかけて全部で200しかできなかったものじゃ。キングはお前を信用しておるのじゃな」
「そういえば、このペンダントってゴブリンやコボルトたちが皆持ってるんだよね。仲間の証みたいなもので簡単に作れるものだと思ってたんだけど」
「ミナス無き今、おそらくそのペンダントは二度とは作れまい。大切にするのじゃな」
「うん。そうする。……そういえば、200ってゴブリン達とコボルト達の人数を足した数と一緒だね。何か意味があるのかな」
「さての……もしかしたらあるのかもしれんが、何とも言えんの」
 情報が少なすぎるとアーデルハイトは言う。
「そうだ、魔女が見つかってからでいいんだけどさ……マビノギオンの読み解きに力を貸してくれないかな? もう少し村の役に立つことが魔道書のなかにあると思うんだ」
「ふむ……ミナスが書いた書か。私も興味がある。時間ができたら付き合うのじゃ」

「主、やはり私を解読する気持ちは変わらないのですね」
 アーデルハイトと郁乃が少し離れたのを見計らって蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)はそう話しかける。
「うん。きっとこの村をいい方向にする方法が書かれているんだから」
「そう……ですね」
 前向きな郁乃の言葉に対してマビノギオンは強く同意することは出来ない。
(あたしは自分がわからない……力ある書物だということ、ミナスに連なる書だということしか)
 自分のルーツ。それを自分自身で信じることがマビノギオンにはできなかった。
(魔女達と出会うことであたしは、あたしの知らないあたしに出会うのかもしれない)
 それだけが少し怖かった。
「大丈夫だよマビノギオン。絶対に大丈夫だから」
「……ええ、そうですね」
 それでもマビノギオンは自らの主の言うことを信じるのだった。



「アーデルハイトちゃんはちっちゃいのにエライね。村のために粛清の魔女を探そうだなんて。お姉ちゃんがお手伝いしてあげるね。だから大きくなったら、お姉ちゃんとらぶらぶしようねっ!」
 大魔女アーデルハイトに臆面もなくそう言うのはレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)
「すみません、アーデルハイト様……この方は脳内が百合に満たされ残念なことになってしまっていて……」
 大魔女であり長く時を生きたアーデルハイトを子供扱いするという暴挙を前に必死でフォローするクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)
「まぁ……契約者は一癖二癖あるものが多いからの。うちのあれに比べればまぁマシかもしれぬ」
 あくまで『かもしれぬ』だが。
「えっと……もしかしてアーデルハイトちゃん脈ありなの!?」
「どこをどう解釈したらそうなるかは知らぬが、全く持ってないのじゃ」
 レオーナの台詞を完全に否定するアーデルハイト。
「すみません……本当にすみません」
 レオーナの暴言に本気で涙するクレア。……いつもの光景である。
「ふむ……まぁ別によいのじゃ。私を子供扱いできるものも今となっては少ないからの」
 良くも悪くもアーデルハイトは有名だ。知っていて子供扱いできるようなものはそうそういない。知った上で歳など関係なく子供扱いするような怖いもの知らずもいないわけではないが。
「はぁ……アーデルハイト様が寛大な方でよかったです」
「お前も苦労するの。良ければ暇な時に相談くらいならのるのじゃ」
「うぅ……ありがとうございます」
 アーデルハイトの優しさに嬉し泣きするレオーナ。
「? 何の話?」
「パートナーがあれだと苦労するのっていう話じゃよ」
 自分が話の主題であることに気づいていないレオーナを微笑ましく見るアーデルハイトだった。