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訪れた特殊な平行世界

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訪れた特殊な平行世界

リアクション

 多くの尽力のおかげで記憶食い消滅薬は完成し、パラミタのあちこちで配布され状況はさらに進展した。

 イルミンスールの街。

「よし、記憶食い消滅薬も詰め込んだ」
「これであいつを倒すぞ」
 双子は鉄砲に液体型の記憶食い消滅薬を充填し戦闘態勢を整えた。
 双子よりも少し早く戦闘態勢を完了させた美羽は
「早速、一発発射!!」
 すぐさま双子の発明品の出来を確かめた。
 発射された青紫の液体は見事に記憶食いに命中し標的を消滅させた。
 それを見るなり
「すごい! ヒスミとキスミの発明品も、たまには役に立つんだね!」
 美羽は手を叩いて双子を褒め称えた。多少引っかかる単語がちらり。
「たまにはって余計だろ」
「無くなったらすぐに補充しろよ」
 双子は口を尖らせ美羽の語尾に反応していた。
「了解。そう言えば、素材の状態でも狙って来るそうだけど……」
 美羽は先程の一発分を補充しながら素材を持つ二人に視線を向けた。
「任せるでありますよ。記憶提供をしつつ引き寄せるであります!」
 吹雪は記憶提供と双子の見張りついでにと囮までも快く引き受けるが
「……」
 ロズはじっと侵食する世界を見つめるばかり。
「ロズ、大丈夫か?」
「しかし、暗めなものばっかりだな」
 ヒスミはロズを気遣い、キスミはロズに生える素材のほとんどが暗めである事に気付いた。暗めの記憶は皆が知る記憶でありほんの少しある明るめの記憶は双子との生活の記憶がほとんど。
「……大丈夫だ」
 ロズはちろりと双子に顔を向け、静かに答えるばかり。

「そっか。ちょっと改造してからやるぞ、キスミ」
「そうだな。改造が終わったらどちらが多く消すか勝負だ。参加するよな?」
 双子は鉄砲を手に楽しそうに美羽に勝負を吹っ掛けた。
「もちろん。負けないんだから。でも……」
 当然美羽の答えは決まっている。ついでにヒスミに注意しようとした時、
「!!!」
 ロズの記憶を狙う記憶食いが襲撃して来た。
 突然の襲撃にこの場にいる者達が動くよりも先に『魔除けのルーン』による結界がロズを守ると同時に『我は射す光の閃刃』による光の刃が記憶食いの動きを止めた。
「うぉっ、何だ!?」
「誰だ!?」
 双子は驚きながらも鉄砲で記憶食いを消した。
 記憶食いが消滅してから
「無事ですか」
 上空から北都と共にクナイが現れ、地上に降りて来た。
「げっ」
 双子は北都の姿を確認するなりあからさまに嫌そうな顔をした。今までの説教やらを思い出している模様。
「そんな顔しなくても……ロズ、大丈夫かい?」
 北都は軽く笑いながら双子に答えた後、ロズの様子を気遣った。先のロズを守ったのは北都で記憶食いを攻撃したのはクナイである。
「……あぁ、大丈夫だ」
 ロズは静かに礼を言った。
「それならいいけど、本当に大丈夫かい? 怯えているように見えるけど」
 北都はロズの声音に特殊な平行世界への怯えが見え隠れしている事に気付いた。
「……」
 ロズは言葉の代わりに視線を侵食続く空に向けた。
 そこへ
「ロズ、心配すんな。ちょっと解決するのに面倒だろうが、悲劇の繰り返しなんてさせねぇからさ」
 サビクを連れたシリウスが現れた。
「そうだよ。みんなで協力すればこんな騒ぎもすぐに終わらせられるよ」
 北都もシリウスの言葉にかぶせた。協力を口にしたのはその大切さを見て欲しかったから。ロズだけでなく調薬探求会にもだが。
「……協力……そうだな(……確かに協力なら……自分を助けてくれた)」
 ロズはじっとシリウスと北都を見て胸中で振り返っていた。多くの協力者のおかげで自分がここに存在出来ている事を。

 ロズとの会話が一段落した所で
「お前達も頑張ってるんだな」
 シリウスが笑みを浮かべながら親しい仲の双子に声をかけた。
「まぁな。だって俺達にも責任あるみたいだし……ロズのためにもさ」
「オレ達だってやる時はやるんだぜ」
 双子は凄いだろと言わんばかりに少しだけ偉そうに言い張った。
「あぁ、偉いな。頑張れよ。ロズの事もな。ただ、無理はするなよ。無理をして怪我でもしたら何の意味もねぇからな」
 シリウスはカラカラと笑いながら教師が生徒に言い聞かせるように双子に言った。
「……何か保護者か先生みたいな事を言うなよ」
 ヒスミがむぅとしながら文句を言うと
「みたいというか、一応、百合園の教師だけどな」
 シリウスは肩をすくめながら事も無げに現在の自分を教えた。
「……本物かよ」
「……うわぁ」
 双子は予想外の答えにあからさまに驚いていた。
 そこに
「それより、二人共、勝負するのはいいけど改造は無しだよ。これ以上危険な事を起こして騒ぎを大きくするわけにはいかなんだから」
 美羽が先程中断され言えなかった注意を言うと
「えーー」
「つまんねぇ」
 双子はこの場にいる皆の予想通り嫌な顔をした。
 そんな彼らを大人しくさせたのは
「早速新たな記憶を作るでありますよ?」
 ニヤリと素敵な笑みを浮かべる吹雪であった。手には記憶食い消滅薬が込められた弾丸入りの試製二十三式対物ライフルがあった。
「!!」
 双子は即座に硬直。
「勝負というとあれを消した数でも競うのかい?」
 聡いサビクは双子が何を勝負のネタにしているのか察し訊ねた。
「そうだぞ」
「参加したきゃしていいぞ。ただし、オレ達はタッグで参戦だけどな」
 双子は力強くうなずき、顔見知り達を勝負に誘った。明らかに勝つ気満々の顔である。
「付き合ってやるか。こっちも記憶食い退治が目的だし何より……(こいつらから目を離すのはヤバイしな)」
 少しでも多く双子監視がいた方が良いと判断したシリウスは参加を決め
「付き合うんだね。薬は用意出来ているからそっちの面でボクも力を貸すよ」
 サビクも流れで参加する事に。手にはサビク特製の対記憶食いの魔法薬。
「勝負参加というか協力はするよ」
「速やかに騒ぎを解決したいですし」
 北都とクナイは勝負というより協力という形を取る事に。
 参加者決定後
「参加者が決まった所で」
「勝負開始だ!!」
 双子は勝負開始の合図を出し、始まった。

「自分の記憶を狙うとはいい度胸でありますな」
 『銃器』を有する吹雪は記憶提供をしつつ素材を狙う記憶食いを『スナイプ』で見事に射貫く。

「絶対に逃さないんだから(後で最下位はスイーツ御馳走する事言わなきゃ。いつも通りだけど)」
 美羽は軽やかに鉄砲で記憶食いを消しつつ、罰ゲームも考えていた。内容はいつも通りスイーツ御馳走。

「奴らも生物ならコイツでどうだ。魔力の塊だし効果あるだろ(ドカンとやっちゃわないよう、そーっと、そーっと……あぁもう魔法少女に戻りてぇ!)」
 シリウスは慎重に『闇黒死球』で魔力の塊を生み出し、記憶食いを引き寄せ
「ボクの特製の魔法薬を試させて貰うよ」
 サビクは自作の中和効果含有の魔法薬を使用し、記憶食いを消し去った。ちなみにシリウスが魔法少女に変身出来ないのは魔法少女の力が部分発現した神力だったからである。

「多いですね。とどめはお願いします」
 クナイは『風術』で程よく記憶食いを吹っ飛ばしとどめを誰かに託すと
「任せて!!」
 『バーストダッシュ』で素速く美羽が駆けつけて記憶食いを撃破。
「君の身の安全は僕達が守るから」
 北都は『行動予測』でロズの記憶を狙う記憶食いの行動先を読みアルテミスボウで動きを鈍らせ
「処理はボクがやるよ」
 サビクがとどめに自作の魔法薬でとどめを刺した。
「……ありがとう」
 ロズは守ってくれた事に感謝を述べた。
「行けぇ」
「当たれぇ」
 双子は必死に撃ちまくっていた。

 その後、皆記憶食いを次々と消し倒していたが、
「……こっそり改造するぞ」
「おう、皆記憶食いに夢中だしな」
 双子は悪戯心が我慢出来ず、皆の目を盗んで改造を始めたが例の如くヒスミのやり過ぎによって鉄砲から煙が出て性能が落ちたが、記憶食い殲滅については皆の尽力により成功した。
 勝負の行方は案の定、双子が最下位となった。原因は無茶な改造である事は言うまでもない。
 その際、発表された
「最下位はみんなにスイーツ御馳走♪」
 美羽のこの提案は双子以外皆に受け入れられた。するなと言われた改造をした罰も含まれていたり。
「またかよぉ」
「改造しなかったら絶対にこんな事にならなかったのに」
 双子はがっくりとうなだれた。
 騒ぎ解決後に馴染みの罰ゲームは無事に実行され、彼ら以外はたっぷりと楽しんだという。