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訪れた特殊な平行世界

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訪れた特殊な平行世界

リアクション

 イルミンスール魔法学校、校長室。

「この桃のタルトもマカロンもおいしいですぅ」
 記憶素材化魔法薬で植物まみれのエリザベートはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)作の土産を美味しく頂いていた。『調理』を有するダリル作なので味は保証付き。
「そうかそれは良かった(お菓子を食べる姿は年相応の女の子だな)」
 ダリルはお菓子を頬張るエリザベートを微笑ましく眺めていた。ダリルがイルミンスールに来る度に土産を持参するのはエリザベートが幼いながらも重責の校長職を奮闘しているため少しでも気が和らげばという思いやりなのだ。
「さぁてどれにしようかなぁ。今まで色んな人と出会った事が役に立つ日が来るとは思わなかったよ。もう、1600本近くの冒険譚や出来事があるよ。軍事機密もあるから、提供は軍務以外でいいよね」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はスケジュール帳をめくりつつ自分に生えた素材の色合いを確認して込められている記憶を次々と予測していた。
「いいですよ。でも本にしたら沢山ですねぇ」
 年相応に驚くエリザベートに
「うん、数え切れないくらい。でもまずは結婚式かな」
 ルカルカは笑顔で答えるなりここ最近起きたとっておきの出来事を口にした。
 その時、
「結婚式って、マジで?」
「本当かよ」
 双子が現れた。ちなみにアーデルハイトに会った後だ。
「本当だよ。みんなに祝って貰ったしダリルの料理は大評判だし団長の祝辞はブレが無く長かったし……この一番明るいのがそうだよ。きっと」
 そう言うなりルカルカは素材に触れ予想が正しかった事を確認した。ルカルカは幸せに表情はゆるゆるである。多くの者達に祝福され、夫となる素敵な彼には深い愛を貰い何もかもが幸せでたまらない。

 ルカルカに勧められ記憶に触れた後。
「……よい式だったな」
 ダリルはしみじみ。
「おめでとうですぅ」
 エリザベートは祝いの言葉を述べ
「すげぇ、賑やかだったんだな。キスミ、これはお祝いに何か用意しなきゃな」
「そうそう、色々と遊んで貰ってるしな。渡すのは多分、これが終わってからになるけどさ」
 双子は悪戯な笑みを口元に浮かべた。
「ありがとう! でも二人は悪戯無しでお願いだよ?」
 ルカルカはエリザベートの祝辞に思わずぎゅっと抱き付きながら双子にだけは悪戯っぽく念を押した。
「当然だろ」
「オレ達に任せろって」
 双子は不満一杯に文句を垂れた。
「それが一番危険だが、ロズもいれば問題無いか」
 ダリルは双子の保護者役の存在を思い出し、圧力を加えるのをやめた。ロズはここに来る前に双子と別れて実験室の場所取り中で双子は校長への顔出し係として来たのだ。
「俺達の事はいいから」
「見せろよ」
 双子は必死に話題を変え、ダリルの記憶を見せるよう要求。
「俺か、まぁいいだろう。では、これはどうだ?」
 ダリルはルカルカの結婚式に参加した記憶を皆に勧めた。ルカルカの記憶とは違い、料理やら参謀長などに声をかけられている様子や花嫁を見送るなど裏方で活躍する様が確認出来た。
「……裏でこんな事してたんだね。ほんと、参謀長と仲いいね。ほら、お月見の時もルカがいなくなった後、二人で内緒話したんでしょ。あの時、人っぽかったよね」
 ルカルカは自分の式の裏側にびっくりすると共に参謀長含む三人で楽しんだいつぞやのお月見祭りの事を思い出していた。
「まぁな」
 ダリルはの返事は一言だけ。ルカルカの言うように彼女が席を外してからダリルは参謀長と少しだけ深刻な内緒話をしたのだった。
「何かの冗談だろ。眼力こえぇし」
 ヒスミはルカルカの最後の言葉に反応し、何度も貫かれている鋭い碧眼をにらんだ。
「それはお前らがろくな事をしないからだ」
 ダリルはぴしゃりと正論でヒスミの文句を封じた。
「……というか団長とか参謀長ってハロウィンの時にいたよな」
 キスミはルカルカ達の結婚式の様子から団長達にある心当たりが浮かぶなり
「そうそう、二人共天下無双の格好良さでしょ」
 ルカルカはきゃらきゃらと笑いながらちょっぴり自慢。
 途端、
「……」
 双子は無言。なぜならハロウィンの際、その二人に悪戯を仕掛けて逃げた事を思い出したのだ。
「安心しろ」
「心配しなくていいよ」
 ダリルとルカルカはしまった状態の双子を面白がりながら大丈夫である旨を伝えた。
「ふぅ」
 双子は深い安堵の息を吐いた。
 その時、
「ダリル、これってあの時の記憶のような気がするんだけど?」
 ルカルカが目ざとくダリルに生える心当たりがありそうな記憶を発見。
「触れるな、一応仕事中の事だ」
 ダリルは即拒否。自身でも色合いから記憶に心当たりがある模様。
「やっぱり、そうなんだね。作戦じゃないんだからいいじゃん。ヒスミ、キスミ、ぼんやりしてないで、ほらほら」
 諦めないルカルカは触れようとする手をダリルに回避されたため助っ人を呼び寄せる。
「よーし」
「面白そうだな」
 双子はいつもの説教やお仕置きのお返しとばかりに気合いたっぷりにルカルカに協力した。
 その結果、ダリルは2024年のバレンタインの模様を皆に鑑賞される事となった。

 鑑賞後。
「バレンタイン特別任務か。面白い任務だな。俺達に声かけてくれりゃ力貸したのに」
「作る手伝いならすげぇのを作ったのに」
 チョコ作製に参加出来なかった事をあからさまにがっかりする双子。
 それに対して
「どうせ、食べたら爆発するとかろくでもない悪戯付きだろう」
 ダリルは悪戯込みはお見通しだと思い知らせ
「料理上手だから悪戯無しにしたら美味しいのに」
 ルカルカは呆れていた。

 ルカルカ達の記憶鑑賞の次は
「どれでもいいぜ」
「オレ達の勇姿をたっぷりとご覧あれだ」
 双子の番となりどんと来いと胸を張っていた。
 触れて鑑賞するのはいいが
「実験成功もあるけど、ほとんど誰かに説教されてるものばっかじゃん。ルカとダリルもいたし」
 そのほとんどがお仕置きや説教であった。しかも自分達の姿もあるという。
「だろうな。俺は……」
 ダリルはヒスミの素材に触れて読み取るなり、
「幼い頃も今と変わらないようだな。両親に苦労をさせ、例の見分け当てをさせる。両親も当てられず、参った顔をしていたな。その解決に銀の腕輪か。両親の贈り物が余程嬉しかったのか貰うなりすぐに装着していたな。見分け付かぬのは変わらずだが」
 内容を口にした。今よりも随分幼い双子が地球の実家で過ごす姿を見た。今と変わらず仲が良く広い庭を駆け回ったり悪戯したりと両親を困らせていた。
「あのゲーム、ルカも挑戦した事あるけど難しいよね」
 見分け当て経験者のルカルカは肩をすくめながらぼそり。
「そりゃ、そうだ。俺達一卵性双生児だからな」
「二人の当てられなくて焦る顔を見るのが面白くてさぁ。腕輪があっても交換したら意味無いしさ」
 双子はカラカラと笑いながら言った。両親の苦労が窺い知れる。
 他にダリルが見たのは
「……ロズの事を両親に話したんだな。両親公認の保護者役か。さすがにロズの身の上については何とも言えぬ顔をしていたが」
 端末機越しにロズを紹介し双子達の家族になる記憶だった。ロズの素性から両親は何とも言えぬ様子であったが最後は受け入れていた。
「あぁ、気に入らないのはロズが真面目で安心したとか言って俺達の面倒を頼むとまで言った事だ」
「オレ達が面倒をみているのにさー」
 双子は両親の言葉に口を尖らせていた。

 最後にエリザベートの記憶鑑賞となった。
「この思い出は楽しかったですよ〜」
 エリザベートが楽しそうにルカルカに勧めるのは
「海で一緒に遊んだ時の思い出だね。海の中を探検したり砂の城でかき氷食べたり。楽しかったね♪」
 パラミタ内海にて過ごした夏の思い出であった。
「あれも確か……」
 読み取らずとも察するダリルはちろりと双子の方に鋭い視線を向けると
「……」
 双子は瞬時に目を逸らしていた。
 この後、読み取った記憶を提供してから双子は記憶食い対策のため実験室に向かいルカルカ達はこのまま記憶提供を続けた。

 事件解決から数日後のイルミンスール魔法学校前。

 双子に呼び出されダリルと共に再び訪れたルカルカは双子から小さな包みを渡された。
 包みを解き中身を確認すると
「これってオルゴール……見た目もこの三つのネジもかわいい」
 可愛らしい小さな長方形の箱が出て来た。その箱の中には愛らしい三種類のネジもあった。
「蝶が眠りを誘う曲、兎が明るめで元気になる曲、林檎が心臓が止まりそうな怖い曲」
「それぞれのネジを差し込んで回したらネジの種類に対応した魔法が込められた曲が流れる」
 ルカルカの驚きようを楽しみながら双子は贈り物の説明を行った。
 説明後、
「へぇ」
 ルカルカは早速兎のネジを差し込み回し
「本当だ。明るくて陽気でいい曲だよ♪」
 流れる兎が跳ねているような陽気な曲に思わず笑顔になった。
 ここで
「珍しくまともだな」
 ダリルが冷静なツッコミを入れてきた。
「もっとイイ感じにしようとしたらロズに止められた」
「本当なら曲だけじゃなくてもっと仕掛けを入れる予定だったんだ」
 双子は不満げに邪魔が入った事を明かした。
 ルカルカはオルゴールを持ったまま
「これで十分だよ。ありがとう!」
 満面の笑顔で礼を言うなり嬉しさのあまり双子をハグした。