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訪れた特殊な平行世界

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訪れた特殊な平行世界

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 イルミンスールの街。

「物事そう簡単に巧くいかねぇのは解っていたが、何でこう厭な予感っつか厄介な展開になるのやら……これは所謂双子補正って奴か?(何を廃棄したらあんな事になったのか関係者共へ存分に追求したい所だが、今はそんな余裕は無さそうだな。まぁ、向こうにいるグラキエス達が何か見付けるかもしれねぇが)」
 侵食が進む様子や記憶食いを見るベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は原因をよく知る故か行動を起こす前から少々お疲れ気味の様子。それでも原因明白化については少しは期待している。何せ事前にやり取りをしてグラキエス達が調薬探求会側にいると知っているので。
 隣にいるフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)はというと
「マスター、ご安心下さいませ! 皆様方の安全は勿論、赤い本さんのラールさん達が楽しく旅を続けられる為にも頑張ります」
 人助けに燃えておりやる気満々である。
「……そうだな(あれこれ考えるのは後回しだな。まずは目先の問題だ)」
 ベルクは溜息混じりながらもやるべき事は見失っていない。
「……ポチも……頼りにしておりますよ」
 ベルクに声を掛けた後、フレンディスはそろりと気を遣う様子で忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)に話しかけた。
「……お任せなのですよ……その、ご主人様、最近現場へ出向けなくてごめんなさいでした……」
 話しかけられたポチの助もどこかフレンディスを様子を窺うような感じである。
 仲良しであるはずが、ポチの助の家出で顔を合わさなかった期間があったためか互いに気まずさがあるのか話しかけづらいという微妙な距離感。
「……いえ、ポチはポチで頑張っているようですし……何より今日は来てくれて嬉しいですよ」
 フレンディスは精一杯、嬉しい気持ちを言葉にする。ポチの助が本日現場合流したのは、飼い犬稼業は辞めていないという結論に至った事と今回は悠長にツァンダからやり取りしている場合では無いほど急を要するためであった。
「……はい。あの、今迄の情報は僕の方で纏めておいたので大丈夫なのですよ。グラキエスさん達探求会側とのやりとりも僕が請け負いますのでお任せ下さい!」
 ポチの助も出来る限りで役に立ちます宣言をする。
 その様子を端から見るベルクは
「……(気まずそうだな)」
 胸中でぼそりとつぶやいていた。

 一方。
「緊急事態ですが、やはり彼らと条約を結んだのは……」
 マリナレーゼの『根回し』で合流となったヨシノは渋い顔。何せヨシノ達調薬友愛会は人道よりも好きな調薬を選んだ調薬探求会の使いっ走りのような扱いのためである。
「ヨシノちゃんの気持ちは分かるさね。シンちゃんがあたしが提示した協力条約に対する不満も。しかし、ヨシノちゃん、ここは仕方無いさ、一長一短の才能……要するに連携が取れないとこの作戦は成功しないさね」
 ヨシノの気持ちを察したマリナレーゼ・ライト(まりなれーぜ・らいと)は柔和な笑みを湛え、調薬友愛会の相談役として会長を宥め励ました。
「……そうですね。残念ながら彼らではないと調薬は難しいですし」
 ヨシノは深い溜息を吐き出す。僅かながら認めている部分ある様子。
「そうさ。だからシンちゃんも手を貸していると思うさね。調薬を楽しみながらも(シンちゃんはグラちゃん達と一緒だからおかしな事にはならないはず)」
 マリナレーゼはヨシノの肩をぽんと叩いた。胸中ではグラキエス達がいるので調薬探求会が何かやらかそうとしても大丈夫だろうと心配していない。
「本当に申し訳ありません。こんな時に不満を口にしてしまい」
 ヨシノはこう状況に弱音を吐いてはならない立場にあるのに吐き出しだめだめな事に謝った。
「気にする事ないさね。あたしは調薬友愛会の相談役、つまりヨシノちゃんの相談役でもあるから」
 マリナレーゼはまたまた励ました。
「……ありがとうございます」
 ヨシノは少し元気を取り戻したのか笑顔で礼を言った。
 こちらの会話が一段落ついた所で
「マリナ姉、もうそろそろ動いた方がいいと思うんだが……俺とフレイは自由に動ける立場だから散布でも避難誘導でも任せてくれ」
 ベルクがマリナレーゼに訊ねて来た。
「そうさね……」
 マリナレーゼは返答は用意しているが、すぐには答えずちらりとヨシノに視線を向けた。なぜなら会長であるヨシノが答えるべき事なので。
「……まずは避難誘導をしてから散布を行いたいと思いますが……」
 マリナレーゼに目で促されたヨシノはこれからの活動方針を言うが、やや情報系統に不安を見せた。
 しかし、この場には情報処理を得意とする者がいる。
 そうハイテク機器を巧みに操る忍犬ポチの助である。
「心配無用なのですよ。魔法薬の散布場所や適切な避難場所のマップも端末に入れておきました。散布完了情報が入り次第更新し、散布中の皆さんへ未散布の場所が解るようにしておけば時間と薬の無駄が無くなります」
 ポチの助はすでに『機晶脳化』で操る時間さえ無駄にする訳にはいかぬと直接ノートパソコン−POCHI−を操作出来るようにして諸々の場所については『防衛計画』で完全に把握済みである。
「情報関連は全て僕に任せるのですよ!」
 ポチの助は可愛らしく胸を張った。すっかりマリナレーゼやヨシノの補佐的立場である。
「ポチちゃん、頼むさ」
「ありがとうございます」
 マリナレーゼとヨシノはバッチリなポチの助に言った。
 そして、速やかに避難誘導が始まった。

 避難誘導開始後。
「手記で読むと実際に見るとは違うねぇ。というか、旅団の人達がどこにいるか知らないかなぁ。来ているって聞いて、会いたくってさ」
 驚いている割に呑気なユリス・カガツに遭遇した。避難するの気配が無いどころか名も無き旅団の行方を訊ねる始末。
「おいおい、会いに行ってる場合じゃねぇだろ。さっさと避難しろ」
 ベルクはマイペース成分が多いユリスの様子に呆れた。
「そうだねぇ。でも旅に加えて貰えるかどうか聞きたくて。会わないままに解決しそうだからさぁ」
 ユリスは肩をすくめながら言った。これまでに何十回と死にかけた事があるためか危機感が足りない。
 ベルクが何か言う前に
「旅にですか。それは大事なお話ですね。すぐに行方を確認してみますね」
 フレンディスが口を開いた。しかも天然故に力を貸す方向が多少ずれていたり。
 ともかくユリスのために名も無き旅団の居場所を見付けようと知っていると思われるイルミンスール魔法学校に連絡を入れようとした。
 しかし、
「????」
 連絡用の籠手型HC弐式の使い方に疑問符を浮かべるばかりのフレンディス。
 とうとう
「……えと……あの、マスター」
 ちらりとベルクに可愛らしい困った顔を向けるのだった。
「……ったく」
 恋人に縋られては無視など出来ず、ベルクは溜息を吐きながら代わりに操作をし、会話が出来るようにした。
「ありがとうございます」
 フレンディスはベルクに笑顔で礼を言ってから通話に出て確認を取った。
 その結果、
「居場所が分かりましたよ」
 フレンディスは通話を終えるなり嬉しそうにユリスに名も無き旅団の居場所を伝えた。
「ありがとう。早速、行ってみるよ〜」
 ユリスは嬉しそうに去って行く。
「行くのなら旅団の奴らに避難するように言っておいてくれ」
 ベルクは去る後ろ姿に名も無き旅団の避難誘導を託した。ユリスは了解とばかりにひらひらと手を振って応えた。
 再びフレンディス達は避難誘導に戻り調薬友愛会の手もあってか無事に完了する事が出来た。ちなみにユリスは名も無き旅団に会い共に避難し、解決後旅に同行する許可を貰ったという。

 避難完了後。
「……記憶食いか(これから薬散布で試す気はねぇが俺の場合どうなるんだろうな)」
 避難誘導を終えたベルクはふと空を見上げ、厄介なものがまだ残っている事を実感しつつ胸中であれこれ考えていた。
 その横では
「……記憶素材化魔法薬の散布をしなければなりませんね」
 ヨシノは調薬探求会に渡された記憶素材化魔法薬を取り出し
「次はこの記憶素材化魔法薬の散布さね。時間が限られているから的確に散布していかないとまずいさね。ポチちゃん、出番さ」
 マリナレーゼがポチの助に声をかけた。
 すでに事は成就しており
「ふふん、もう完璧なのですよ。この街の散布場所は……」
 ポチの助はすでに散布場所を割り出していた。実はフレンディス達が避難誘導をしている中、ポチの助は端末で散布場所を割り出したりと仕事をしていたのだ。
 しかもそれだけではなく
「ついでに他の地域における散布場所も割り出したのですよ。すぐにこの僕が指示した場所に向かわせるがいいのです」
 他の地域の街も把握して場所を割り出し、映像と『記憶術』で叩き込み済みの場所の詳細を伝えた。

「……(やはりポチが現場にいるといないとでは違いますね)」
 フレンディスは頑張るポチの助の姿に口元をゆるめて微妙な気まずさから口に出来ない嬉しさを胸中でつぶやいていた。

 ポチの助の説明を聞くなり
「はい。すぐに人を向かわせますね」
 ヨシノはすぐに仲間に連絡を入れ、散布を指示した。
 それからフレンディス達とヨシノも吸引せぬよう注意を払いながらポチの助が示した場所で次々と散布を行った。
 散布に奔走する中、
「……やはり知的生命体の一部だけはあるという事か(本当に厄介な物を生みやがって)」
 記憶食いの性質についての情報が入り、ベルクは溜息であった。
「皆さん、頑張っていますね」
 フレンディスは記憶食いと戦う者達を見て応援していた。
「こちらは避難誘導と魔法薬散布は完了したのですよ」
 ポチの助はグラキエスにこちらの状況を報告すると共にこれから記憶食い消滅薬に取り掛かる向こうの状況情報も得た。

 その後、記憶食い消滅薬完成の情報がフレンディス達の元にも入り、同時に廃棄者不明の廃棄物の正体も判明した。
 当然
「……廃棄者不明の廃棄物は予想取りか……」
 ベルクは予想通りの結果に何の驚きも無かった。
「……この騒ぎの原因の一つという事ですか……何て事を」
 ヨシノは調薬探求会にあからさまに嫌な顔をしていた。当然と言えば当然だが。
「確かにそうだけど、原因が判明して良かったさ。これで薬の製作もきっと進むさね」
 マリナレーゼはまた緊急時協力条約を結ばせた者としてヨシノを宥めていた。
 この後、いっそうヨシノは活動に力を入れ、フレンディス達は完璧なまでにサポートをした。