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壊獣へ至る系譜:その先を夢見る者 後編

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壊獣へ至る系譜:その先を夢見る者 後編

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■ エピローグ ■



 シェリーは舞花とジブリールを側に置いて、フレンディス、ベルクが見守る中、なんとか泣き止んだ。
「嫌だわ、もう恥ずかしい」
 冷静さを取り戻し赤くなるシェリーに舞花は更に宥め、ジブリールは大丈夫だよと伝えている。
「いつか話さないとならない日が来るな……」
 少なくともシェリーには。少女は色々と詳細はわからなくても察している部分があるし、今回の事を含めれば、いつかはと、破名はその光景を眺め思い、ふと視界に入った人物に気づいた。
「そう言えば、人を捕まえて快楽主義とか言っていたな」
「……そうだね」
 破名の眼差しを受けて、そう言えばそんなことも(テレパシーで)囁いていたなと天音は思い出す。
「幸福主義の一種とは良く言ったものだが、随分と勘違いされたものだな」
「違うの?」
「世には、ただそれだけで得られる至福というものがある。俺が欲し求めているのはそっちだ。快楽なんて肉欲など一時の夢でしか無い」
 軽口にもならない、戯言に似た、煙に巻く言い方。
 系譜にはそれがあったから――否、むしろ、それが存在意義にも等しく、だからこそ今尚破名は賛同し道具であることを受け入れ良しとし委(ゆだ)ねているのだ。
 にやりと笑い、言葉選びに断言されてこれは戯れか何かかと天音は、表情の読み取れない微笑みで返した。
 そして、完了だと作業の終了を告げ、そのまま気を失った破名を目撃する。
「なんてことですの、帰ってきて早々気絶してますわ!」
 咄嗟に腕を伸ばし破名の肩を掴んで支えた天音は聞こえてきた声にそちら見遣った。
 異変に気づいた院の子供達がらわらわらとやってきて、あっという間に天音の手から破名を受け取り、孤児院へと戻っていく。
「俺が診てこよう」
「心配には及びません」
 駆け出そうとしたダリルは足を止めキリハに振り返る。
「大丈夫、なの? ダリルに診てもらったほうがよくない? 血だって……」
「子供達が騒いでいなかったでしょう?」
 聞くルカルカにキリハは頭を振った。
 何回何十回と同じシーンに出くわしている子供達がいつもと同じ反応をしているということは、異常が無いということだ。子供というのは敏感なもので、こういう時一種のバロメータとなってくれる。
「ならいいんだけど、ちょっとでもおかしかったらダリルに言ってね!」
「人を何だと思っている」
 勝手に話を進めてと聞き咎めるダリルにルカルカは首を傾げた。
「診ないの?」
「診るが」
「じゃぁ、いいじゃない」
 あっけらかんとしたルカルカにダリルは軽く肩を竦めた。
「ねぇ、キリハ、本当に大丈夫なの?」
 心配と聞いてくるエースにキリハは頷く。
「死んだりはしませんよ」
「そういう意味ではなくてね。再起動の影響は無いのかね?」
 きっぱりと言い切る魔導書にメシエは苦笑した。
「そうですね。あるかないかで答えるなら、あると思いますよ」
「キリハ」
「ラグランツ。冷たい言い方かもしれませんが、あの人をどうこう出来る人間と技術がこの時代に無いのは事実なんです。妹でさえ悪戯にボタンを押すだけのままごとの様なもので、根本的な改変は出来ないでしょう」
「どうにもできないものなのかい?」
 メシエに、「はい」とキリハは答える。
「状況さえ揃ってしまえば簡単に全てを捨ててしまえる人ですが、でも、大丈夫だと思います」
 エースに向かって、キリハはいつもと同じ真面目な表情でまっすぐと彼を見つめ、
「連れ戻して下さる方がいらっしゃいますから。そうでしょう、ラグランツ?」
 問うた。
 「美羽ー」と叫ばれて美羽はそちらを向く。
「来てたんだな。一緒に遊ぼうぜ!」
 破名を運び終えて戻ってきた男の子が、駆け寄って来て、美羽とベアトリーチェと側にいた大鋸を誘う。
「軍人さん?」
 首を傾げた少女がトマスに問いかけて、
「こっちは忍者さん?」
 反対側の唯斗を指さしてやはり疑問を口にし、にっこりと笑った。
「こんにちは、初めましてー」
 そして、歓迎する。
「朋美さん、トメさん、お久しぶりです」
 いつかの誕生日会を覚えていた子等が朋美達に声を揃えて呼びかけて、手遊びを教えて欲しいとねだった。
「かつみー椅子壊れたー」
「はぁ?」
「やってーやってー」
 どんな使い方をしたら補強補修した家具が壊れるんだと呆れるかつみを子供達は直して欲しいと四人全員を院へと引っ張っていく。
「おっきー」
「大きいねぇ」
「でもこっちは小さいよー」
「ほんとー」
 数人の幼子に囲まれて、コアとラブの周りはきゃいきゃいと賑やかなことこの上ない。
 陽一の前を立ちはだかるように陣取っているのは最年少である獣人のフェオルだ。
「何?」
「マフラー、あっつくない?」
 幼女は陽一のマフラーが気になっているらしい。
「お久しぶりですわアニス様!」
 赤髪のヴァルキリーの少女ヴェラが人の多さに隠れる彼女を目敏く発見する。
「アニス様のサンドイッチが忘れられないのですわ!」
 作って欲しいと、主張の激しいヴェラのお願いに「バーベキューやろーぜー」と男子が騒ぎ出した。
 そして、それに反応したのはセレンフィリティである。
「なにー、食いしん坊ばっかりなの?」
「肉ー、肉ー!」
「いいわねー」
 同意するセレンフィリティにセレアナが「え」と小さく声を上げる。
 腹減ったコールが聞こえ始めるのも時間の問題かもしれない。
「シェリエ」
「なに?」
「あ……いや、なんでもない」
「そう?」
「うん」
 フェイはシェリエと二人荒野の景色を眺めていた。
 ただ、二人。
(……私は、幸せにはなれない。
 そうわかっていてもいつか『答え』は出す)
 フェイは目を閉じた。
(だけど、それはもう少し先の話だ)
 今は、まだ――。



 此処で立ち話もなんだからと契約者達は孤児院へと子供達に誘われて行く。
 その様子を眺め、キリハは空を見仰いだ。
 荒野の空は焼けるほどにも暑く、どこまでも青く晴れている。