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ロウソク一本頂戴な!

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ロウソク一本頂戴な!
ロウソク一本頂戴な! ロウソク一本頂戴な!

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■ 3日目(3) ■



 空京、とあるマンションの一室。

竹に短冊七夕祭り 多いは嫌よ ローソク一本頂戴なー くれなきゃ顔をかっちゃくぞー

 先に開けておいた玄関から聞こえてきた囃子唄に綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)を呼び、来客達の出迎えに行く。
「ろうそくが欲しいの?」
 横二列に並び大人しく待っている子供達にさゆみは用意して玄関に置いていた箱を両手で持ち上げた。
「はい、これあげるね」
 蓋を開けて、二本ワンセットに透明セロファンで包まれたロウソクを取り出し、さゆみは子供達に手渡していく。
「ロウソクだ……」
「お菓子じゃない」
 今までどこを巡って来たのか、膨らんだカバンをさすり、子供達は戸惑った。
「さゆみ……もう、やめてさしあげましょう」
 一人ひとりの表情を確かめて口元を緩めるさゆみをアデリーヌは窘める。そして、子供達に本物と間違わないようにとアデリーヌがこっそりつけた印があるからと指さす。
「それはさゆみが作ったロウソク風のホワイトチョコですわ。安心なさって」
 ロウソクではないと確認して、「さゆみー」と子供達は口々に、イタズラ犯の名前を呼ぶ。期待通りの反応に、堪らず笑ったさゆみ。たったそれだけだったが、男の子達が、口を噤む。
 アデリーヌと二人ユニットを組み、人気アイドルとして忙しく活動するさゆみが住むマンションは大学生が借りるにはやや高い部類で、品よく、整然とし、清潔感に満ちている。
 生活感に満ちている院とは全く違った内装を背景にしたさゆみ、アデリーヌの、浴衣姿は、男の子達の目にどう映ったのだろうか。
 同じ意匠、同じデザインのお揃いの浴衣。
 ただ、さゆみは愛らしく、アデリーヌは大人っぽい。着付けは一緒でも、着用者が違えば見栄えは全く異なって人の目に映(は)えた。
 色っぽさを理解できない子供達でも、いつもと違う雰囲気に、はふぅ、と溜息を吐く。
「ごめんね。連絡してもらったのは大分前なのに、準備に手間取っちゃって。もう少し子供向けでもよかったかしら」
「そんなことないわ。大学生は忙しいと聞いていたもの。招待してくれてうれしいの。ありがとう」
 大学を見学した時の事を思い出してシェリーはさゆみに、自分達の為に時間を割いてくれて嬉しいと感謝する。
 どうせだから少し休んで行ってと、招き入れる。
 綺麗なお部屋だから汚さないようにと注意があちこちで飛ぶ中、
「さゆみー、あでりーぬー、これお菓子?」
 目がいいのか鼻がいいのか、固定された笹にぶら下がる飾りがただの飾りでないことに子供達が気づき群がっている。
「やっぱり発見されたかー。アデリーヌが作ったんだよ。いいでしょ?」
「うん。可愛いし、きれい。見てるだけで美味しそう!」
「ありがとうございますですわ。お好きなのを取って」
「とっていーのー?」
「ええ」
 その為に笹の低い、子供達の手の届く範囲に飾りつけたのだ。
 貰うばかりじゃなく、見て選ぶ楽しさを与えたかった。
「ねぇ、さゆみ、これ……」
「ああ、うん。それね。まだどのフレームにしようか迷っていて……」
 飾られた幸せを見つけたシェリーにさゆみは頷く。
 七夕の打診は一ヶ月前からされてわかっていたのに、準備がギリギリだったのは学生の本業たる学業やアイドル活動もさることながら、『それ』に費やす時間が非常にかかったからだった。
「じゃぁ、今さゆみは幸せなの?」
「そうね」
「おめでとう、素敵ね」
「ありがとう」
 白いドレス姿は、シェリーもこの上なく憧れている。
 歌姫二人と楽しく囃子唄を歌い、遊んだ子供達は次の目的地を目指す。
 次はちょっとパラミタを離れる事になった。



…※…※…※…




 ニルヴァーナ、某所。
 空京島南西の孤島ゴアドーの回廊空港から回廊(ワープゲート)を通って降り立った地は、明らかに空気が違った。
 それでも、子供達は全く臆さない。
 お菓子の為ならば宇宙さえ飛び越える。

竹に短冊七夕祭り 多いは嫌よ ローソク一本頂戴なー くれなきゃ顔をかっちゃくぞー

「む……ロウソクが必要なのか?」
 囃子唄に、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は困惑に唸る。
 玄関を開けたら大勢が並んでいたので、ちょっと驚いた。
「確かに地下にあったと思うが……何? ロウソクが欲しい訳ではないのか?」
「あれ? キリハじゃん。って、あー、ちょっと、ちょっと待っててね!」
 開け放たれた玄関から見えた知り合いにラブ・リトル(らぶ・りとる)は今日は何の日で何の予定が入っていたのかを思い出した。
 投げ出したままの買い物袋に手を突っ込み飴袋を引っ掴むと玄関へとすっ飛んでいく。
「はい! コゾーども! あたしがアメちゃんあげるわよ〜♪」
 言って、袋を開封し、個別包装された飴を数個ずつ手渡していく。小さな手から手渡される飴に順番待ちの子供達の態度は大人しいものだ。
「ラブ?」
「……何? ハーティオン。あたしが忘れてたなんて訳ないでしょ!
 と、とーぜん今日来るって話もちゃーんと覚えてたわよ♪」
 先程食べるつもりで新たに飴を購入していてよかったと胸を撫で下ろすラブは、パートナーに向かって笑顔で取り繕う。
「すみません。迷惑でしたか? リトルが住所は此処と教えていただけたのでつい甘えてしまったのですけど」
「そんなことはない。キリハ。 ……と、君はクロフォードか。よく来てくれた。歓迎する」
 食に対し興味の無いコアはおやつを常備する考えを持っておらず、むしろ、飴玉一つで済むことに、持ち合わせがないと断らずに済んで安心する。
「ふむ。しかし、遥々と此処まで来てくれたんだ、飴だけでは寂しいだろう。
 そうだ、皆でニルヴァーナの地を歩くのはどうだろうか?」
 勿論危険な場所は避けて。
「この『アディティラーヤ宮殿都市』周辺もずいぶん賑やかになってきた事だし、何かおいしいものもあるかもしれんからな」
「美味しいもの!」
「お! 外に遊びに行くとかいい事いうわね!
 よーし、皆でおいしいもの食べに行くわよ〜♪」
「おーー!!」
 そうと決まれば即行動だ。
 創世学園都市から鉄道で繋がっているアディティラーヤ。
 中央の宮殿を中心に、観光都市・優美な別荘地として大変賑わっている。
 散策としてただ歩くだけでもきっと良い思い出になる。なにせ、空に飛び出したのだ。
 星も近い。多分。



 ラブを先頭に歩く子供達の後ろ姿を眺め、ふと、コアは隣りにいる破名へと視線を落とした。
「……クロフォード」
「なんだ?」
 名前を呼び話をするのは今日が初めてだなとコアは気づく。
「そのコーズは力はもう誰にも利用される事は無いのだろうか?」
「力?」
「そう。前のような……」
「……古代文字『系図』の事か」
 コアは、それだ、と頷き、ぽつりと零す。
「私は詳細は知らないが、コーズのその後が……竜は静かに眠ることができたのだろうか」
 気にかかるのはただひとつ。
 安らぎに穏やかでいるだろうか。
「コーズは、最後に解放された」
 破名は前を向いている。その表情は身長差でコアには良く見えなかった。
「解放された場合、俺達は手が出せない。少なくとも『壊獣』研究関連で利用されることは二度と無い」
「では……穏やかに」
「穏やかに静かに、誰にも邪魔されない場所で、眠っている」
「そうか、ならば良かった」
 言って、笑ったコアはそのまま子供達に視線を戻した。
「地球では」と、破名が続ける。
「花を持って参ることがあると聞く」
「クロフォード……それは」
「共に騒いでは良く叱られた。賑やかなことが好きな奴だったから……歓迎してくれると思う」
「友だったのか?」
「単なる話し相手だ」
 一度会いに来ないかと、コアを誘った。