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寝苦しい夏の快眠法

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寝苦しい夏の快眠法
寝苦しい夏の快眠法 寝苦しい夏の快眠法

リアクション

「折角ですから舞花がくれた夢札を使って豪華列車での旅行を楽しんでみましょう。舞花も一緒にどうですか?」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)御神楽 舞花(みかぐら・まいか)から貰った夢札を妻に渡しながら舞花を誘った。
「是非(折角ですから陽太様達をあのお二人にも会わせてあげたいですね)」
 舞花は自分の手にある夢札を見ながら鉄道の旅を神楽夫婦とは別タイプんがら仲の良いとある幽霊夫婦と過ごす事を追加で考えていた。ちなみに舞花が夢札を求めたのは御神楽夫婦の分だけだったが、双子にお前も楽しめと渡されたため三枚目の夢札を持っていたのだ。
 ともかく陽太達は夢札でぐっすりと眠り夢へ旅立った。

 ■■■

 豪華な魔列車、個室。

「現実ではツァンダとヴァイシャリー間の路線開通は取りかかり中ですが、開通するとこのような感じになるんですね」
 ツァンダから出発した列車はシャンバラ大荒野横断中で舞花は車窓を見ながら現実の未来となる夢を楽しみつつ開通への意欲を高めていた。なぜなら現在子育てに奮闘中の御神楽夫妻に代わり他の仲間と共に忙しくしているのだ。
「そうね。図面や計画書であれこれ想像するより夢とは言え実際に乗ってみるとまた違うわね」
 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)も舞花と同じ気持ちで立派な車内を見回していた。現実ではこの夢を実現しようとカゲノ鉄道会社などで尽力中である。
「ここでの体験を今後の現実世界での鉄道事業の近い将来的成果のヴィジョンとして活用しましょう」
 陽太も引き締まった表情で二人を見るや仕事関係の発言。
「はい」
 舞花は力強くうなずいた。
「……今度は……現実では陽菜(ひな)にも楽しんで貰いたいですね」
 仕事云々が終わると陽太は表情を崩しまだまだ幼い娘の事を思い出した。娘には夢ではなく現実に開通した鉄道を楽しんで欲しいと。
「そうね。その時これが私達が成した物だと誇りを持ってあの子に言えるように頑張らないとね。まだまだ小さいけど子供は親の背中を見て育つって言うもの」
 陽太と同じ気持ちの環菜は娘が大きくなった時誇りに思える両親でありたいと思っていた。
 そして
「……お喋りよりも早くカード引いて頂戴。陽太の番よ」
 環菜は手に持つカードを陽太の前に出し、引くよう急かした。先程から三人でカードゲームに興じていたのだ。
「あぁ、そうでした」
 陽太は思い出したように環菜からカードを引き、手持ちの同数字のカードと共に出した。
「……」
 舞花は微笑ましげに御神楽夫妻のやり取りを見守っていた。
 この後、流れる風景や様々な話題で楽しく会話したり車内を歩き回り他の旅行客と会話に興じてから食事をするため食堂車に移動した。

 食堂車の入り口。

「……あれは……お久しぶりです。鉄道旅行ですか?」
 舞花は入り口に見知った青白く半透明の上品な老夫婦、ウルバス夫妻を発見するなり親しげに声をかけた。
「えぇ、そうよ……あら、あなたは、お久しぶりね」
 質問に返答しつつ振り向いたハナエは声の主が見知った舞花と知るなり嬉しそうに挨拶を返した。舞花とは夫の頭が行方不明なった時や古城での知人救済の件で関わったのだ。
「ゴンドラや会いたい人にも会ったから次はと思って……流れる美しい景色に楽しそうな旅行客、弾む会話……鉄道旅行は素敵ねぇ」
 無愛想な夫ヴァルドーをちらりと見てからハナエは満喫中である事を話した。
「そうですか。楽しんで頂けて嬉しいです」
 舞花の言葉は一般客と言うより鉄道関連者のようであった。
「……この鉄道の関係者か。確か……カゲノ鉄道会社だったか」
 舞花の口振りから関係者の可能性に気付いたヴァルドーは舞花や後ろの御神楽夫妻を見やった。
「そうです。それで実際に体験しようと旅行の最中なんです。陽太様、環菜様、こちらは……」
 舞花はヴァルドーの勘は確かであるとうなずき、御神楽夫妻にウルバス夫妻を紹介した。
「話は舞花から聞きましたよ。俺は御神楽陽太でこちらは妻の……」
「御神楽環菜。よろしく」
 ウルバス夫妻の事情を知る陽太と環菜は改めて名乗った。
「えぇ、よろしく」
「あぁ」
 ハナエは愛想良くヴァルドーは言葉少なに挨拶を返した。
「この人もこう見えて楽しんでのよ。乗車早々ちゃっかり窓際に座って景色を楽しんでいるんだから」
 ハナエはちらりと旦那を見るなり余計な事を口走った。
「……騒々しい。ここで立ち話は他の乗客の迷惑になる」
 自分の気持ちを口にするのが苦手なヴァルドーにとって妻の口からばらされるのは堪ったものでは無いらしく不機嫌な口調でハナエに言い放ってから食堂車に入って行った。
「あなた……全く少しは愛想を見せてくれてもいいのに」
 ハナエはヴァルドーの後ろ姿に溜息をぶつけるもそこには親愛がこもっていた。何やかんや言いながらも共に旅行をする事を楽しんでいるのだ。
「あの、よろしかったら食事ご一緒しませんか(幽霊ですが、ここは夢の中ですから大丈夫ですよね。周囲の人達も見えているみたいですし)」
 舞花は折角だからと食事に誘った。
「えぇ、是非」
 ハナエは即了承した。
 そのため、舞花と御神楽夫妻とウルバス夫妻は相席して食事を楽しむ事にした。

 食堂車内。

「鉄道開通なんて凄いわ。おかげで楽しませて貰っているわ」
 ハナエは食事をしつつ車窓に広がる風光明媚なヴァイシャリーの風景を楽しみながら言った。隣のヴァルドーは耳を傾けながら黙々と食している。
「そう言って頂けると嬉しいです(この美味しい名物料理も今後に活かしたいですね)」
 陽太も食事をしながら言った。胸中では舌鼓を打つ名物料理も現実の事業に取り入れようと記憶に刻みつけていた。
「舞花から色んな所を旅行していると聞いたけど、例えばどんな所に?」
 環菜が何気なく話を振った。
「そうね……」
 ハナエはこれまで訪れた場所を次々と列挙し、そこで経験した出来事を語った。所々幽霊ならではの事もあったり。
「それはすごいですね(普通に食べたり飲んだり周囲にも見えているみたいですね。さすが夢です)」
 舞花は相槌を打ちつつ普通に食事をするウルバス夫妻にここが夢だと気付かされるばかり。
「そう言えば、前にパラミタが凄い事になっていたけれど、何か起きたのかしら? イルミンスールで何か事件が起きたとか」
 ふとハナエは気になる騒ぎ、正体不明の魔術師や特殊な平行世界、特別なレシピなど大事になった騒ぎについて口にした。
「あぁ、それは……」
 全てに関わり事件解決に尽力した舞花は当事者の一人として事細かに事件発生から解決までを語った。

 事情を知った後。
「……ふむ」
 ヴァルドーは喉を潤しながら適当にうなずき
「まぁ、そんな事が。あの古城で起きた事が大事に関係しているとは思わなかったわ。私が様子を見に行こうとしたらこの人が止めたものだから詳しくは知らなくて。でも解決したみたいで良かったわ」
 意図せず正体不明な魔術師の件に関わった事がある者としてハナエは思いっきり解決した事を喜んだ。
「……見に行こうとしたんですか」
 事件時の有様を知る舞花が聞き返した。
「えぇ、見ての通り幽霊だから大丈夫だろうと、でも……」
 ハナエはちらりと旦那の横顔を盗み見ながら言葉を濁した。
「心配したヴァルドーさんが止めたんですね」
 二人を知る舞花はハナエが濁した先の言葉を知り、ヴァルドーの方を見た。
「……これはいつも周りに迷惑を掛けるからな」
 ヴァルドーは淡々と言うなり照れ隠しなのか舞花とハナエとは目を合わせず食事を続ける。相変わらず妻の名前を呼ぶ事はほとんど無いようだ。しかし、その様子から舞花の発言が正解であった事が伺える。
「……(仲が良いのねぇ)」
「……(死んでも仲睦まじいとは……俺も環菜といつまでも……と言っても今は陽菜もいるから死ぬわけにいきませんが)」
 環菜と陽太はウルバス夫妻の仲睦まじい様子を微笑ましそうに見ていた。

 会話は弾みに弾み、話は御神楽夫妻の愛娘の事に至った。
「まぁ、娘さんがいるの。羨ましいわ。ほら、私達、子供をもうける事が出来なかったから。写真か何かあるなら見せてくれないかしら」
 ちらりと相変わらずの無愛想な旦那を見やってから羨ましさと興味を見せた。
「……写真ですか……(夢の中ですから写真くらいどこかにあるはずですよね)」
 陽太は折角だから写真を見せようとポケットを探り、携帯電話を発見して夢なら一枚くらい娘が写っている写真があるはずだと期待しながら携帯電話の写真データを探った。
 そして
「……この子です。陽菜と言います。俺と妻の名前からそれぞれ一字ずつ取ったんです」
 ここが夢のためか陽太の思った通り写真が入っていた。陽菜の写真を画面に表示してから携帯電話をハナエに渡して名前と名付けの経緯を話した。
「……陽菜ちゃん、可愛い名前ね。ほら、あなた、可愛いわよ」
 可愛らしい陽菜の姿に笑みを浮かべたハナエはこの感動を共有しようと夫にも写真を見せる。
「…………そうだな」
 見たヴァルドーは予想通り素っ気ないものだったが、ハナエと同じ気持ちなのは周囲には明白である。
「見せてくれてありがとう」
 ハナエは礼を言って携帯電話を陽太に返却し
「いいえ、こちらこそ」
 陽太は笑顔で受け取った携帯電話を片付けた。
「成長が楽しみねぇ」
 ハナエが言うと
「毎日とても大変ですが、成長を見守るのが楽しくて」
「いつか私達が開通させた鉄道で旅行をさせたいと思っているわ」
 陽太と環菜は父親と母親の顔で楽しそうに答えた。
「……」
 舞花は楽しそうに二組の夫婦を眺めながら食事を続けた。
 食事終了後、ウルバス夫妻と他愛の無い話をしてしばらく過ごしたり今後の鉄道事業のための調査もした。
 車窓の景色は森を抜けてザンスカールへと無事に到着した。

 ■■■

 覚醒後。
「……素敵な夢でしたね。以前、舞花から聞いた夫妻にも会えましたし」
「はい、とても素敵な夢でしたね。何より鉄道事業について良い参考にもなりますね」
 陽太と舞花はそれぞれ見た夢に満足し、鉄道事業に活用しようと思った。