校長室
寝苦しい夏の快眠法
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研究室。 「それであの騒ぎの後、お前はどうしていたんだ?」 ヒスミ老は特殊な平行世界が訪れた後の事を訊ねた。 「それは……」 ロズは自分が原因の正体不明の魔術師の騒ぎと特殊な平行世界や特別なレシピなどの騒ぎについて話した。時々同席した皆が補足を入れた。 話の最後に 「ここにいる者達やここにいない者達に力を貸して貰い解決をした。本来ならば原因である自分が解決するべき事だが」 ロズはここにいる皆の顔を見回してから言った。この場にいる皆どの事件にも関わった当事者達である。 「それだけなく迷う自分を励まし導いてくれた……一人ではどうにもならなかっただろう……」 ロズは騒ぎ後、自分の悩みに耳を傾け励ましてくれた事を伝え、皆の顔を見回した。 「ロズ、それはちっとばかり大袈裟だ」 ベルクは少々大仰なロズの言葉に思わず苦笑。 「そうさ。最終的にどうするか決めたのはロズだ。俺達はただ言葉をかけただけで何もしてはいない」 陽一もまたベルクと同じようにただ当たり前の事をしただけという体で言った。 しかし 「……何にしろ。彼を助けてくれたのは事実だ。ありがとう」 ヒスミ老は頭を下げて皆に感謝を示した。 ここで 「皆さん、お茶やお菓子はいかがですか?」 エオリアが登場。 「おっ、待ってました!」 「夢でも美味しい味は再現してるんだろうな」 エオリアの料理の腕を知る双子が手を叩いて歓迎。 「それは食べてからのお楽しみです。アイスも用意しましたのでこれで少し涼むと良いですよ」 エオリアはにこにこしながら双子の前に台所で発見したペアのティーカップとアイスを渡してから皆の分を渡したりお菓子をテーブルに置いた。 「やっぱり美味しいな……というかこのカップ見覚えがあるぞ」 「だな。オレ達が入学祝いに貰った奴にそっくりだ」 双子はアイスやエオリア作のお菓子を食べながら見知ったティーカップに不思議そうに言葉を洩らした。 「……そっくりというと」 ベルクがヒスミ老の答えを促す横では 「……どれもこれも美味しいですね」 食いしん坊のフレンディスが美味しくお菓子を食べながら仕事をしていた。 「あぁ、イルミンスール魔法学校への入学祝いに両親に貰った物だ」 ヒスミ老が双子の手にあるティーカップを懐かしむ目で見ていた。 「……思い出話で話していたな」 ロズは水槽で聞いた話を思い出していた。 「……(それで夢に出て来たのですね。いくら夢とは言え記憶にないものは出て来ませんからね)」 エオリアは双子の手にあるティーカップを見やり得心した。 「じーさんになっても大事にしてるんだな」 「まぁ、オレ達も大事にするつもりだけど」 双子は手元のティーカップを通して自分の物を想像していた。 「……あぁ、大切な物だからな。今では使うのは一つだが」 ヒスミ老は目に切なげな光を横切らせながら悔恨満ちる声音で言った。 ふと 「……彼の事を知っているという事は何もかも知っているという事かな」 ヒスミ老はロズに軽く視線を向けてから皆に訊ねた。 「……あぁ、そうだ。ここにいる皆知っている。お前の身にどんな辛い事があったのか」 シリウスが代表して答えた。 「……それじゃ何も言う必要は無いな」 ヒスミ老は黙した。彼にとって悲しい出来事のため出来たら話したくないのだろう。 それを皆感じ取り 「ほらほら、盛り上げるのが得意な二人の出番じゃないか」 エースが明るい調子で双子に話を振った。 「俺の事か?」 「オレの事か?」 さすが双子、発する言葉が完全にハモった。 「そうさ。彼は平行世界とは君達の本人だったり兄弟なんだからさ。しかも人生の先輩なんだからきっと良い勉強になると思うよ?(ヒスミ老のこれまでの経験が、双子達に無茶するのは面白いばかりじゃないと考えるきっかけになれば以前の悲しい出来事も全く無駄にはならないはずだ。同様の事故が起こらない未来を双子達に歩んで欲しいからね)」 エースは双子の未来が良い物であればと願っていた。いつもは悪さをする双子に巻き込まれて呆れてばかりだが。 「と言ってもなぁ。俺は衝撃だな。何せ未来を見てるんだからさ」 ヒスミは平行世界とはいえ自身の未来の姿を目の前にして複雑な心境。 「それを言ったらオレなんか……」 キスミに至っては故人という悲し過ぎる未来なのでさらに複雑な心境である。 「凄いものを沢山発明したりしましたか?」 フレンディスは目を輝かせながらヒスミ老に訊ねた。 「あぁ、散々して周りに迷惑を掛けまくったな。それはきっとその二人と同じさ。賑やかにやっているんだう?」 ヒスミ老は遠い目で過去を思い出してからまだ若い双子に視線を向け、悪戯っ子のような顔をして訊ねた。 「まぁな……というか変な感じだな」 自分に訊ねられておかしな感じがしながら答えるヒスミと 「あぁ、楽しくやってるぜ。ただ、そいつの監視がねぇ」 キスミはちらりと親公認の保護者役のロズの方を見た。 「あぁ、確か二人のそばに居ると話していたな。本当に苦労をかけるな」 ヒスミ老は先程ロズと皆が語った事件から今日までの話を思い出すなりロズに声をかけた。苦笑混じりに。 「確かに苦労はあるが、悪くは無い」 ロズは一言。嫌そうな様子は一つも見られなかった。 ロズの答えに嬉しそうに微笑んでからヒスミ老は 「いつも大切だと思っていたし互いにそう感じている事も知っていたが、本当にそれを実感したのは失ってからだった。何をやるにも一人だけでは面白くなかった。自分がしでかした事を思い知らされ後悔ばかりしていた……この歳になっても何度も繰り返す。自分のせいだと……キスミは俺を庇って死んだ……俺があの時の実験の指揮をしていなければ、キスミの制止を聞き入れていればと……かなり昔の事なのに昨日の事のように思い出す……愚かさはかならずいつかは報いを受けるみたいな」 悲しげにキスミを失った時の絶望と後悔を思い出し語った。 「……」 双子は沈黙するしかなかった。 そんな双子とロズを見て 「……(今回の経験が三人が自分達の今やこれからの事を考えるきっかけや自分の気持ちを整理する一助になったらいいが……しかし、今回俺はかける言葉がないような気がするな)」 陽一は静かに双子の成長とロズの幸せを願った。 「……心配するな。俺達の世界ではこうして幸せにやっている。だから安心するこった」 ベルクはヒスミ老の後悔の念を拭い去ろうと励ました。 「……ありがとう。平行世界でも元気な姿を見られて良かった。何より……」 ヒスミ老はベルクの言葉に僅かに表情を明るくし礼を言うなり視線を双子からロズに向けた。 「お前の元気な姿が……幸せそうな姿が見られて良かった。あいつを俺のせいで失ってから寂しさと後悔といない現実を見るのを恐れてお前を作った……キスミの代わりに……それはお前には失礼な事なのにな……お前を目の前にした今そう思う。お前はお前でキスミじゃないと、キスミは俺の記憶の中にいるのに……お前には」 ヒスミ老はじっとロズを見つめつつ片割れを自分のせいで失い気が触れたかと思うほど悲しんだ青年時代には考えが及ばなかった事を口にした。随分歳を取ったおかげで多少の落ち着きを得たため考える事が出来るのだろう。 「……謝る事はない。今はこうして彼らのそばで暮らせてよかったと思っている」 水槽で聞いたり自身で考えたりで何もかも分かっていたロズはヒスミ老の気持ちも分かるため一切責めず、唯双子のそばにいられる事に感謝するばかり。 「……ロズ」 双子は感慨深くヒスミ老とやり取りする保護者の名をつぶやいた。 その時、 「ロス? お前の名前か?」 聞き慣れない名前にヒスミ老は首を傾げた。事件云々の話では省いたので。 「あぁ、苗字のロズフェルから取った。名前を聞く前にあれが来て聞けず終いだったが本当の名前は何だ?」 ロズはここにいる当事者に語った事を話してから製作者に訊ねた。事件がなければつけられたはずだった名前を。 「何だと思う?」 ヒスミ老は悪戯な笑みでロズだけでなく集まった皆にも訊ねた。 ここで真っ先に 「つけられようとしてた名前、な。弟ってことはキスミ……キスとかスミィとか……なんか女の子っぽくなっちゃったな(もしかして本当は女の子型の予定だったりとか……それはないか。さすがに……)」 シリウスが反応した。胸中でさらに思考し双子をちらりと見て有り得ないと切り捨てた。 最後に 「しかし、キスミを失ってとなったら……」 シリウスはロズを見て考えの最初に戻る。 それは 「……キスミか……」 ロズが発した。弟の名前である。この場にいる皆が予想しただろう名前。 「それでどうなんですか?」 フレンディスが興味津々で訊ねた。 「そうだな。お前を作り始めた時はそのつもりだったが、お前とこうして話してからだとお前はロズだよ……お前の見た目はあいつが死んだ時と同じ姿だが、お前はお前で俺の兄弟には成り得ないからな。俺の大事な兄弟はやっぱりあいつ……キスミしかいないから。お前には厳しい事だが……お前の事は嫌ってはいないから、大事な存在だと思っている」 ヒスミ老は真っ直ぐにロズを見つめたままロズ作製の間に抱いた悲しみ、後悔、期待、喜びなどの感情を思い出しながら答えた。始めてから長い時間を得て考えも変化したのだろう。人の気持ちなんぞ移ろうものだから。 「……そうか(ここは夢で自分の知る彼がここで形を持って存在しているだけで……名前の事を含めて言った事全てが本物の彼が発する言葉とは限らないが)」 ロズはうなずく横でこれは自分の理想の答えなのかもしれないと思ったり。 「……大変だったんだな(しかし、みんな色々背負って生まれてくるんだよな……オレも自分の生まれとか、ちょっと調べてみたくなってきたなぁ)」 シリウスはよく知る悪ガキとは割とかけ離れたヒスミ老の様子に思わず苦笑しつつロズ達に刺激されたのだろうか少しばかり自分自身に興味を持ったり。 ここで 「重い話はここまでにして少し賑やかにしませんか?」 話題を変えようとエオリアが言葉を挟んだ。 「そうそう、お互いに色々バカやった事が良い思い出になっている事を話すのはどうかな……(ヒスミ老も若い時の自分と話をしたら、気分が若返って少しは気晴らしになるだろうし。夢とはいえ)」 エースも言葉を継いで場を賑やかにしようとする。 「そうですよ。例えば、今も悪戯好きなのかどうか」 エオリアは興味で訊ね 「その話は聞きたいかも」 ジブリールも少しばかり興味を示した。 それを聞くなり 「悪戯は自分にとって呼吸に等しいものだから続けているよ。ただ、あの時からやり過ぎないようには気を付けているが。そのせいでキスミを失ったからな。二度と起こさないようにと……ロズの事を始めてからはそっちに力を注いだから回数は減ったが」 ヒスミ老は水槽でまどろむロズに語った話をした。 「……もう悪戯の達人ですね」 感心するエオリアに 「そりゃ、そこの二人とは年季が違うからね」 ヒスミ老は少年時代と変わらぬ悪戯な笑みを湛え、年若い双子に顔を向けた。 「おお、達人か。さすが俺だ!」 「すげぇな」 双子は妙に感心するお気楽さ。 「それはちょっと引っ掛かってみたい気も。加齢による老獪な悪戯ってどんなのかなと少し興味が……」 エオリアはヒスミ老の悪戯が気になったり。若い方の悪戯は幾度も巻き込まれ知っているのでそれと違いがあるのかと。 「それなら……」 ヒスミ老はニヤリと口元を歪めて先程と何やら雰囲気が揺らぐ。 「いえ、遠慮しておきます。しかし、双子達はこんな老人になっては駄目ですからね!」 察したエオリアが代表となって止めて苦笑気味に双子に釘を刺す。 すると 「何でだよ。理想的じゃん」 「だよな。なんといわれようと達人を目指す」 双子はエオリアの余計な一言に文句を垂れた。 「……そうなるか。予測はしていたが」 陽一は呑気な双子に呆れの溜息を吐いた。 「……達人ですか。双子さんはやっぱり凄いですね、マスター」 双子を尊敬対象にしているフレンディスは目を輝かせて感動していた。 「いやいや、フレイ、感心する所が違う」 フレンディスの明らかにこの場にいる皆とは違う反応にベルクは溜息混じりにツッコミを入れていた。安定の苦労人である。 ひとまずここで話が一段落したと見た双子は 「なぁ、ちょっと遊びに行ってもいいか」 「ずっと話ばっかでつまんねぇし」 と言って立ち上がった。 そこに 「それならオレも」 元々双子と遊ぼうと来たジブリールが加わろうとする。 「おう、いいぜ」 「探検しようぜ!」 仲間歓迎の双子はあたたかくジブリールを迎えた。 「双子の面倒頼んだぞ」 ベルクはしっかりしているジブリールに双子の面倒を託した。 「分かったよ。それじゃ行って来る」 ベルクに言ってからジブリールは双子と共に研究室を出て行った。 その後ろ姿を 「ジブリールさんは双子さんと打ち解けていて何よりです」 フレンディスは微笑ましそうに見送った。 三人が出て行った後。 「……忘れていたが、これを……」 ロズが思い出したように両手首にしている二つの銀腕輪を外してヒスミ老に差し出した。夢だと分かっていてもせずにはいられなかった。 「あぁ、腕輪か。二つともお前が持っていてくれ。あの二人の世界に戻るんだろう?」 ヒスミ老は銀腕輪を見つめるだけで受け取る素振りはなかった。 「……そのつもりだ。皆のおかげでそうする事が自分にとっていいと思っている」 ロズはこの場にいる皆の顔を見回してから答えた。 「だからだ。離れていても共にあるみたいな。俺には思い出があるから心配無い」 ヒスミ老は年齢を感じさせる落ち着いた笑みを湛え断った。 「……ありがとう」 ロズはヒスミ老の思いに礼を言い再び銀腕輪を装着した。 「しかし、ヒスミはヒスミでもさすが人生の先輩だね。あのヒスミだとは思えないよ。人間歳を取れば落ち着きも持つという事かな」 二人のやり取りを見ていたエースが皆が思っている事を代表して口にした。 「そうでもないさ」 ヒスミ老はニヤリと口元を歪めるなりこの場にいる皆に対して今の双子には真似できない上級の悪戯をかました。 その後はお喋りをしたりお菓子を食べたりハーブティーを飲んだり悪戯を食らったりと賑やかに過ごしたという。