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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

リアクション

 ジャタの森 某所
 
「……」
「……」
「って! 二人とも黙ってるなし!」
「って! 二人とも黙ってるなし!」
 真一郎と“犀”。
 黙したまま語らず、ただ歩き続ける二人に対して後方から同時にツッコミが入った。
 
 一人は可奈。
 もう一人は“犀”の相棒である少女だ。
 
 ツッコミの声が見事にハモったのがおかしかったのか、二人はクスリと笑い出す。
「食べる?」
 いつもの手作りクッキーを差し出す可奈。
 すると少女は躊躇なく受け取った。
「ありがと」
 すると可奈も気を良くしたようにクスリと笑い、自分もクッキーを口に運ぶ。
 
「なによ?」
「あ、いや別に」
「もしかして「へぇ、テロリストのあたし達もクッキーもらって喜ぶんだ」とか何とか考えてた?」
「そ、そんな!」
 ブンブンという音が聞こえてきそうなほどオーバーなリアクションで首を振る可奈。
 すると少女は小さな肩を竦めてみせる。
 そう言って少女は眼前を歩く巨漢を指さす。
「あたしの仲間はみんなまともでいい奴よ。少なくとも、あんたら九校連よりはね」
 
 しばしの沈黙の後、彼女達は同時に声を上げた。
「わっ!」
「わっ!」
 
 急に止まった前方の二人に驚く二人。
 横幅の広い二人の横からひょいと顔を出して前方を覗き、彼女達は再び声を上げた。
 
 眼前にあったのは不時着した機体――アマテラス
 急いで駆け寄った可奈はハッチに手をかけるも、うんともすんとも言わない。
 
「どうしよう……ハッチが開かないよ……」
 真一郎は冷静に歩み寄ると、機体を見聞していく。
 
「聞こえているか? 鷹村だ。ハッチは開きそうか?」
 すると機外スピーカーから途切れ途切れな声が聞こえてくる。
『……ハッ……開か……不……着……時に……歪……たい……だ……』
 
 事情を理解した真一郎はハッチに手をかけた。
「真一郎くん?」
「不時着の衝撃でハッチが歪んだんだろう。強制解放レバーでも開かない以上、力任せにこじ開けるしかない」
 真一郎も契約者。
 ゆえに常人を凌駕する膂力はある。
 それでもハッチはなかなか開こうとしない。
 
「くっ……!」
 もう一度、真一郎が力を込めようとした時だった。
「貸してみろ」
 
 今まで黙して語らなかった“犀”が口を開き、ハッチに手をかけた。
“犀”の助力が加わった二人がかりということもあり、遂にハッチが開いた。
 
「良かった。無事のようだな」
 コクピットに無事な姿を確認した神条 和麻(しんじょう・かずま)エリス・スカーレット(えりす・すかーれっと)を見て、真一郎は安堵の息を吐く。
「高村さん! 助かったのです!」
 エリスが喜びの声で言うのに対し、和麻は沈鬱な声だ。
「真一郎さん……。俺、また……」
「和麻くん――」
 彼の名前を呼び、真一郎は彼の肩に手を置く。
「気にするな。君はこうしてまた生き残れた。機体も修理可能だ。十分じゃないか」
 エリスも心配そうに和麻を見た後、ふと呟く。
「でも良かったです。ハッチが開かなかったからどうしようかと思ったですよ。ありがとです、鷹村さん」
 
 その言葉に対し、真一郎は“犀”を見ながら答えた。
「彼が助けてくれたんだ」
 
 すると和麻はコクピットから出て、“犀”の前に立つ。
 そして躊躇いなく低頭した。
 
「感謝する。ありがとう」
「……」
「なっ! なによッ!」
 相変わらず黙したまま、小さく頷く“犀”。
 その隣で相棒の少女は面食らった様子の見せてから身構えていた。
「俺はあんた達が悪人だと決めつけたくない。あんたもフリューゲルのパイロットのように人を助ける善意を持っているはずだ」
 確信を持って言い切る和麻。
 その言葉に反応したのは、意外にも“犀”の相棒の少女だった。
 
「あったりまえでしょ! あたしの仲間の方が、あんたら九校連よりもずっと優しいわよ!」
 そう言って少女は速足で歩き出す。
 それを可奈が心配そうに追いかけて行った。
 
 それを見た真一郎と“犀”は顔を見合わせて頷き合うと、二人の後を追った。
 
 和麻とエリスも合流した六人は近くに休めそうな場所を見つけ、そこで火を焚いた。
 幸い、多くの相手にコーヒーを振舞う習慣のある可奈が予備のカップを多めに持っていたことで、全員分のカップが足りる。
 そうして六人は自然と休憩の姿勢に入った。
 
 可奈がコーヒーを全員に配り終えた後、しばしの間沈黙が支配する。
 それを破ったのは和麻だ。
 
「あんたらは善意を持った人だと思う……だから、言う。復讐とはいえ、誰かを傷つける方法なんて偽りの大敵事件を起こした奴等と何も変わらない。俺はあんたらと和解して誰も傷つけずにすむ道を探したい」
 
 そうはっきりと言った和麻。
 そして再び沈黙が訪れる。
 今度は“犀”の相棒の少女がそれを破った。

「九校連のあんたがそんなこと言うなんてね。いいわよ、あんた達には話してあげる」
 
 少女はぽつりぽつりと語り始めた。
「あの日、家族でイベントに行ってあんなことになって、偶然瓦礫の合間に入って生きてたあたしを助けてくれたのが享なの。それで享とあたしはスミスっていう人と出会った。そして決めたのよ、あんなことをする九校連なんてぶっつぶしてやろう、って――」