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夏最後の一日

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夏最後の一日

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 アシュリング宅。

「夏も最後。少し涼しくなってきたことですし……お弁当もって、体力作りも兼ねて山登りにでかけましょう。もちろんきちんと塩分と水分もばっちり用意して……」
 博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)は夏最後の今日の過ごし方について提案すると
「体力作り……そうね、魔術を使うのにも体力は大事だもんね」
 リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)は即乗った。
 この後、博季は弁当作りを始めリンネは熱中症など体調管理に必要な物を揃えてから妖怪の山へ向かった。

 昼、妖怪の山。

「……お花も好きですけど……青々と生い茂る緑も素敵ですよね」
「そうだね。もうしばらくしたら紅葉が始まって秋の風景になるんだよね」
 先導をする博季とリンネは夏の景色を眺めながらゆっくりと山道を歩いていた。
 時には川で一休み。
「山の中だから比較的涼しくてもまだ夏ね」
 リンネは履き物を脱ぎ、両足を冷たい川に浸し、ゆるりと息抜きをする。
「……はい、リンネさん」
 博季が飲み物を手渡すと
「あ、ありがとう」
 リンネは受け取り喉を潤した。
「……鳥の声が聞こえますよ。綺麗な鳴き声ですね」
 リンネの隣にいる博季がどこからか聞こえる鳥の鳴き声に耳を澄ませ
「うん。でもここ妖怪の山だから……もしかしたら妖怪かも。それはそれで面白いよね」
 好奇心旺盛なリンネがカラカラと笑った。
「そう言うと思いました」
 妻の気性をよく知る博季はクスクスと笑うばかり。
 ふと言葉はここで途切れ、二人は静かに自然を楽しみ始めた。
「……(自然っていいなぁ……というか、健康的なリンネさんも魅力的だなぁ……行動や言動ひとつひとつが本当に素敵で。在り難くて)」
 ただし博季は自然よりも自然を楽しむ妻に心ときめき、目を離す事が出来ない。
 その視線に気付いたリンネは
「どうしたの?」
 可愛らしく小首を傾げて博季に問うた。
「リンネさんと一緒にここに来られて良かったと思って……普段お家で一緒に居るだけじゃ見られない一面もあったりして」
 博季は微笑を浮かべながら言うと
「……博季ちゃん、ちょっと熱中症だよ」
 リンネは嬉し恥ずかしいで堪らないと飲み物を押しつけた。
「そうかもしれませんね、リンネさんにお熱ですから」
 博季はそう言いながら水分補給をした。全くもって惚気だ。
「……博季ちゃん、行こう」
 テレテレのリンネは川から足を出し、履き物を履いて歩き出した。
「えぇ(本当に可愛いなぁ。惚れ直しそうって、何度目ですかね……ま、いいか)」
 博季も続いた。胸中では照れる可愛いリンネにすっかりやられていた。
 二人は会話を楽しみ、協力し合いながら山登りを続け、昼食に最適な場所に辿り着いた。

 頂上付近、森が開けた場所。

「さあ、お弁当を食べましょう」
 料理上手な博季はご自慢の弁当を出し、蓋を開けた。
「わぁ、美味しそうな物ばっかり♪」
 リンネは見るからに美味しそうな弁当に大喜びすると同時に
「折角だからあの子来ないかなぁ」
 リンネはいつかの花見で出会った妖狐の子供を思い出した。
「お礼を言いたいですよね。とても楽しく過ごせましたしお土産まで貰いましたからね。お弁当にもお稲荷さんを入れましたし」
 博季も思い出した。
 その時、噂は影を呼ぶというのか
「おや? あれって、もしかしてコン君?」
 博季は木の陰からちょこんとこちらを見る見覚えのある小さな妖狐に気付いた。
「本当だ! こっちにおいでよ♪」
 再会喜ぶリンネは激しく手招きをした。
 すると
「…………また……会えて……うれしい」
 ぽそぽそと言って二人に近寄った。大人しい性格は変わらずの男の子。
「リンネちゃんも嬉しいよ。花冠ありがとう!」
 リンネは以前貰った花冠の礼を忘れずに伝えた。
「……うん……」
 コンは小さくうなずいた。
「お弁当をどうぞ」
 博季は弁当をコンに差し出した。
「……おいしそう……これ食べたい」
 コンが選んだ物はやっぱり前と同じく稲荷。
「はい、どうぞ」
 リンネが小皿に稲荷をよそってコンに渡した。
 コンは小皿を受け取るなり
「……おいしい」
 満足げに頬張っていた。
 いつかのキャンプのように弁当を食べてお喋りをして遊んで午後の時間を過ごした。

 随分、時間が経った頃
「……ん……」
 弁当作りに登山と少し疲れたせいか博季はウトウトとし始め体がゆらりと傾く。
「博季ちゃん、ちょっと眠った方がいいよ」
 リンネが揺らぐ博季の体を受け止めゆっくりと自分の膝の上に博季の頭を載せた。
「……」
 博季はそのままリンネの膝枕で眠ってしまった。
 その上
「……む……」
 コンもウトウトし始め、そろりとアシュリング夫妻に寄り添って丸くなって眠ってしまった。
 それを見て
「コンちゃんもおねむかぁ……甘えっ子が二人でお母さんは大変だなー」
 リンネは眠る一人と一匹の頭を撫でながらクスリと笑みを洩らしお母さんは頑張る事に。
 少し時間経過後。
「……ん……ここは……リンネさん……」
 眠っていた博季は目を覚まし、起き上がろうとするが
「博季ちゃん、動いちゃ駄目」
 リンネが押しとどめ、博季のお腹の上で眠るコンを示した。寝ている内に移動したらしい。
「……みたいですね。それじゃ、コン君が目を覚ますまでもう少し甘えててもいいですか?」
 動けない博季は柔和な笑みを浮かべて甘えた。
「んー、仕方無いなー」
 リンネは言葉と裏腹に嬉しそうであった。
「それでは……」
 博季は改めて目を閉じたが、
「……(……寝るって言ったからには寝ないといけないけど……眠れない……)」
 さすがにすぐに二度寝が出来ない上に手持ちぶさたで博季の頭を撫でるリンネの手の感触にドキドキして落ち着かず
「……リンネさん」
 とうとう目を開けてしまう。
「しーっ、起きちゃうでしょ」
 リンネは人差し指を立てて博季を注意する。
「……ご、ごめん。つい、リンネさんに伝えたくて」
 博季は慌てて謝りながらも目を開けた理由を伝えると
「何を?」
 リンネは不思議そうに聞き返した。
 すると
「リンネさんは何度も惚れ直してしまう最高に素敵な僕のお嫁さんで……とにかくありがとう、リンネさん。愛してますよ。大好きです」
 博季は溢れてやまないリンネへの愛を言葉にしてから目を閉じた。
「……博季ちゃん、愛してるよ。おやすみ」
 リンネも夫への愛を伝え、博季の額におやすみのチューをした。
 そのせいで
「…………(ますます眠れない……とりあえず目を閉じておこう……)」
 博季はなかなか眠れず目を閉じ、眠気がやって来るのを待ち何とか無事に睡眠に入った。

 博季が再び目を覚ましたのは
「……リンネさん、おはよう……」
「また、おはよう、博季ちゃん。コンちゃん、さっき起きたよ」
 夜であった。コンは博季から降りていた。
「……星……きれい……」
 コンは頭上に広がる星空を見ていた。
「……綺麗ですね、リンネさん」
 博季はリンネに膝枕をして貰っているまま輝く星々を見た。
「うん、綺麗だね」
 リンネも見上げ、煌めく星空に感動していた。
 そのまま星見を少しだけしてから別れを惜しむコンの案内で行きよりもはやく下山した。
 下山後。
「ありがとう、コンちゃん」
「今日は楽しかったですよ」
 リンネと博季が惜しみながらも別れの挨拶を交わすと
「うん……僕も楽しかったよ……」
 コンも少し寂しそうにしながらも別れの言葉を口にした。
 この後、アシュリング夫妻は無事に帰宅し、コンは両親の元に戻った。