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夏最後の一日

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夏最後の一日

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 夕方、空京、とあるホテルのガーデンレストラン。

「本日はお誘いを受けて頂きありがとうございます(ここで団長と花火競技大会の鑑賞……少しでも団長の心が癒されたら……それに……二人きり……もう……)」
「いや、差し迫った事案も無かったのでな」
 董 蓮華(ただす・れんげ)は思いを寄せる金 鋭峰(じん・るいふぉん)を花火競技大会鑑賞に誘い、今ここにいる。鋭峰の隣に立っているだけで嬉しくぶっ倒れそうな勢いである。ちなみに蓮華が護衛も担っているため二人きりである。
「予約席にご案内しますね」
 蓮華は嬉しさで倒れる前に鋭峰を予約席へと案内した。事前に予約したレストランで一番見張りの良い席へ。

 予約席。

「……なかなか見晴らしが良いな」
 鋭峰は花火競技大会会場を一望した。鋭峰の立場に相応しい場所をと蓮華が気を遣い選んだのだ。
 ついでに
「……食事をしながらゆったりと鑑賞は如何でしょうか」
 鋭峰と一緒に食事が出来たらという蓮華の可愛らしい望みが含まれていたり。
「……花火を鑑賞しながら食事か、悪くないな。何より静かなのが良い」
 鋭峰は喧噪とは無縁の蓮華のセッティングに感心してから腰を下ろした。
「……喜んで頂けて光栄です」
 蓮華は緊張しながら鋭峰の向かいに座った。
 そして
「……(あぁ、料理を選ばないといけないのに……胸がいっぱいで……どれも美味しそうなのに……喉が通らない)」
 蓮華の視線はメニューよりも向かいの料理を選ぶ鋭峰に行くばかり。蓮華にとっての最高の料理は現在の状況である。
「……(とりあえず、何か選ばないと……)」
 蓮華は高まる鼓動を抑えて、ぱぁとメニューを見て適当な料理を選んだ。
 一方の鋭峰も料理を選び終えていたため、蓮華の物と合わせて注文し、お喋りは料理が運ばれてからとなった。

 料理が運ばれた後。
 丁度、空が夜に染まり花火競技大会が開始され、食事と共に次々と打ち上がる花火を楽しむ事が出来た。
「普通の花火とは違い、競技大会だけあってどれも趣向を凝らしているな」
 鋭峰はご満悦の言葉とは裏腹に相変わらず表情は無愛想であった。
「そうですね。夜景と花火がまるで星のようで美しいですね。一作一作内容が違う花火師さんの特徴や個性が出て飽きませんし……次、打ち上がる花火は……」
 蓮華は大会が始まってからしている花火の種類やテーマなどを事細かな説明をした。
「……先程から感じていたが、随分勉強したのだな」
 鋭峰は改めて予備知識が多い蓮華に訊ねた。
「はい。団長と一緒に見れるのが嬉しくて一寸勉強してきました……団長に少しでも楽しんで頂けたらと」
 蓮華は思いを寄せる人から褒められ嬉しさで頬を染めながら事前勉強した事を明かした。恋する乙女は相手のためならどんな努力だってする。
「……開き方も形も色も……ひとくちに花火と言ってもこんなに美しくて花火とは奥深いですね」
 蓮華はほぅと花火に感動。本日に備えて勉強しているため一層である。
「あぁ、だからこそ多くの者を楽しませ長く続いているのだろう」
 鋭峰は花火を見つつ淡々と言った。
 先程から二人は花火が上がる度に手を止め花火に集中していた。食事をしながら花火でなくなっていたが、二人は意に介しなかった。

 しばらくして、素朴でありながら美しい炭火色の花火が夜空を飾った。
「……和火、発色が木炭が燃焼する際の色味だけの例えるなら線香花火のような花火です……やっぱり、花火は日本の物が一番好きです」
 蓮華はほぅと赤一色の花火に釘付けになっていた。
「……無駄な派手さがない上に朱色が美しいな」
 鋭峰の口元が僅かにゆるんだ。
「……はい」
 うなずく蓮華は鋭峰の口元に浮かんだものに
「……(……今、団長と一緒に花火を見てる……あぁ、胸が、ドキドキが高まり過ぎてぎゅっとなって……あぁ、もう……時よ止まって……)」
 蓮華の胸が高鳴り過ぎて鷲掴みにされたようにぎゅっとなり
「……(だめ……団長を見たらますます胸が……)」
 ちらりと花火の光に照らされる鋭峰の顔を盗み見てさらに鼓動が速くなる。
「……団長、お忙しいでしょうに本当に嬉しいです。これが私の我侭でなければ良いのですけど……私にとって団長が楽しんで下さるのが一番嬉しいのですが」
 蓮華は最後の和火を眺めず、鋭峰の方を向き、改めて訊ねた。
「先も言ったように差し迫った事案が無く丁度良い息抜きなった」
 鋭峰は先の言と同じ言葉を繰り返した。
「そうですか。良かったです……その、団長とどうしても一緒に、見たかったので……今日は夏最後ですから(それに好きな人と見る花火は特別だし、何より夏最後の今日を団長と過ごしたかったもの)」
 蓮華は頬を染めて顔を俯かせながらぽつぽつ。心は鋭峰一色の一途な乙女。
「……夏最後……そうだな。君のおかげで良い思い出になった。礼を言う」
 鋭峰は蓮華の方に振り返り、感謝を伝えてから再び花火に目を向け、お留守になっていた食事に戻った。
「……」
 蓮華も食事をしながら花火を楽しんでいたが
「花火の輝きよりも強く、花火と違って消えない想いで……ずっと永遠に団長をお慕いしております」
 蓮華はあまりにも幸せな空間に幾度となく伝え続けた想いが口から零れた。
「……そうか」
 蓮華の幾度目かの告白に鋭峰は食事の手を止め眉一つ動かさず泰然とした様子で一言。その様子は蓮華の想いを知りつつも部下として信頼しているといった感じであった。
「……はい(……想いが実らなかったとしても……こうして団長と一緒にいるこの時間、今日の思い出は忘れない……)」
 蓮華の方もうなずくだけでそれ以上の言葉は重ねなかった。想いが今日成就しなかったのは寂しいけれど、鋭峰一直線の蓮華は諦めない。

 蓮華と鋭峰は夏最後の一日は夜空に咲き誇る花に彩られた。