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納涼花火大会

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納涼花火大会

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序章
 
 今年の夏も、各地で色々な祭りが行われた。
 それは新聞に載るほどの大規模な祭りだったり、ひそかに行われる奇祭だったりと様々だが、それらは関わった者たちすべてを楽しませる力に満ち溢れている。
 無論、喧嘩やいさかいも頻発する。決して安全とは言えないかもしれないが、それでもそこにいる人々は皆、活き活きしていた。

 今始まっている葦原明倫館の花火大会も、その一つだ。

 葦原明倫館に続く道。どこからか美味しそうな匂いが漂って来る。
 明倫館の敷地に入る前からすでに屋台の行列は始まっていた。敷地内に入れば人がごった返し、緩やかな人の流れができている。明倫館にはあちこちでワイヤーが張り巡らされ、そこからたくさんの提灯がぶら下がっていた。まだ明かりはついていないようだ。まだ夕方で明るい会場はわた飴リンゴ飴、射的に輪投げ、かき氷、定番どころはすべて揃っており、ちびっ子も大喜びだ。特に女性たちは浴衣で着飾り、終わろうとしている今年の夏を満喫していた。

「んだ、コラ!」
「あ? やろうってか?」
 と、違う場所では肩がぶつかったガラの悪そうな男二人が胸ぐらを掴み合っている。途端、その場からさっと人が引き、綺麗な円形の空き地が出来た。
「お? 喧嘩か?」
「いいね、やっちまえ若いの!」
 やじ馬まで呼び寄せて、みるみる騒ぎが大きくなっていく。やがて片方が相手の顔をぶん殴り、相手に蹴りを入れられたところで、強面の男がその間に割って入った。
「何しとんじゃボケナスども!」
 そして二人の頭に拳骨を一発ずつお見舞いして両成敗した。

 続いてグラウンド。
 そこでは、盆踊りをはじめとした一斉参加型の催しがある。すでに幾重もの人の輪ができており、カップルだったり友人同士だったり親子だったりと老若男女入り混じっている。
 その輪の中央では、大きなやぐらがそびえ立っている。紅白の幕が巻かれた赤い塗装のやぐらは上部に人が立てるスペースがあり、黒い瓦の屋根で蓋をされている。その中で、法被を着た女が一人、太鼓をたたくバチを肩に担ぎ、もう片方の手にはマイクを握って立っている。その傍らには着物を着た女性がもう一人。さらにその隣には大きな和太鼓がどんと置かれていた。

「……皆々様」
 日も暮れ、茜色の空も暗くなってきたころ、ゆっくりと、女性はマイクを口元に当てた。
「本日は納涼花火大会のご来場、まっこと感謝にありんす」
 暗くなりかけた場所でも、女性がにやっと強気に笑っているのが分かる。
「すでに屋台や躍りで楽しんでいる方も多いと思いんすが、いよいよ花火の時間でありんす」
 彼女こそは葦原明倫館総奉行、ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)。今回の祭りの考案者の一人である。
「さあさ皆様方! お祭りでありんす!」
 どん、とハイナが太鼓を叩いた。
「明かりをお点けください!」
 そして傍ら、今回の考案者の一人にしてハイナのパートナー、葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)が力強く叫んだ。するとやぐらの下で待機していた電気設備担当スタッフが手元のスイッチを押す。すると、明倫館中に張り巡らされたすべての提灯に明かりが点いて、周りが一気に明るくなった。
「花火師の方々、盛大にお願いします!」
 続いて房姫がどこからか出してきた無線機を取り出すと、そこに向かって叫んだ。

 数秒後、ひゅうう、と風が鳴る音とともに、大きな光と炎の花が天空に咲いた。
 幾輪も、色鮮やかに、そして儚く消えていく。