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リアクション
■時は、未来
2024年から約8年後、孤児院、夜。
「今夜の夕食はシチューです。大きい子はお手伝いをお願いします」
「小さい子は遊びながら待ちますよ」
ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)とルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)。
「私もお母さんのお手伝いする」
「ボク、ママのお手伝いする! 野菜沢山切るよ!」
マキャフリー夫妻の実子である今年8歳の双子の姉弟ルネッタとレーベが一番に反応した。
それを合図に次々と孤児院の子供達も反応した。
その結果、料理はナナと実子と大きな子供達、ルースは小さな子供達の相手をする事になった。
夕食待ち組。
「……(こうしてナナや子供達と囲まれて本当に幸せだなぁ。昔の硝煙にまみれていた生活と違って落ち着いて穏やかな気持ちになりますね。こうして子供達の遊んでいる姿や声は本当に和みます)」
ルースはぼんやりと遊ぶ子供達を眺めていた。10人程度規模の孤児院だが経営は順調でナナとの子供も生まれ幸せな事この上無い。もちろん、孤児院の子供達も本当の子供のように愛している。
そうやって物思いに耽っていた時
「……?」
自分の手を引っ張る感触に我に返るとそこにいたのは
「遊ぼー」
小さな女の子。
「えぇ、遊びましょう……あぁ、そこ悪戯してはいけませんよ!」
ルースは笑顔で少女の誘いに乗ると同時に部屋の端で何やら悪さをする少年に注意をしたりと忙しくし始めた。
しばらく賑やかに遊んでいたが
「お腹空いたーー」
「ごはんまだーー」
次第に子供達が空腹に堪らなくなって大きな声を上げ出した。
「少し見てきますね(孤児院全体の量ですから少し時間が掛かっているのかもしれませんね)」
ルースは夕食の案配を見に厨房へ向かった。
その後ろを
「あたしも行くーー」
「ボクもーーー」
空腹な子供達が続々と続いた。
夕食調理組。
「まずはみんなでお野菜を切りますよ」
ナナは子供達に最初の指示を出す。
「はぁぁい」
子供達は元気に返事をした。
そして賑やかなシチュー作りが始まった。
調理中。
「ねぇ、ねぇ、ほら切ったよ! ママ、見て!」
お友達と野菜切をするレーベは野菜を切り終わる度に褒めて貰おうとナナに声をかける。
「上手ですよ!」
ナナはにこにこと褒める。そうやって褒めてはいるが、切られた野菜の形は不揃いである。
「お母さん、切り方はこれでいい? 切ったら炒めるんだよねー?」
ナナの隣に陣取り熱心に料理に打ち込むルネッタが切った野菜を見せた。
「えぇ、そうですよ。上手ですね。炒めるのはお母さんがしますからね」
ナナはレーベとは違い丁寧に切られた野菜を見て褒めた。
「はい」
ルネッタは元気な返事をして野菜を切るのに集中する。
それからすぐに
「ねぇ、お母さん、私も料理上手になるかな?」
ルネッタが真剣な顔で母親に訊ねた。重大な事だと言わんばかりに。
「なりますよ。お母さんも料理は不得手でしたが今はそこそこで出来るようになりましたし」
ナナはにこにこ笑いながら自分の事を話した。
途端
「じゃ、私も頑張る!」
ルネッタは力強い返事と共に野菜切りにも熱が入る。誰よりも料理に打ち込んでいるのはこのルネッタであった。
その時
「……どうですか?」
腹ぺこの子供達を引き連れたルースが案配を見に来た。
「ルースさん。もう少し掛かります。すみませんが、もう少し遊んで待っててくれませんか?」
ナナは振り返り、お腹を空かしている子供達に申し訳無さそうに言った。
「はぁい」
子供達は返事をするも待てないのか居座り料理を眺めていた。
「……(平和ですねぇ)」
ルースも子供達と同じく残り料理光景を見守っていたが
「……(この貴重な時間を写真に収めなければ!!)」
カッと閃いたルースはばたばたとカメラを取りに行った。
戻って来るなり
「あぁ〜ナナ美人だなぁ〜」
まずは愛する奥さんを撮影。
「もう、ルースさん」
ナナは苦笑混じりに被写体になる。
「ルネッタ可愛いなぁ〜」
妻の隣で料理をする娘にレンズを向けるが
「……」
明らかに嫌そうな顔でルースを睨む。
「ルネッタ、お父さんの事は気にしなくていいから、ほら料理に集中して〜」
ルースが親馬鹿ないい笑顔で言うと
「……(お母さんに習って料理作るのは楽しいけど……お父さんが鬱陶しい。写真撮ったりしないでお母さんといちゃいちゃしてたらいいのに)」
ルネッタはふいっと料理に戻るなり胸中でお父さんが泣くような事を洩らしていた。
「レーベかっこいいなぁ」
息子にレンズを向けると
「はっ! とぅ!」
レーベは格好良くポーズを決めてサービスする。
その後もパシャパシャと写真を取り続け素敵な思い出を増やしていった。
料理は進み、すっかりシチューのルーを入れて煮込むだけとなった。
シチュー煮込み中。
「……(私は幸せ者ですね。こうして、子供達という希望に囲まれてルースさんから愛情を頂いて……出逢えた事に感謝です……みんな、愛しているのです)」
ナナは鍋をかき混ぜながらこれまでの事を振り返り今の幸せをかみしめていた。
その時
「ママ、ぼーっとしてどうしたの? お鍋から煙でてるよー?」
可愛らしい息子の声がかかり
「あぁ、本当ですね。レーベ、ありがとうなのです(少々思い出に耽っていたようですね)」
我に返ったナナは急いで料理に戻った。いつの間にやら考え事の虜になっていたようだ。
「ママ、シチューが大丈夫か、ボクが見てあげるよ?」
レーベがじっと鍋を見ながら物欲しそうにおねだりの瞳でナナを見上げた。あまりにも美味しい匂いにお腹が刺激されて食べたくて堪らなくなったようだ。
「……ふふ、味見ですか? 味見はいいですが、つまみ食いはダメなのですよ」
「はぁい」
ナナはクスリと笑みながら約束事をさせてから少しだけ味見をさせた。
「どうですか?」
「うん、おいしい!!」
レーベは味を訊ねる母親に満面の笑みで答えた。
この後、少ししてシチューは出来上がり
「では、お皿を並べるのを手伝って下さい」
ナナは子供達にお手伝いを頼んだ。
「はぁい、ルネッタも手伝ってー」
真っ先にレーベが動いて皿を並べついでにルネッタを呼んだ。
「分かった(ふふ……あの子この料理喜んでくれるといいなぁ。私の事、好きになってくれたりして!)」
ルネッタは手伝いに加わりながら片思い中の孤児院の男の子の顔を思い浮かべていた。それが料理に熱心な理由だったり。
皿によそったシチューをテーブルに運び、賑やかな夕食が始まった。
夕食中。
「……」
黙々と食べるルネッタは離れて座る片思い中の男の子をちらちらと盗み見る。
「……(……美味しそうに食べてる)」
男の子が美味しそうに食べているのを見ると嬉しくて堪らない。
盗み見している内に
「!!」
はたっと目が合ってしまい、胸の高鳴りが速くなり
「……」
恥ずかしさから俯き、速いスピードでシチューを口に運んで行った。その顔は恋する女の子らしく真っ赤になっていて可愛らしいものであった。
「ねぇ、パパ、どう? 美味しい?」
レーベは父の隣に座り、にこにこと見上げてお味を聞く。
「美味しいですよ」
ルースは不細工な野菜を頬張りながら言った。
「ボク、沢山お手伝いしたんだよ!!」
レーベは褒めて貰おうと手伝い頑張ったを力強くアピールする。
「えらいですねー」
ルースはレーベの頭を撫でながら褒めた。レーベは嬉しそうに父を見上げていた。
「……(この平和で幸せな時間がずっと続いたらいいですねぇ)」
ナナは夕食を楽しむ皆の笑顔を見てほっこりと幸せに満たされていた。
今日も何気ないが幸せが詰まった一日が終わった。明日もきっと素敵な一日が訪れるだろう。