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理の魔女

「それで? 私に話って何かしら?」
 最後の魔女は自分を呼び出した契約者たちにそう問いかける。
「あなたの理を変える力を借りられるという話ですが……私たちは他力本願は不本意なのです」
 魔女の問に申 公豹(しん・こうひょう)は代表して答える。
「あら? それじゃ、力を貸さないで欲しいというのがあなたたちの願いなのかしら」
「いえ、そうではなく……姫や童たちの話を聞いて、力を貸すというわけでなく、あなた自身がどうしたいかを決めてもらいたいと思ったのですよ」
「うーん……とりあえずその話を聞こうかしら?」
 魔女の答えを受けて申は赤城 花音(あかぎ・かのん)赤城 リュート(あかぎ・りゅーと)を促す。
「ボクたちが魔女さんに贈りたい真理……それは生きようとする意志は何よりも強いってことなんだ」
 花音はそう言って続ける。
「ニルミナスに暮らすようになってからいろんな事があったけど、その中でこの生きる意志が決定的欠けてるんじゃないかなって事件が多いんだよ」
「自らを犠牲にし、物事を成す、多くの人を救う。綺麗事の様に考える方は多いのかもしれません。ですが……悲しみは残りますし、後始末する人も大変なのですよ? 僕たちは……それが正解とは考えないのです」
 花音の言葉にリュートは続ける。
「ボクたちの真理を他の皆に強要するわけじゃないけど、ボク達はそう思うんだ」
 花音はそう締める。
「なるほどね。あの村で起こったことを暇つぶしに聞いたけど、確かにあの村は死にたがりが多いわね」
 ただ、と魔女は続ける。
「あの村で死のうとした人たちは自己犠牲なんて感じじゃないわね。生きたいって感じでもないけど」
「……それはどういう意味ですか?」
 魔女に申は聞く。
「どいつもこいつも自分勝手なわがまま共なのよ。生も死も超えた願いを持ってるんでしょうね」
 将という男は自分の妻の元へ行きたいと死を望んだ。穂波という少女は大切な人が壊れていくのが見ていれなかった。
「……本当に自分勝手。あなた達の言うとおり残されていく方の気持ちなんて何も考えて…………いえ、それを理解した上で自分の願いを優先した」
 傍から見てる分には面白いけど、関係者にとってはたまらないでしょうねと魔女。
「……面白かったわ。あなた達の話」
「……あなた自身の願いが見つかりましたか?」
 自分たちの話を聞いて、とリュート。
「あら? 私は最初から願いを持ってるわよ? 面白いことを求め続ける。そうして私は生きていくの。力を貸すのもその目的を果たしてくれた相手に払う代金みたいなものなのよ」
「……その生き方って寂しくない?」
 花音は自分のほうが寂しそうに言う。
「さあ。どうかしらね。少なくとも今は『楽しいわ』。面白い観察対象が見つかったからね」
 思い出し笑いをしながら魔女は言う。
「そっか…………もしよかったらいつかボク達の音楽を聞いて欲しいな。人生の喜怒哀楽を綴るボクたちの音楽を」
「ええ。気が向いたらお願いするわ」
 最後の魔女はそう言って笑った。