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ニルミナス

リアクション


エピローグ

 儀式の終わった後。村では村の新たなる門出を祝ってパーティーが開かれていた。御神楽 舞花(みかぐら・まいか)が中心に準備された『ニルミナスの力強い未来を願って』のパーティーには村に済む人や村に関わった契約者達の多くが参加していた。
「あなたがミナホさんですか」
 そんな中で主賓の一人であるミナホが一人であるのを見つけて御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は声をかける。
「あなたは確か舞花さんの……」
「はい、舞花がお世話になりました」
「いえいえ、それはこっちの台詞です。舞花さんには本当にお世話になって……」
「では、お互い様ということで。……この村での経験は確かに舞花のためになりました」
 今の舞花を見ていて陽太は思う。
「それと、ミュージックフェスティバルの時、舞花からラジオが送られてきましたが、あの活気と朗らかさはすごくよかったですよ。あのラジオからは村のよさが伝わってきた。……近いうちに妻と娘と一緒に来て村を観光しようと思ってます」
「それなら、その時の案内は私に任せてください」
 陽太の言葉にミナホは本当に嬉しそうに答えるのだった。

「陽太様とはなにを話していたんですか?」
 舞花は陽太とミナホが話し終わったのを見計らってそう声をかける。
「ミュージックフェスティバルとかを通じて舞花さんが成長しましたねという話を」
「ミュージックフェスティバル…………そんなに昔じゃないのに懐かしいですね」
「はい。あの時のことははっきりと覚えてるのになんだか懐かしいです」
「ミナホさんは……あの時のことはちゃんと覚えて……?」
「はい。あの時の気持ちもちゃんと覚えていますよ。……どうして音楽に拘っていたかは分からないですけどね」
「……それは悲しいですけど…………私とラジオ番組を作るのを頑張ってた記憶があるのは嬉しいです」
「もう、これ以上は忘れませんよ。絶対に」
 忘れたくないとミナホは願う。そしてそれはシステムによって奪われることはもうない。そうなったのだから。
「いつか、自分の時代に帰った時にその時代のニルミナスに訪れてみたいですね」
「その時は思い出話に花を咲かせましょう。魔女である私はきっと舞花さんの時代でも生きていますから」
「そうですね。そうしましょう」
 本当はそれが難しいとミナホも舞花も思っている。それでもそんなときがきてもいいんじゃないかと願う。
「……ミナホさんはこの村をどうしていきたいですか?」
「分からないです。分からないけど…………もっともっといい村にしていこうと思ってます。どんないい村かは…………まずこの村のいいところを探して、それを伸ばしていきたいですね」
「……素敵ですね。きっとそれがいいですよ」
 ミナホの抱負を聞いて舞花はこころが暖かくなるのだった。


「ミナス草……美味しいですの?」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)はミナス草の料理を食べている穂波にそう聞く。
「美味しいですよ? 苦いですけど」
「…………穂波、結構明るくなりましたわね」
「そうかもしれませんね。少し前までは自分がこんな風に生きられるようになるとは思ってませんでした。それもエリシアさん始め、契約者の方たちのお陰です」
「わたくしの力は微々たるものですわ。……それでもその感謝の気持は素直に受け止めますわ」
 穂波の今を心から祝福するエリシア。
「穂波は『普通』の魔女になった今、何かやりたいことはありますの?」
「そうですね。正直やりたいことだらけです。魔女じゃなかったら一生かかってもやりきれないくらいですから魔女万歳ですね」
「……これも一応呪いだった気がしますけど……ま、楽しく生きれるならそれが1番ですわね」
 前向きに生きられるなら呪いなど確かに関係ないとエリシアも思う。
「ま、ニルミナスにはちょくちょく顔を出すと思います。これからもお付き合いお願いしますわ……長い付き合いになるかもですわね」
「はい。よろしくおねがいしますエリシアさん」
 ここに魔女としての長い付き合いが始まったのだった。


「今までお世話になりました」
 ミナホにそう言って頭を下げるのは源 鉄心(みなもと・てっしん)だ。
「……はい? 鉄心さんいきなりどうしたんですか?」
「いえ、一つ大きな区切りがつきましたし、こうして新しいニルミナスの大きな節目も見届けました。地球に戻ってちょっとやりたいことがあるのでお別れを」
「……そうですか。寂しくなりますね」
「この村のあり方は勉強になりました。地球に戻ってからの俺の指針の一つですよ」
 この村で多くの事件の解決に手伝ってきた鉄心。それ以外でのパラミタの経験も合わせて鉄心に一つの答えを与えた。
「あなたが今村長としてやれているのが『あの人』のおかげであるように、俺もそんなことをしようかなと思っています」
 この村について一つ心残りがあるとした、『あの人』が誰かミナホに教えられないままパラミタを離れないといけないことだろうか。
「まぁ、落ち着いたら連絡しますので……良かったらいずれ遊びに来て下さい」
 だが、これが別に今生の別れでもない。鉄心の心残りがなくなったいつか、ミナホと再会できることを鉄心は祈るのだった。

「これは……スイカの種ですの!」
 ミナホにそう言ってスイカのタネを押し付けるのはイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)だ。
「はぁ……ありがとうございます?」
「このスイカさえあれば、ミナさんも協力してくれるはずですわ。というわけでミナホさんをスイカ係に任命するのですわ」
「ええと…………ありがとうございます?」
 なんか何故自分がお礼を言ってるのか分からなくなるミナホ。
「それと……ごめんなさい。わたくしは音楽学校の先生は出来なくなりましたの」
 鉄心と一緒に地球に行くからと。
「いいんですよ。それがイコナさんの選択なら。……イコナさんの幸せを願っています」
 そう言いながらもミナホは寂しそうだ。鉄心が地球に戻ると聞いてから薄々想像していたことだが、それでも寂しいのは変わらない。
「……わたくしはいなくなるけど、ティーはいるのですわ。それに、もう二度と会えなくなるというわけではありませんし……」
 イコナはミナホを慰めるように続ける。
「そうだ、これもあげるのですわ」
 そう言ってイコナは小型の龍になっているスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)をミナホに押し付ける。
(……ついにスイカの種と同じ扱いをされたでござる)
 しくしくと泣くスープ。……実際は全く傷ついてはいないくらい飄々としてるのがスープであるのだが。
「え? スープ君くれるんですか?」
「はっ、勢いであげちゃったけど鉄心の許可を流石に取らないといけないのですわ」
 聞いてくるといなくなるイコナ。
「……スープくんはどうしたいですか?」
「せっしゃはただはたらきたくない……ただそれだけでござる」
「……なんかどっかで同じようなこと言ってる人がいた気がします」
「……少しだけ真面目な話をするならもう少し平和になったパラミタでゆっくりしたいでござる」
 その後はパラミタで過ごすのも鉄心についていくのもどっちでもいいというのがスープの本音だった。
「だったら、鉄心さんにお願いしましょうか。ティーさんが残るなら多分残れますよ? もしくはスープくんだけならうちで引き受けられますし」
「…………すぷー」
「もう、スープくん、寝たふりですか?」
(……バレてるでござる)
「……いいですよ。スープくん。私は私のわがままでスープくんをパラミタに残して欲しいって頼みますから」
 それが自分の願いだからとミナホは素直に言うのだった。


「ふふ……こうしてアスターさんを膝枕するのちょっと夢だったんです」
 パーティーの喧騒を眺めながら。ティー・ティー(てぃー・てぃー)はユニコーンであるアスターを膝枕する。
「……明日になったら鉄心とイコナは地球に向かうんですよ? アスターさん」
 ティーの言葉にアスターは寂しくなると返す。
「私はここにいますから……これからもよろしくおねがいしますね」
 アスターのたてがみを撫でながらティーは言う。
(鉄心やイコナがいなくなるのは寂しいですけど…………それでも私はこのパラミタが好きですから)
 パートナーと離れるのは寂しい。けれど、それでもそちらを選べないくらいにティーはパラミタが好きだった。
「それに……アスターさんもいるこの村にも愛着がわいてきましたから」
 いつかまたこの村で鉄心やイコナと会えるといいと思うティーだった。



「ミナホ。こんなところで何してんだ?」
 パーティーも終わった夜更け。村を眺められる丘に立つミナホに瑛菜はそう声をかける。
「瑛菜さんこそ。どうしてここに?」
「あんたがでかけるのをアテナが見かけたから。追いかけてって言われてさ」
「そうですか。そのアテナさんは?」
「寝てる」
「……眠たかったんですね」
「そゆこと。……それで何してんの?」
「特には何も。ただ……そうですね。瑛菜さんたちにあった頃を思い出してました」
「……ちゃんと思い出せた?」
「いいえ……断片的には思い出せますけど、なにか大切なことを忘れてる気がします」
「……そっか」
「あ、そういえば、あの頃の私って契約者になりたかったんですよ。村の問題をあっというまに解決した契約者に憧れたんです」
「ふーん……今も?」
「いえ……『あの頃』の話ですよ。今の私は瑛菜さんやアテナさん、アーデルハイトさんたちがそう『あれる』のは契約者だからってわけじゃないって分かってます。……大切なのは力の大小じゃなくて何をするかですもんね」
 繁栄の魔女として力を振るったことがあるミナホだからその答えに辿り着いた。
「ま、したいことがあるなら力の大小も大切かもしれないけどね。……ただ、力ってのは何も『知力』や『体力』『魔力』だけでもないからね」
 何がしたくて何が出来るのか。それは人それぞれだ。
「瑛菜さん。私は魔女です。きっと瑛菜さんより長く生きて瑛菜さんよりも多くの経験をします」
「そだね」
「それでも……私は絶対に瑛菜さんやアテナさん……契約者の人たちを忘れません」
「ああ。絶対に忘れるな。忘れたらぶん殴って思い出させてやるから」
「はい……約束です」


 それは新しいニルミナスが生まれた日。満天の星の空で交わされた約束。魔女としては何も名を残さなかった一人の少女が長き時の中忘れなかった思い出の一つだった。