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温泉

「ちょっとさゆみ……ここじゃダメですわ」
 ニルミナスの温泉。家族用の温泉に浸かっているアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は自分と入ってる相手綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)にそう言う。
「本当に? そんなこと言いながら逃げる様子はないじゃない」
 さゆみとアデリーヌ。最初は音楽学校での教師役を終えた疲れを温泉で落としているだけだった。
 だが、温泉で疲れを取った横には濡れ髪美人な恋人が互いいたわけで…………。
「だ、ダメですわ」
 さゆみの言うとおり、体は拒絶していない。だが一応の理性がアデリーヌにそう言わせる。
「そう」
 さゆみはアデリーヌの言葉だけの拒絶など関係無いようにアデリーヌに口付ける。
「ほら、やっぱり逃げなかった」
 長いキスの後にさゆみはいたずらで、それでいて艷やかな笑みでそう言う。
「もう……ダメよ……。そろそろ……二人で一緒に……」
 さゆみのキスに完全にスイッチが入ったのかアデリーヌは切なそうにそう言う。
「ふふ、続きは今夜、お部屋でやりましょ」
「もう……わたくしに火をつけておいて、それはなくてよ?」
「焦らすのもいいじゃない」
 きっと焦らした分だけよくなるとさゆみは言う。
「……さゆみのいじわる」
 お返しとばかりに耳たぶを甘咬みしてそう言うアデリーヌだった。


「それじゃ、超じいちゃん、乾杯の音頭をおねがいするのであります」
 村にある旅館の部屋で。大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は宴会の始まりの挨拶を大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)にお願いする。
「わしの湯治のためまたこの村に連れてきてくれたすまんの。感謝の気持を込めて乾杯じゃ」
「「乾杯」」
 と剛太郎と鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)は杯をあわせる。
「しかしこの村の温泉は相変わらずいい湯でありますな」
「うむ。わしも体の調子がいいのじゃ」
 剛太郎の言葉に藤右衛門も頷く。
「それは確かにいい湯だったけど……あたしも二人と一緒に入って超じいちゃんの背中流したかった」
 二人に比べて少し不満そうに望美は言う。
「望美の気持ちは嬉しいのじゃがな……一応いい年の女の子なんじゃから……」
「だから?」
 藤右衛門が口ごもったところで望美は続きを促す。
「家族とはいえ女の子……超じいちゃんも照れるのであります」
「もう、それならそう言ってくればいいのに」
 と言ってもそれで望美が納得するかどうかは謎だが。
「ま、その分超じいちゃんといっぱいお酒飲んで甘えるんだから」
「そうでありますな。こういう機会はなんだかんだで貴重であります」
 望美の言葉に剛太郎は同意する。
「そうじゃな……」
 本当にいい孫(どころの話ではないが)だと藤右衛門は思う。
(この子たちが幸せに生きていけるといいの)
そして子孫が繁栄していけばいいと藤右衛門は思う。
「ほら、超じいちゃん、お酌するから」
「うむ、済まぬの」
 望美の酌を受けながら藤右衛門はその願いを強くするのだった。


「今年も色々な戦いがあったであります」
 ニルミナスの温泉に浸かりながら葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はそう言う。
「いろいろって…………なんか吹雪が自分でクビ突っ込んで引っ掻き回した記憶ばっかりなんだけど」
 一緒に温泉に入っているコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)はそう呆れ気味にそういう
「気のせいであります」
「気のせいじゃないわよ! 本当にあんたはそこらじゅうで問題起こしすぎなんだから……」
 この村だけでも本当にいろんな戦いや問題があった。村の外のことを考えれば考えきれないくらいの事件に吹雪は首を突っ込んでいる。それに自分が付き合った回数も片手では足りないだろう。
「……いい湯でありますな」
「誤魔化しなのはわかってるけど……突っ込んでも疲れるだけだから同意するわ」
 はぁと大きく息をつくコルセアだった。

「さてそろそろ上がるでありますか」
 そう言って吹雪はコルセアと一緒に温泉を上る。
 そして温泉に上がった吹雪は腰に手を当ててコーヒー牛乳を一気飲みする。
「変な所にこだわるよね色々と」
 いつもの吹雪のこだわりにコルセア。
「様式美は大切であります」
「そんなもんなのね」
 特に何もない平和な光景。その中に温泉以上に浸かりながらコルセアは言うのだった。