|
|
リアクション
第2章 眠りし女王 6
「目的の場所は、恐らくこの先にある」
そう言いながら、土方伊月が案内してくれたのは地下鉄の走る地下道の一角から入る、最重要区域になっている場所への地下トンネルだった。
先日、石原からすでに依頼を受けていた伊月は、その膨大な人脈と情報によって上層階級の連中に圧力をかけ、謎の地下トンネルへと安全に入れるルートへの鍵を手に入れていたのだ。
場所はちょうど――千代田区の地下に当たるだろうか。
千代田区の地下に謎の空間があることは、一部の権力者の中では知られていることだった。ただ、実際にはそれが何の空間であるのかはハッキリとされていないし、政府もまるで何か不思議な力にでも操られるようにそれをひた隠しにしていたのである。
伊月は、それがこの時のためだったのだと漠然と理解していた。誰かの意識か、漏れ出している力の余波か。そういったものが、政府の連中の深層意識に入り込んで、彼らをこの地下空間から遠ざけていたのだ。おそらくは。
自分には『魔物』を見る素質はないが、石原たちが関わっているこの世界の運命を握る何かは、こうして地下空間を守っていたのである。
「着いたぞ」
伊月が案内してくれたのは、地下トンネルの入り口までだった。
ここから先は、なぜか伊織ですら入ることが許されていない。彼もまたその『何か』に深層意識を操作されているのだろう――そう、彼自身は自分を分析していた。
「まあ、そうでなくとも……ジジイが入ったところで足手まといになるだけだがな」
伊月は自嘲的にくしゃっと笑った。そうは言いながらも、いまだその若いときの美的な雰囲気は崩れていないのはさすがというべきか。その気になれば、若い娘と二人でデートすることも容易だろうと思える、愉快な老獪ぷりであった。
「助かった。礼を言う」
肥満は一歩引いた伊月に素直に頭を垂れた。
「なに、気にするな。それよりも、先にトンネルに入っていった連中が気がかりだ」
「先に入った連中?」
「ああ。魔物の出現が多発していることで、トンネル内部にも奴らがいるだろうと予測していたんでな。一部の対策チームメンバーが内部に入って露払いをしているところだ。これなら、お前たちも比較的安全なルートを辿れるだろう?」
さすがだ――肥満は素直に感心した。
「俺の案内はここまでだ。あとは……お前たち次第だな」
「ああ。必ず……未来は守るとも」
「――健闘を祈る」
肥満は伊月と別れの言葉を交わすと、護衛の仲間たちとともに地下トンネルへと潜っていった。
それを見送って、伊月はふと考える。
彼らが繋ごうとしている新たな大陸――パラミタ。そのフロンティアに行けば、孫も少しはのびのびと生きることが出来るだろうか。
「ジジイの最高の遺産ってやつだ……」
後生に生きた証を残す意味でも、伊月はこの戦いを最後まで見届けるつもりだった。