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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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リアクション


第1章 13日の魔物 5

 ビュォッ――と、撓る音とともにワイヤークローが雑居ビルの壁にめり込む。すると、そのワイヤーを利用して、男が宙へ躍り出た。その手に握られる光条兵器の光り輝く銃が、ガーゴイルたちを狙い澄ます。
「あばよ」
 たった一言の捨て台詞を残して、数体のガーゴイルが光の銃弾に貫かれた。
「っと、まだまだ大勢いるみたいだな。こりゃ、一人じゃきついか」
 道路に着地した国頭 武尊(くにがみ・たける)は、宙を舞うガーゴイルたちを見上げて肩を落とした。ガーゴイルの数は並のものではない。姿が見えないとはいえ、一般人がパニックになるのも理解できた。
 とはいえ、ここ秋葉原ではそれほど大きなパニックにはなっていなかった。
 武尊たちが迅速に対処に動いたおかげでもあるが、被害が少ないのだ。そのせいか、秋葉原の一般人たちは武尊たちがガーゴイルと戦っているのを、一種のパフォーマンスだと思っていた。
 幸い、新作ゲームの発売日が重なっていたのが幸を奏したらしい。ゲームの発売を記念したイベントだと、勝手に推測する客の姿がちらほら見えた。
 しかし、それにも限界があるだろう。
 光条兵器の銃から光のケーブルで繋がっている携帯電話――そこから声が発せられた。
『おい、武尊。さっさとケリつけてくれねぇと、こっちもこれ以上は誤魔化しきれないぜ』
 声色は愛くるしいものがあるものの、口調はいかめしい不良のそれである。ドスを利かせており、いかにも触れると火傷するぜ、と言わんばかりだ。
 武尊のパートナーの猫井 又吉(ねこい・またきち)の声である。三毛猫姿のゆる族という、マスコットには最適なキャラクターをしているくせに、なぜか不良なのである。
 武尊は携帯を手にとって首をかしげながら尋ねた。
「どういうことだ?」
『さすがに不審がる連中も出てきてるってことだ。パフォーマンスにしちゃ、武尊の動きはすげぇがそれ以外は見えないわけだしな。あと、信じてる連中は連中で、いい加減に交通封鎖が長すぎるって苛立ってやらぁ。いつガーゴイルが一般人のほうに手を出してくるかわからねぇし、そろそろ避難誘導に移ったほうがいいかもな』
「まあ、その辺は任せるさ。こっちは魔物退治で忙しいんでね」
『あ、てめこら――』
 無責任な発言に又吉が文句を言おうとしたが、その前に武尊は通話を切った。
 と――ゴウッと風が唸る音とともに人影が飛び出したのはその時だった。
「はああぁぁっ!」
 ブライドオブブレイドという強化型光条兵器の剣を操る娘――高嶋 梓(たかしま・あずさ)である。歴戦の戦士に負けない卓越した動きで、彼女はガーゴイルを叩き斬る。
 さらには、そこにバズーカが撃ち込まれてきた。
「なんだっ……!?」
「武尊、危ないぜ」
 背後から聞こえたのは、整然とした青年の声だった。振り返ると、そこにはホエールアヴァターラ・バズーカを構える湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)がいる。
 再びバズーカを撃ち込んで、亮二は武尊に向き直った。
「遅れてわるいな」
「来るなら来るって連絡ぐらいしてくれよ」
「ありゃ? 又吉に言っておいたんだが……聞いてなかったか?」
「…………」
 通話を切ってしまったから聞けなかったなど言えるはずもなく、武尊は言葉なくガーゴイルのほうを向いた。
「そっちは二人だけか?」
「いや、姫宮さんも一緒かな」
 亮二が言う通り、ガーゴイルと戦闘を繰り広げているのは彼らだけではなかった。
 空を飛ぶ、箒に乗った少女の姿――姫宮 みこと(ひめみや・みこと)が、敵の一群へと果敢に挑んでいくのが見えた。光の浄化魔法“バニッシュ”を放ってガーゴイルを次々と倒していく。
「あるべき処に還りなさい!」
 フロンティアスタッフと呼ばれる、新天地へと続く道を照らし出す者がかざすと言われている杖を掲げる姿は、さながら異界から現れた魔法使いのそれである。
 殲滅が終わると、箒に乗った巫女は風に乗って地に降り立った。
 同時に、梓も駆け寄ってくる。ここら一帯のガーゴイルの姿は消えたようだった。
「空飛ぶ巫女ってのも、乙なもんだよな」
 精悍でいかついパラ実四天王の一人が愉快げに笑う。
「……な、なんかその発言って変態チックです」
 みことは顔を赤くして少し距離を引くと、じと、と彼を見やった。
「ははっ、まあそう言うな。誉めてるんだからよ。ところで……次はどこになる?」
「アルマップビル前で魔物が暴れているそうですわ」
 梓が亮二から聞いた内容を伝達した。アルマップと言えば、この時代では有名なゲームショップだ。特にパソコンゲームが充実している。ここからそう遠く離れていないはずだ。
 亮二は、一刻も早く駆けつけるべく皆に告げた。
「急ごう」


「はぁー、いや、なんか……電子部品だけでいうならこっちのほうが充実してるなぁ」
 秋葉原の大通りに立って辺りのビル群を眺め回しながら、そんなことを青年がつぶやいていた。
 手にはソフトクリームを握って、肩にはバックパックを背負って――いかにも、観光に来たという出で立ちである。さらには田舎者丸出しで周りをきょろきょろと見ているのだから、余計にその雰囲気は増していた。
(この時期……ワイはドイツ住まいだったからなぁ)
 七刀 切(しちとう・きり)はそのように思い出す。
 日本など、一度や二度しか来たことがなかったのではないだろうか。パラミタの空京は日本らしい雰囲気のある街だが、やはり高度な文明によって固められていることは否めない。
 それに比べれば、この電子部品や萌え商品が立ち並ぶアナログな雰囲気は、彼にとって新鮮そのものだった。
 そんなわけで、切はとにかく興味がそそられるものを片っ端から見て回った。
 新作ゲームの発売広告があれば、どんなゲームかを群衆の後ろからのぞき見る。メイド喫茶なるものがあれば、客寄せで街に出ていたメイドを写真に収める。ラジオ部品を見ると、機晶技術とはまた違った非常に細かで複雑な技術体系に、感動で目を光らせた。
 ドンッ。
「おっとすまん、ねぇ……え?」
 何か大きな影と肩がぶつかったのはそのときだった。
 謝りぎわに振り返った白髪の青年は、その正体を見て驚きに目を見開いた。
「どわあああぁぁっ!?」
 それは――魔物だった。
 突如襲いかかってきた魔物は、その鋭利な爪で切を八つ裂きにしようとした。わちゃわちゃとなりながらも、とっさに避ける切。が、その手に握られていたソフトクリームは、勢い誤ってぐちゃっと路面に落ちてしまった。
「のあああああああぁぁぁっ!? ワイのそふとくいいいぃむうぅっ!」
 これ以上ないぐらいにがっくりと肩を落として、時間旅行者は大仰に嘆いた。そんなものいくらでも買えるではないかという理屈は彼には通用しない。
 魔物だろうがなんだろうが、ソフトクリームの恨みは晴らさねばならなかった。
 それが――ソフトクリームを買った自分と買われたソフトクリームとの絆だから、である。
「やろうぶっころしゃー!」
 かくして、自由な若者と魔物と戦闘が始まった。