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里に帰らせていただきますっ! ~ 地球に帰らせていただきますっ!特別編 ~

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 ■ ティータイムは念願のあの場所で ■



 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)御神楽 環菜(みかぐら・かんな)と結婚して、1年と少し。
 パラミタ横断鉄道の実現目指して日夜奔走していることもあり、時間の都合がなかなかつかず、実家への環菜の顔見せが延び延びになってしまっている。
 そのことがずっと気になっていた陽太は、今年こそは実現させようと日程を調整し、なんとか帰省の為の時間を捻出した。


 陽太から帰省の連絡を受けた母の影野 栞は、さてどうしようかと考えた。
 息子夫婦のはじめての顔見せとなれば、親とて緊張するものだ。
「部屋はどうしようかしら。陽太の部屋はそのまま残してあるけれど……」
 蒼空学園入学を機に家を出るまで陽太が使っていた部屋はあるのだけれど、勉強部屋の延長線にあるそこに夫婦を泊まらせるというのも窮屈そうだ。
「1日2日のことなんだから、客間を使ってもらえばいいだろう」
 父の影野 祥一の提案に、栞はそうねと答えて少し笑った。
「息子が客間に泊まるだなんて、なんだか不思議だわ。あの子も所帯を持ったってことなのね」
 自分たちが考えていたよりもずっと早く、息子の陽太は自分の家庭を持つことになった。まだまだ子供のように思っていた陽太が、そうして1つの家庭となったのだということを、栞は改めて実感したのだった。


 里帰り当日。
 どこか緊張した雰囲気の両親に、陽太と環菜は影野家に迎え入れられた。
 陽太も少し緊張していたが、環菜だけは普段と変わりない。陽太と結婚したことを報告し、これからよろしくと挨拶した。
「こちらこそ息子をよろしくお願いします」
 母は環菜に挨拶を返すと、美人なお嫁さんが来てくれて良かったわねと、陽太に微笑みかけた。
「はい、俺は幸せ者だと思います」
 照れながらもはっきりと言い切る陽太に、母は安心した様子だった。
「2人とも疲れたでしょう。まずは部屋で休んでちょうだい」
「ではそうさせてもらいます」
 環菜をいたわりつつ、陽太は自分の部屋に行こうとしたが、それを母に止められる。
「夫婦で泊まるには、部屋は手狭でしょう? 客間を用意してあるからそちらへどうぞ」
「あ、そうですね。環菜、こちらです」
 陽太は先に立って環菜を客室へと案内した。


 その日の食卓には、母の心づくしの和食が並んだ。
「お寿司の出前を取ろうかとも考えたんだけど、久しぶりに戻ってきた息子には家庭に味をふるまうべきだと思って。環菜さんのお口にあうといいんだけど……」
 胡麻豆腐や賀茂茄子のあんかけ、鮎の焼き寿司等、京都らしい料理を囲み、陽太にとってはしばらくぶりとなる両親との家族団らんの時間を楽しむ。
 話題は普段両親が知ることのない、パラミタでの2人に関することが多い。
「息子はパラミタで、ちゃんとやれてるのかしら?」
「そうね。よくやってくれてると思うわ」
「それは良かったわ。向こうでの生活ってどんな感じなのかしら? 鉄道関係の仕事をしているのよね?」
「ええ。今はパラミタ横断鉄道事業に取り組んでいるわ。鉄道の幅1mあたりの輸送力はあなどれないものがあるわ。パラミタの道路の整備状況からみて、少ない土地面積で大量輸送が可能な鉄道は、かなり有効な交通手段となるはずよ」
 何を聞かれて、それに対して環菜が何と答えるのか。母と環菜の会話を、陽太はびくびくしながら聞いていた。
 両親と妻。出来ればうまくやって欲しいと思うのは、夫として当然の願望だ。
 母は優しい人だし、環菜も質問に率直に答えているから、今のところはなんとか大丈夫そうか、と陽太が安心しかけたその時、
「良かったらアルバムを見てみる?」
 母が古いアルバムを出してきて、陽太の小さい頃の写真を環菜に見せた。
 アルバムの中の陽太には確かに目立つ感じはないけれど、どの写真も優しそうな雰囲気で写っている。
 中学3年生の頃には、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が写っている写真もあった。
「親から見ても、陽太は地味で目立たない子だった。少なくとも、中学校卒業までは全くもてていた様子も見られなかったしね。契約相手のエリシアも、そういう対象では無いように見えた。きっと恋愛とはあまり縁はないだろうと思っていただけに、こんなに早くお嫁さんを連れてくるとは、予想外だったよ」
 父は懐かしげにアルバムの写真を見やりながら、環菜に尋ねる。
「それで……環菜さんはうちの息子の、どこが良い所と感じたのかな?」
 聞かれた本人よりも、陽太のほうがどぎまぎして環菜の顔をそっと伺った。
「嘘を付かない真っ直ぐなところね。時々愚直とも思えるけど、そこを信頼しているわ」
 環菜は照れる様子もなく、これまでの質問と同じようにさらりと答える。
「なるほど。陽太の実直な所を気に入ってくれたんだね」
 環菜が妻となってくれたのは、誠実に育ってくれた陽太への褒美なのかも知れないと、父は目を細めた。
「ああそうだ。職場のみんなに見せたいから、良かったら一緒に写真を撮ってもらえないだろうか?」
 祥一・栞夫婦と、陽太・環菜夫婦。
 2組の夫婦は並んで写真に収まった。


 家族との団らんが終わると、陽太は環菜を自分の部屋に案内した。
 勉強机の棚にずらりと並べられた参考書類は、パートナーにせっつかれて陽太が蒼空学園に入学するべく、猛勉強した痕跡だ。
 この勉強の甲斐あって、陽太は無事に蒼空学園に合格し、その入学面接の時に環菜と初めてであったのだ。
 そう思うと、あの頃がんばっていた自分に、よくやったとねぎらいの言葉をかけたくなった。

 その後は両親の用意してくれた客間に戻った。
「環菜、今日は疲れたでしょう」
 自分にとってここは慣れ親しんだ実家だけれど、環菜にとっては夫の実家、それも初顔合わせとなれば疲れるのも当然だ。そう気遣って陽太が尋ねると、環菜は少し笑った。
「私よりもあなたの方が疲れてるように見えるけど?」
 そう言われて考えてみると、確かに疲労感がある。
 両親と環菜の会話にはらはらしたり、間に立って両者の関係がスムーズにいくようにと取り計らったりしていた所為だろうか。
「お互い疲れているようなので、今日は早めに休みましょうか」
 そう言って陽太は早めに床に就くと、環菜と取り留めもない色々な話をしながら眠った。
 自分の生家に環菜がいる、という不思議で新鮮な感覚に何とはなしにどきどきしながら。


 翌日は陽太が生まれ育った街を見せるべく、環菜を付近の散歩に誘った。
「京都の夏は暑いですからね」
 せめて日差しだけでも遮ろうと、陽太は環菜にお洒落な日傘をさしかけた。
 1本の日傘を相合い傘に。
 2人は古い街並みを散策して風情を楽しんだ。

 散歩の最後に、陽太は1軒の寂れた喫茶店に環菜をに誘った。
 その喫茶店に陽太は入ったことが無い。
 けれど、中学生時代の通学路にあるこの店のことは当時ずっと気になっていた。いつか入ってみたいと思いつつ、そのままパラミタに行ってしまった。だからこの機会に環菜と入ってみようと思ったのだ。
 いらっしゃいませの声に迎えられて入った店は、至って普通の喫茶店だった。
 カウンターでは常連客らしき人がママさんと話に興じ、ボックス席には新聞を広げるサラリーマン風の男性。
 頼んだものが来るのを待つ間、陽太は窓から外を眺めた。
 夏休み期間だから通学途中の学生の姿は見られないけれど、通りを歩いてゆく人々が見える。
 中学に通っていた頃の自分は、ここから見たらどうだったろう。
 そんなことを考えていた陽太は、環菜が自分を見ていることに気付き、説明する。
「この前の道が俺の通学路だったんですよ。その時からずっと気になっていたんですが、中学生だったので喫茶店に入るのはちょっと躊躇われたんです。だからいつか入ってみたいと思っていました」
 それを聞いて環菜は、ああと納得した様子になった。
「念願の店ってことね」
「そうです。この店に環菜と2人で来ることが出来るだなんて、なんだか不思議ですね……」
 そこはなんてことはない普通の喫茶店だったけれど、郷愁と、そして愛する妻と一緒に来られたことに対する感動をおぼえて、陽太に幸せがこみあげる。
 環菜は口元を綻ばせ……それからゆっくりとコーヒーカップを口に運んだ。