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里に帰らせていただきますっ! ~ 地球に帰らせていただきますっ!特別編 ~

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 ■ 母との再会 ■



 地球から届いた手紙を手に、リネン・エルフト(りねん・えるふと)は途方に暮れていた。
 最近、リネンはテレビへの露出が増えた。
 それも、大人気のインタビュー番組『トッドの部屋』に、パラミタで活躍している契約者としてゲスト出演したり、空京TVの『コントラクターズ&イコンズ』に義賊として駆けつける空賊団として出演したりと、地球でも放映されている番組に出たりもしている。
 だからなのだろう。
 TVで見た顔に面影があるからと、リネンの実の母だというラン・エクルベージュから会いたいという手紙が来たのだ。
「どうしよう……」
 困惑したリネンはその手紙を懐に抱いて、フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)の所に相談しに行くことにした。
 本当は弱い自分を見せたくないから、あまりフリューネに頼りたくはないのだけれど、いざどうしようもない事態に陥った時、一番最後に頼りにするのはフリューネを置いて他には無い。

「どうしたの? そんなに血相を変えて」
 真っ青な顔で飛んできたリネンに、フリューネは訝しげな顔を向けた。
「地球から、手紙が届いたの……お母さんだって人から……会いたいって……」
 これ、とリネンは震える手で手紙を見せた。
「まだ、フリューネにしか話してない……怖いの……今更、両親がいたなんて、空賊団のみんなに話したら……」
 どんな反応をされるのか怖い、とリネンは唇を噛んだ。
「それで? キミはどうしたいの?」
「どう、って……?」
「会いたい? それとも会いたくない?」
 フリューネに問われ、リネンは分からない、と首を振る。
「知りたかったの。本当の両親のこと。だけど、知りたかったのに怖い……」
「それなら会わずに置く?」
 会わなければ怖い思いをしなくて済む。こんな手紙など無視するか、人違いだと突っぱねてしまえばそれだけのことだ。
 なのに。
「怖いけど……知りたい……」
 実の母親に会ってみたい。そう願う気持ちもまた自分の中にある。
「知りたいなら会ってみれば?」
 1つ1つ順を追って問いかけてくるフリューネの言葉に、リネンは少しずつ自分の内にある気持ちを理解していった。
 そう、多分自分は会いたいのだ。実の母親に。けれどそれが怖くて会う勇気が出ないのだ、と。
「お願い……助けて、フリューネ。一緒に来て。そうしたら……きっと……」
 ようやく自分がどうしたかったのか分かったリネンがそう頼むと、フリューネは仕方ないわねと笑った。
「私が付いていけば帰れるの? なら付いていくわ」


 ランの住んでいるという欧州の小さな村に向かいながら、リネンは以前にも簡単に話してあった自分の生い立ちなどを、改めてフリューネに説明した。
「生き別れの肉親って言っても、私の方はね、全然記憶ないの。気付いた時には欧州の犯罪組織に買われて、色々されてたから」
 その時に、おまえは親に売られたんだと罵られたこともあったけれど、実際どうだったのかリネン自身は憶えていない。
「手紙の中には、私の本当の名前はアマニなんだって書いてあった。でもそれも憶えてないの。今の名前はね……元は組織の記号。黄色人種【リネン】の、11号奴隷【エルフト】って。もうあまり気にしてないけどね」
 今更、アマニ・エクルベージュなのだと言われても、自分の名前だなんてとてもじゃないけれど思えない。
 けれど、その名をつけてくれた人には……会ってみたかった。


 人目のあまりない時間帯を選び、リネンはランの家を訪ねていった。
 貧しげな家の扉を叩くと、50代ぐらいの女性が顔を出した。髪と眼の色はリネンと同じ黒だけれど、白髪と疲れが目立つ為に老けた印象だ。
「アマニ……やっと会えた」
 リネンを見たランの目に、みるみる涙がふくれあがる。
「あの、こんばんは。エクルベージュさん……」
 そう呼ぶしかないリネンに、ランは洗いざらしのエプロンで涙を押さえた。

「ごめんよ、アマニ」
 リネンとフリューネを居間に通すと、ランはこれまでの経緯を語った。
 リネンが幼い頃に夫を亡くしたランは、生活が難しくなった。娘を手元に置きたいのは山々だったけれど、それでは生活が成り立たなくて共倒れになってしまう。自分よりももっと経済力のある人に買ってもらったほうが娘の為でもあると自分に言い訳をして、当座の生活費の為にリネンを売ってしまったのだ。
「けどね、おまえのことを忘れたことはなかったよ。生活に余裕の出来た数年前からはずっと、アマニの所在を捜してたんだ。一体どこでどう暮らしているのかってね。それがこの間、テレビを見てたら出てるじゃないか。あたしの娘がテレビに出るほど有名になるとはねぇ。ほんとに嬉しかったよ」
 そう話すランの目からはまた涙があふれ出す。
「私は……組織をユーベルと脱走して、パラミタに逃れたの」
 リネンはランに今までのことをかいつまんで話した。ランはリネンの話に耳を傾け、驚いたり悲しんだり詫びたりと、親らしい反応を返してくれる。
「それで今は、義賊として空賊団を率いているの」
「空賊団……それって空の海賊なんだろう? いけないよ、そんなのヤクザもののすることじゃないか」
「大丈夫よ。私たちは弱い者から奪ったりはしない義賊だから……」
「犯罪に手を染めるのはおやめ。今あたしは日系人街で小さな雑貨屋をしてるんだよ。日銭を稼いでるだけのつましい生活しか出来ないけど、あんたと2人、真っ当に生きていくことぐらいは出来る。アマニ、うちに帰っておいで。これ以上、悪事を重ねちゃお天道様に顔向けできないよ」
 がしっとランに掴まれた手を、リネンは反射的に振り払った。
「違う。私たちがしてるのは悪事なんかじゃない」
「アマニ……」
 ランの顔はとても哀しげで、リネンのことを心配してくれているのは伝わってくる。けれど彼女の感覚とリネンのものは、あまりにも違いすぎた。
「あたしのことを怒っているんだね……当たり前だよね……あたしはあんたを売り飛ばしたんだから」
「別に怒ってなんかいないわ。そういう人はたくさん見てきたし……」
「すまない、許しておくれ……そしてどうか、空賊とかパラミタとか、恐ろしげなものと関わるのはもうやめて、普通の女の子として幸せに暮らしておくれ」
 涙でかき口説いてくるランがリネンのことを思ってくれるのは分かる。
 悪い人ではないのだろう。ただ彼女の知る世界は、リネンが過ごしているものとあまりに隔たっている為に、理解することが出来ないのだ。
 リネンはランに今の自分を伝えようと努力してみたが、それはすべて徒労に終わった。
 どこかそぐわない親子の対面を終えた別れ際、リネンはこうランに挨拶した。
「さようなら、お母さん」
「こんなあたしを母と呼んでくれるのかい……」
 ランはまた涙をぬぐっていたけれど、それはリネンの別離の意だった。


 帰り道、リネンはフリューネに謝った。
「ごめんね、フリューネ……楽しい話じゃなくて……」
「楽しい話だと思って同行した訳じゃないから構わないわよ」
 そう言うだけで何も聞かないのは、フリューネの優しさであるのだろう。
「お願いがあるの……今日のことは……2人だけの、秘密にさせて。皆には……お母さんは死んだって……」
 リネンは涙声でそう頼んだ。
「そもそも私から他の人に言うことでは無いわ」
 人の秘密を誰かに話したりはしないと言うフリューネに、ありがとう、とリネンは呟いた。
「私はもう、フリューネたちと冒険してきた『リネン』だから……お母さんの『アマニ』じゃないから……ッ」
 堪えきれずにしゃくりあげるリネンを、フリューネは何も言わず、ただ静かに受け止めた。