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里に帰らせていただきますっ! ~ 地球に帰らせていただきますっ!特別編 ~

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 ■ はじめての顔合わせ ■



 その日、朝から桐生 円(きりゅう・まどか)は落ち着かなかった。
 仕事をするパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)の周りをうろうろしてみたり、そっと様子を窺い見てみたり。
「……円? 何?」
「あ、うん……あのね。お仕事忙しいならいいんだけど、おとー様がね、おつきあいしてる子に会ってみたいから連れてきなさいって言うんだー。今度、ボクの実家に一緒に行かない?」
 思い切ってそう誘ってみると、パッフェルは即答した。
「……行く」


 そこで円はヴァイシャリーのお菓子を手土産に、パッフェルを連れて千葉の実家に帰ることにした。
 新幹線から家に帰るまではパッフェルの眼帯の方、腕を組んでいるつもりで、右側から手を繋いで実家に向かう。
 パッフェルと一緒なのは嬉しいのだけれど、実家付近になると円の顔には不安が色濃くさしてくる。門の前に立った時には緊張もピークで、チャイムを押そうか押すまいか、門から実家を覗き込みながら迷った。
 自分1人でなら逃げ出すことも出来るのだけれど、今日はパッフェルがいる。
(今日は出来るだけ堂々としていなくっちゃ)
 内心のドキドキを隠して、円は勇気をもってチャイムを押した。
 チャイムに答えて、母親の桐生 周がやってきて、いつものように円を抱きしめてくれる……そう思っていたのだけれど。
 出てきたのは、父の桐生 忠勝だった。
 今日に限ってどうして!
 円は慌てたけれど、ここで回れ右するわけにもいかない。ぎゅっとパッフェルの手を握って父に挨拶した。
「おとーさま、ただいま。お付き合いしている、パッフェル・シャウラさんです」
「そうか」
 娘の挨拶を忠勝はその一言で済ませ、パッフェルに硬い笑顔を見せる。
「父の忠勝です、円がお世話になっています」
 落ち着いているようだけれど、忠勝は目を動かさないように気をつけながらパッフェルを観察していた。
(円よりは少し年上だろうか。綺麗な人だ。何処かで見たことがある気がするが……思い出せないな。この衣装はシャンバラでは当たり前なのだろうか。かなり奇抜だが、時代は変わるものだからな。おっと、いかん。父としては外見より中身を確かめなくては)
 小さく咳払いをすると、忠勝は家の中を示した。
「入りなさい」
「うん。じゃぁ、行こう?」
 父のそっけなさに拍子抜けしながら、円はパッフェルの手を引いて中に入った。


「お帰りなさい、円。あら、かわいらしい。その方が円の恋人さんなのね」
 お茶の用意をしていた母が、円とパッフェルを見てにっこりと笑った。
「パッフェル・シャウラさんだよ。あ、これボクたちからのお土産」
「まぁ、ありがとうございます。ちょうどお茶が入りましたから、どうぞ座って下さいね」
 嬉しそうに土産を受け取ると、周は皆をリビングへと促した。

 いざお茶をはさんで差し向かうと、リビングにはどことなく緊張が漂った。その緊張の原因は概ね、円と忠勝なのだけれど。
 不安でたまらなくなった円は、パッフェルの顔を見ながら手を握る。
(今思い出したけど、地球だと女の子同士って変わってるよね。注意されるのかな?)
 パラミタでは同性同士は珍しくないけれど、父の感覚では変だろう。何を言われるかと円がびくびくしていると、忠勝は円ではなくパッフェルに質問を向けた。
「パッフェルさん……は、娘の何処が気に入ったのかな?」
 うわ、いきなりそこから、とはらはら円は見守るが、パッフェルの方は平常心のままだ。
「……全部。嫌いなところ、は1つ……も、ない」
「あ。えー……普段の円はどんな感じなのかな? 我が儘を言い、困らせたりしてないか?」
「……そんなことは、ない。……我が儘は、自分に素直……なだけ。困ることは……ない。もっと頼って、欲しい」
「そ、そうか……」
 率直すぎるパッフェルの答えに、忠勝のほうがたじたじだ。
「パッフェルさん、それから円。将来どんなことをやりたいのか、考えてはいるのかな?」
「え、将来の夢ー?」
「そうだ。今は焦らなくて構わないが、2人でどうしていきたいか、いずれ答えを出してほしい」
 父から振られた質問を、円は考える。
 円は趣味で野球の広報をやってみてたり、悪の秘密結社で大量にペンギンの戦闘員を作ったりしているけれど、パッフェルはロイヤルガードなことだし、皆に胸を張って自慢できる職業の方が良いだろうか。
(お嫁さんとかも素敵かも? でも、まずは百合園短大頑張らないとー)
 あれこれ考える円と対照的に、パッフェルに迷いはなかった。
「将来は……サバイバルゲームショップを、2人で開き……たい」
 その答えに忠勝は、パッフェルはどうやらしっかりした子らしいと判断した。だからそれ以上の質問はやめ、パッフェルに頭を下げる。
「円を甘やかさないよう、よろしく頼む」
「……はい」
「今日はよく来てくれた。遠慮せず、我が家だと思ってゆっくりしていきなさい」
 これで緊張が解けると良いと思いつつ、忠勝は1人で部屋の隅に新聞を読みに行った。もちろん、耳はしっかり円たちの方に傾けて、ではあるけれど。

 忠勝が仏頂面……本人はきっと苦み走った大人の顔だと思っているのだろうけれど……で新聞を読み始めたのをみて、周は娘たちの味方をしようと、軽い調子で話しかけた。
「パッフェルさんは本当にお洒落で素敵な人なのね。円が自慢する気持ちも分かるわ。2人は何処で知り合ったのかしら?」
「……仕事で知り、合った」
「それで、告白したのはどっちから?」
「……円、から。……嬉しかった」
 答えるパッフェルに円も言葉を添える。
「ボクが万博の時に告白したの。そしたら恋人になれたらきっと素敵、って言ってくれたんだ」
 ね、と円はパッフェルと視線をあわせた。
「デートの時には2人で何時も、何をしてるのかしら?」
「……買い物をしたり、キス……をしたり」
 パッフェルが答えた途端、部屋の隅から激しい咳き込みが聞こえた。
「おとー様、どーしたの?」
「いや何、お茶が気管に入っただけ……げほごほっ」
 肩で息をしている父に、円は気をつけてねと声をかけた。
 周は忠勝から円の気を逸らせようと、質問を重ねる。
「パッフェルさんは普段はどんなお仕事を?」
「……シャンバラ宮殿で、女王を守って……いる」
「まあ、立派なお仕事をしてるのね。円は学校の勉強とか、ちゃんとやってます?」
「ちゃんとやってるよ」
 円は焦りながら答えたけれど、その言いつくろいをパッフェルが無にしてしまう。
「……あまりやってない。いつも私、が教えて……いる」
「あらまあ」
 くすくす笑う周を前に、円はばつが悪そうに下を向いた。


 ある程度聞きたいことを聞いてしまうと、周は時計を見て立ち上がった。
「そろそろお料理に取りかからないといけないわね。2人とも、手伝ってくれるかしら?」
「うん、お料理手伝うよー。パッフェルも一緒にお手伝いしよー」
「……料理は大、得意」
「それは期待大ね。娘が1人増えたみたいで嬉しいわ」
 周は2人をキッチンに連れて行くと、はいこれとエプロンを手渡した。

 パッフェルにこの辺りの料理を知ってもらいたいからと、周は簡単な郷土料理をメニューに選んだ。
 得意と言っていただけあって、パッフェルの手つきは良い。反対に円は自信なさげだったけれど、失敗するまいと懸命にやっている姿は微笑ましい。
「パッフェルさん、後で円のアルバムとか見てみます? ちっちゃくて可愛いわよ」
「……見たい」
「えーっ? アルバムってどれ? 変な写真入ってない?」
 わたわたと慌てる円が可愛くて、周は笑みをこぼすのだった。


 郷土料理の夕食を終えると、皆で円のアルバムを見たり、小さい頃の円の話をしたりして時間を過ごした。
 その夜はパッフェルは円の部屋で泊まり、翌日にはパラミタへ発つ。

「おとー様、おかー様、また来るからねー、病気しないようにね」
「円もね。パッフェルさんも身体は大事にしてね」
 周は名残惜しく2人を見送る。
 忠勝も外まで送りに出てきて、2人に声をかけた。
「……また、2人で遊びに来なさい。パラミタは安全な場所ではないのだろう? くれぐれも気をつけてな」
「うん、気をつけるよー」
「……はい」
 別れがたいけれど、パラミタに戻らないわけにはいかない。円は後ろ髪を引かれる思いを振り切ると、またねとパラミタに向けて出発した。

 家が見えなくなるくらいまで来ると、円はパッフェルに謝った。
「ごめんね、色々緊張してたー。……どうだった? 質問ぜめで疲れてない?」
 心配になって尋ねると、パッフェルはそんなことはないと答えた。
「……素敵な両親だ、と思う。……私には親が居ない、から……羨ましい」
 その答えに、両親に親に愛されていないと思いこんで、すねていた頃の自分を思い出して、円の胸はちょっと痛む。
 パッフェルに親をあげることは出来ないから、代わりに円はパッフェルに身を寄せる。
 ――親が居なくても、今はボクがここにいるよ。
 触れ合う体温が、口に出さない気持ちを雄弁に伝えてくれるようにと。