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女王危篤──シャンバラの決断

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女王危篤──シャンバラの決断
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山葉 涼司

 蒼空学園。
 火村 加夜(ひむら・かや)が時間を見計らって校長室を訪れる。ちょうど校長への陳情を終えた生徒達が、部屋を辞する時だった。
「失礼します」
 加夜が礼儀正しく挨拶して校長室に入ると、広い机の上が書類の山で埋まっている。
「加夜、か?」
 書類の陰から山葉 涼司(やまは・りょうじ)校長が、顔をのぞかせる。少々疲れた表情に、加夜の胸が痛む。
「お忙しいところ、すみません」
「いや、こいつも校長の職務だからな。俺がなんとしてもやらねぇと。
 それで今日は何だったっけな……?」
 涼司はスケジュール帳を探そうと、書類の間をまさぐる。
 代わりに加夜が答えた。
「アムリアナ女王を励ますメッセージを涼司くん……、いえ、山葉校長からいただけないか、お願いに来ました。
 女王は危篤の状態で一人戦っています。消えかかっている命を救うために、力を貸していただきたいのです。何もせずにただ傍観しているなど、お考えではありませんよね? 蒼空学園の校長として、二度と同じ過ちを繰り返してはいけません」
「二度と、か……」
 涼司がつぶやいた。彼も加夜も御神楽環菜(みかぐら・かんな)の事を考えていた。今、ナラカでは環菜を取り戻そうと、多くの生徒が動いていた。
「俺が……」
 涼司が何か言おうとするが、言葉を飲み込んだ。環菜ではなく自分が、校長として女王へのメッセージを出してよいのか迷っているようだ。
 彼の心情を察した加夜が、ふたたび口を開く。
「女王の意識を取り戻すため、メッセージを頂きたいのです。今の山葉校長なら、命の大切さを充分に理解されてるはずです。その心を私に届けさせて下さい。必ず助かるように私も尽力致します」
 涼司が大きく息をつく。
「……分かった。俺からもメッセージを送ろう」
 加夜は、涼司が手紙は書きなれてないと考え、デジタルビデオカメラを持参していた。涼司は緊張した面持ちで、カメラの前に立つ。
「アムリアナ女王陛下、えー、こういう形では初めてお目にかかります。蒼空学園の校長をしている山葉涼司です……」


 どうにかメッセージを語り終えた涼司は、心配そうに加夜の持つデジタルビデオカメラの画面をのぞき込む。
「どうだった? ちゃんと言えてるか?」
 二人の距離が急に縮まった。
「……あ」
「っと、悪ぃ。ど、どうやら上手く撮れたようだな」
 赤面した加夜から、涼司は急いで離れる。
 加夜は大急ぎで頭の中から、言うべき言葉を捜す。
 その時、校内放送が「ピンポンパンポーン」と特徴的な音を響かせた。放送が臨時の全校集会を開く事を告げる。
「おっと、集会で話さないといけないんだった」
 涼司は急いで部屋を出て行った。