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【創世の絆】西に落ちた光

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【創世の絆】西に落ちた光

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★第一章・1「協力って大事だね」★


 基地内を歩いていた松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は、ふと足を止めた。簡素なプレハブ小屋には手書きの看板が掲げられており、そこにはこう書かれていた。

『情報管理室』

 看板を確認した岩造は、ドアを開けて中へと入った。
 ここの提案者である佐野 和輝(さの・かずき)が、書類に落としていた目を岩造へ向け、机を人差し指でトントンと叩く。和輝の後ろに隠れていたアニス・パラス(あにす・ぱらす)は、その音にハッとしてから結界を張り、訪問者に邪念がないか、意識を研ぎ澄ませて探る。

(んっと……うん。この人は大丈夫みたい)

 ほっと安心するアニスだが、決して和輝の陰から出ようとしない。彼女は人見知りなのだ。
「すまない。情報の買い取りではないのだが、頼みがあってな」
 岩造の言葉に、和輝は怪訝そうに眉を寄せた。情報管理室、という名前が付いているが、要するに情報の買い取りをしているのがこの一室だ。
 買い取った情報をまとめてジェイダスが買い取り、その中からすぐに公表した方がいいと判断される情報が通信局から全員へと発信される。
 ほとんど何も分かっていない現状。情報を個人で所持するより、全員で共有するメリット方が大きい。情報を買い取ることで調査意欲を増す目的もある。
 つまり、情報の買い取りに関する以外でここを訪れた岩造の意図が、分からなかったのだ。
「じゃあどうしてここに?」
 和輝の声に、岩造は少し考えた後、説明を始めた。

「俺は今、畑作りをしている。自給自足は必要だからな。
 とりあえずシャンバラや地球の食物を植えようと思っているが、ニルヴァーナに自生する植物で栽培できそうなものがあれば、それに越したことはない。なので食べられる植物に関する情報が欲しい」

 そう言いつつ、岩造は畑作りに関するジェイダスの許可証を和輝に見せた。和輝は書類を確認した後、少し考える。
 自給自足は、これからのことを考えると確かに必要だろう。
「分かった。依頼書のような形で広く募集して、何か情報が入ればすぐに知らせよう」
「ああ、頼んだ」
 部屋を出ていった岩造を見送り、和輝は禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)に声をかける。
「言われずともやっておる。依頼書の作成だろう?」
 10歳ほどの子供に見えるダンタリオンは、岩造の話を聞いた時からすでに依頼書を作成していた。すぐさま出来上がった依頼書を傍にいるスノー・クライム(すのー・くらいむ)に渡し、自身は情報をまとめる作業に戻る。危険だと判断したものは自身の中へとしまう。その動きには無駄がない。
 が、実際は動くのが嫌なだけだったりする。そんなダンタリオンに苦笑しつつ、スノーは書類を和輝に見せて確認を取る。
「内容、これで問題ない?」
「……ああ」
 スノーはその依頼書を部屋の外へと行き、入口付近の目立つ所に貼る。そして一息つく。極度の人見知りなアニスや、社交性のないダンタリオンのフォローをし続けているのだ。少し疲れたのかもしれない。
「……はぁ。アニスやリオンの相手をしていると、保育士になった気分になるわね」
 ため息をつきつつも、彼女は笑っていた。なんだかんだといいつつも、その役目を気に入っているのかもしれない。

 情報管理室には、書類に埋もれている人物がもう1人いた。ニルヴァーナに通信社の支局を作ろうとしている六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)である。
 彼女の周囲にある書類は、基地にいる全員へ知らせた方がいいと判断された情報たちであり、それらを原稿へと落としているのだ。
 通信局の支局はまだできていないものの、すぐに情報を流せるように。
 部屋の隅に机を置いているのは、人見知りのアニスを気遣ってのことだろう。机の上で慣れた様子で黙々と作業している。手慣れた様子だ。さすが、リポーターと通信社の所長を兼任しているだけのことはある。
「よしっと。これであとはジェイダスさんに許可をもらえば、すぐに公表できます」
 施設自体はまだなので音だけでのアナウンスになるだろうが……優希は立ち上がり、和輝たちに声をかける。
「ジェイダスさんのところにいってきます」
 分かった、という返事と結界がとかれるのは同時だった。優希は部屋を飛び出して気合いを入れる。

(この情報が皆さんの役に立つと、いいなぁ)



 中継基地の隅で、その工事は行われていた。
 何を作っているのかと言うと、野外活動においてとても重要な、トイレである。その陣頭指揮を取っているのが

「あ、そこの君。木材がまだ届いてないんだけど、どうなってる?」

 国頭 武尊(くにがみ・たける)だ。
 武尊は近くにいた作業員に声をかける。その作業員が発注したはずなのだ。作業員は怪訝そうな顔をし、物品管理室に確認してくる、と走って行った。
「そっちの穴はもう少し深く。補強はしっかりね」
 さて次にする作業は、と武尊が移動しかけた時、彼の目の前に1人の女性が立っていた。岩造のパートナー、フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)だ。フェイトは柔らかく微笑んで頭を下げる。
「フェイト・シュタールと申します。あなたが国頭 武尊さんでしょうか?」
「ん? そう、だけど?」
 首をかしげる武尊に、フェイトは事情を説明する。といっても、畑を作っている、と言っただけで武尊に通じたようだ。
「なるほど。それはこっちからお願いしたいぐらいだ。衛生や悪臭の問題もあるから」
「ありがとうございます」
 物を運んでくるだけでも大変なこの地にて、再利用できるものはした方がいい。
 2人は早速話合いを始めた。

「畑はどこらへんに作る予定なんだ?」
「運搬が大変ですので、できればこの近くに、と考えております。作ること自体は許可を頂いていますので、申請をすれば通していただけるかと。
 まずは多種類を少しずつ植えて様子を見るのであまり土地面積は必要ありませんが、将来的には自給自足できるほどの生産量を、と考えるとかなりの面積を耕すことになります」
「ん〜となると、だ。ここにトイレをつくって、畑は向こう側だな。外側に作ればいくらでも広げられる」

 地図を取り出して相談し合う彼らの元へ、ドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)がやってきた。彼らもまた岩造のパートナーであり、水の調査をしていたのだ。

「こんなところにいたのかよ。探したぜ」

「すみません。彼らはドラニオとファルコンです。水質の調査をしてくれています。それで、あなたたちが私を探していたということは」
「ああ。水、問題ねぇみたいだぜ。ただまあ、近くに水源はねぇから、ため池とか井戸とかになりそうだ」
「井戸のための職人の手配や地脈の調査はすでに依頼してきた」
「ごくろうさまです。あとはため池の場所ですね」
「農業用水にするんだったら、この場所の方がいいかもね」
「…………」
「すぐに水がたまるわけじゃねーから、まずは井戸だな。どこに作れるかはもっと調べねーと」
 その後、いくつか確認事項を話合い、ドラニオとファルコンは自分たちの作業へと戻って行った。……ほとんどしゃべっていたのはドラニオでファルコンは無言であったが。
「今帰った。それで、話はどうなった?」
 岩造が入れ替わりにやってきて、最初に耕す面積や育てる食物を相談し合う。

 白鳥 麗(しらとり・れい)サー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)が駆け寄ってきたのは、その後だった。
 麗はバラ園を作りたい、とジェイダスへ許可をもらいに行った帰りである。

『荒涼たるこのニルヴァーナの大地でも、花が咲き誇り優雅にお茶が飲めるような華麗な場所が必要だと思いますわ。
 一杯のお茶を優雅に飲んで、心を落ち着ける事で良い作戦が浮かび、良い戦いが出来るというものですもの。
 ニルヴァーナで見つけた美しい花の数々をここで栽培し、新型の薬草や香水を作成する事が出来ましたら、中継基地の独自の特産品にすら……』
『ほお。それはいい』

 うんぬんと中々に熱の入った演説であった。ジェイダスもそれは素晴らしい、と快諾。そこで輝く麗の瞳。彼女の本当の目的は、別にあった。

『〜ん……でも、娯楽施設がお茶会だけでは寂しいわね。アグラヴェイン、何か他に娯楽施設の案は無いかしら?』
『は。娯楽施設の案ですか。
 それでは僭越ながら…庭園の地下に地下プロレスリング場などはいかがでしょうか?
 この場所で競い合う事で常に高い戦士の意識を保つ事が出来ます。また、それぞれの肉体的な戦闘力を高めて危険なニルヴァーナへの適応能力の上昇にも役に立つ事でしょう。
 いかがでしょうか? ジェイダス様』

 あらかじめ決めておいたやり取りではあったが、作戦は見事に成功し、施設のバックアップをジェイダスは約束した。
 が、問題はここからだ。バラ園を作るには、ニルヴァーナという土地はあまりにも過酷だ。バラにも種類はあるので、この土地でも育つものもあるだろうが、どちらにせよ土の改良は必須。
 そこで畑を作るという岩造たちに協力を持ちかけたのだ。もちろん彼らに異論はない。共同して土の改良をしていくことになった。

 とりあえずは強く育てやすい植物(蕎麦、大豆、ひえ、粟、キビ、ジャガイモ、サツマイモなど)を植え、土の改良を同時並行し、徐々に種類と量を増やしていくことにした。