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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

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【創世の絆】その奥にあるものを掴め!

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「くそっ、まだかよ!?」
 リファニーの指示によって水晶を狙うことを決めたエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)は、しかし攻撃のタイミングを決めかねていた。
「まだだ。水晶の中をかいくぐって、確実に一撃を決められる時まで待つんだ」
 桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)がエヴァを抑えるように言う。狙う水晶はイレイザーの胸の位置、狙うなら真正面だ。有効な一撃を確実に決めるためには、どうしてもイレイザーの気がそらされた時を狙わなければならない。
「隙さえあれば、一気に水晶をかいくぐって接近できるんだけど……」
 隠れてその隙をうかがわなければならない状況に焦れて、エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)もぎりりと強く剣を握りしめた。
「……皆が協力してくれます。焦りでタイミングを居逃さないように」
 桐ヶ谷 真琴(きりがや・まこと)が、周囲をなだめた。待つしかないのだ。
 イレイザーは、一人で、いや一組で戦うような相手ではない。その力はイコン数機に匹敵し、言い換えれば軍一つにすら匹敵しうる。その相手に対しては、ばらばらに戦って勝つことなどとうていできない。
 だから、彼らは待っていた。彼らがこなすべき役割を果たす時を。


「あれだけの巨体を維持するエネルギーがどのようにして生まれているのか……」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)は、必死に考えていた。迫り来る水晶を雷を放って撃ち落とし、少しずつ、巨体に接近していく。
「あの水晶にエネルギーが封じられているのか? それとも、何かから供給を受けているとか……」
 体とは別に、脳神経をフル回転させている。果たして、あの水晶を砕いたとして、それが意味するところは何であろうか。それで絶命してくれれば気が楽だが、他の場合、イレイザーがどんな反応をするだろう?
「考えたって、砕けなきゃ意味ないんでしょ!?」
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が剣を低く構えた。狙うはイレイザーの正面だ。
「……やるしか、ないわよ」
 水晶のミサイルが届きにくいとはいえ、むろん前脚や牙による攻撃は警戒しなければならない。一気に駆け寄る作戦だ。
「チャンスはあまり多くはない。一度で決めるつもりで行くしかないな」
 イレイザーの爪が届く、ギリギリ外の距離。まっすぐ胸に突っ込むならここしかないという位置取りを、彼らと同様にしたのだろう。同じ狙いの橘 恭司(たちばな・きょうじ)が、低く告げた。対イレイザー装備、ウルフアヴァターラの剣と鎧である。
「分かっています……セルファ、しっかり頼みますよ」
「言われなくたって、やってやるわよ!」
 ためらいは禁物だ。敵の爪が届く前に踏み込み、斬りつける。その後どうやって身を守るかは、考えていなかった。
「……いくぞ」
 タイミングは、恭司に合わせた。魔力を伴った加速が、同時にイレイザーの胸に飛び込んでいく。
「……今だ! 全部全部全部全部全部、ぶちこわしてやれ!」
 びし、と指さしたエヴァに答えて、起き上がったロボット型バイクとイコプラが弾幕をばらまく。飛び交う水晶へのけん制だ。
 軌道を乱された水晶ミサイルを真琴の構えたビームライフルが狙い、融解させていく。
「父様も、早く!」
「おお!」
 恭司らに遅れること数秒、煉が氷の翼を展開して飛び出した。
 奇襲と呼ぶには派手すぎる接近に、イレイザーの前肢が迫る。人の体を吹き飛ばすことなど容易だ。
「盾になるって、誓ったん……だからぁ!」
 エリスが飛び出し、全身でその足を受けた。一瞬の拮抗の後、その体が高々とはじき飛ばされる。何の技術もないような、生命力任せの防御だ。
 だが超人的な加速を続ける契約者たちにとっては、その一瞬で十分だった。
「武器はこいつが有効だ。……任せてもらおう」
 加速そのままの勢いで、恭司の剣……ギフトの刃が、がき、と水晶に突き立った。火花を挙げて、ギフトの刃が自ら食い破ろうとするように水晶に食い込む。
「だったら!」
 セルファの疾風の如き突き。正確無比の剣先が捉えたのは、そのギフトの剣の柄だ。釘を打つように、刃が突き刺さる。
「……これでもまだ、浅いですか!?」
 真人の焦燥混じりの声。人間の体よりも巨大な水晶にはいくつものひびが入っているが、砕くにはまだ至っていない。
「いいや、貫き通してみせるッ!」
 筋力と、魔力と、念力のすべてをインパクトの衝撃に注ぎ込む、煉の奥義、真・雲耀之太刀。その一撃が、恭司とセルファによって突き立てられたギフトを通じて水晶に無数の亀裂を走らせていく。
「……これなら!」
 その無数の亀裂の一つ一つに入り込めとばかりに、真人の稲妻がとどめを刺した。ギフトを介して水晶の中央にまで届いた電撃が、激しい電圧で粉々に打ち砕いたのだ。
 バギン、という砕け散る音がいくつにも重なった。一瞬遅れて、イレイザーの悲鳴じみた方向が、辺り一帯に広がった。


(だが……)
 戦いが始まっても身を隠したままの甲賀 三郎は、その作戦の結果をじっと見つめていた。
(まだだ。まだイレイザーは生命力も、戦意も失っていない。ダメージを受けてはいるが、弱点や急所と言えるほどの効果ではないようだな)
 たとえば心臓のような生命活動に必要な部位であったり、目や耳に相当するような感覚器というわけでもないようだ。
「……なら、あの水晶は一体何だ? なぜあんな非生物的なものが取り付けられている必要があったんだ?」
 答えは出ない。
 だが、人間の手による強力な一撃で、イレイザーがひるんだのもまた、事実であった。