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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ

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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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 ■ 出会いは絶望の炎の中で ■
 
 
 
 ――カルテとの出会いは私にとっての人生最大の不幸と同時だった。
 あの時のことをカルテは覚えていないだろう。
 だが私は……俺は今でも忘れるなんてできない。
 カルテとの出会いは俺の大事な人との別れと同時だったんだから……。
 
 
 
 当時、白星 切札(しらほし・きりふだ)はまだ『私』ではなく『俺』だった。
 戦争孤児だった切札は傭兵団【TRUMP】の団長、白星シズカの養子として育てられていた。
 親バカと言われようともずっと切札を甘やかしながら育ててくれた母が、切札は大好きで、その母を助けられるようにと傭兵になるための訓練を続けていた。
 
 その日。
 傭兵団は村の防衛と反乱軍の殲滅の二手に分かれ、依頼を遂行することになった。
 シズカをはじめとした防衛メンバーに村を任せ、切札たち殲滅メンバーが反乱軍の拠点を潰す計画だ。
 気を付けてと声をかけてくるシズカに分かったと手を振って、切札は拠点を目指した。
 
 だが。
 拠点に向かう殲滅メンバーを、銃弾の嵐が襲った。
 敵の強襲だ。
「どういうことだ!?」
 拠点まではまだ距離があるはずだ。
 だが敵は狙い澄ましたように弾丸を浴びせかけてくる。
 予定外の襲撃と銃弾を受けて倒れる仲間たちの姿に一瞬動揺が走ったが、彼らとて死線をくぐってきた傭兵団。懸命に態勢を立て直し、強襲軍を迎撃にかかる。
 地の利のない場所で苦戦を強いられ、多くの犠牲を出しつつも、切札と殲滅メンバーはなんとか強襲軍を撃退した。
「一体どうしたっていうんだ……」
 敵の思わぬ動きをいぶかしがっている切札の耳に、おい、と切迫した呼びかけが入った。
 敵の兵士を締め上げていた仲間が、蒼白な顔でこちらを振り返っている。
「こっちの作戦が筒抜けだった。俺たちをここに足止めしておいて、敵の本隊は村に奇襲をかけている!」
 その意味を理解するより先に、切札の足は村へと駆け出していた。
 
 
「あ……あぁ……」
 村は真っ赤に燃えていた。それは奇襲を受けて防衛メンバーがやられたことをも意味している。
 肌を焼く熱、息を詰まらせる煙に耐えて村に飛び込んだ切札は、村外れで倒れているシズカを見付けた。その身体は炎の紅にも劣らず、血まみれになっている。
「お袋!」
 応えがないのを予想していたのだが、シズカは薄く目を開けた。
「あ……きりふだ……」
「おい、冗談だろ!? お袋だったら1人で撤退とか出来ただろう!」
 団長だけあってシズカの判断も行動も抜きん出ている。例え奇襲であろうとも、シズカが逃げられないはずはない。そう切札が言うと、シズカは抱えていた銀髪に赤い目の少女に視線を落とした。
 この子を守っていたらやられてしまった、というシズカに切札は逆上する。
「ふざけんな! そんなガキ見捨てりゃ良かっただろ!」
 けれどシズカは切札にこの子のママになってあげてと言い残し……その全身から力が抜けた。
「ふざけんな……お袋……お袋おおおおぉぉぉぉっ!」
 喉が裂けるほど叫んでも、シズカは二度と目を開けることはなかった。
 切札は慟哭しながらシズカの下から子供を引っ張り出すと、その眉間に拳銃を突きつけた。
 
 
 
 ――私は真っ赤を見た、真っ赤が私を毀した。真っ赤が私から何もかも奪っていった。
 その中でただ1つ、
 私を抱きしめてくれた温かさが、残りカスになった私を守ってくれた……。
 
 自分を見つめる視線があることに白星 カルテ(しらほし・かるて)は気付いた。
 守ってくれた人の腕から引っ張り出されたカルテの額には、硬く冷たいものが押し当てられていた。
「お前の所為で……」
 そんなことを呟いている視線の主に向けて……カルテは笑った。
 壊れてしまったカルテには笑うことしか出来なかったから。
 その人は顔を歪め、ちっと舌を鳴らすと冷たいものをカルテからどけた。
 
 限界だったカルテの意識はそこで途絶え。
 次に目を覚ました時、カルテはそれまでの記憶を失っていた。
 記憶をなくしたカルテの前に現れたのは、とても優しそうに笑う人だった。
「これから私があなたのママですよ。カルテ」
「かるて?」
「あなたの名前ですよ。そして、私があなたのママの切札です。よろしくね」
 そう言って切札はカルテの頭を優しく優しく撫でた。
 かつてシズカが切札にそうしてくれたように。子供を育てたことのない切札には、シズカの真似をする以外、どうすればカルテのママであれるのか分からなかったから。
 
 
 そこからどこをどう転んで、切札がカルテを本当に大切に思うようになったのか。それはまた別のお話。
 今日もカルテは全身で切札に抱きついて、
「ママ、ママ、大好きよ」
 心の底から嬉しそうに、心の底から幸せそうにそう言うのだ。
 
 はじまりは地獄のような炎の中。
 けれどそんな中から始まるものもある。
 そんな中から生まれるものも、確かにあるのだ――。