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【ダークサイズ】続・灼熱の地下迷宮

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【ダークサイズ】続・灼熱の地下迷宮

リアクション






「よーし、お主ら。こんな作業はとっとと終わらせてしもうて、拠点で打ち上げをやろうかの!」

 ダイダル 卿(だいだる・きょう)は、落盤復旧の幹部たちに、拳をあげて見せた。

『おー!』

 卿が改めて皆に声をかけて鼓舞したのは、この作業の大変さが皆の心を折るのではないかとの心配からであった。
 フレイムタンのほぼ中央に位置するフレイムタン・オアシス
 そこからもう少し奥に進んだ所に、この落盤事故の発生現場があるわけだが、このマグマ溜まりはやはり広大で、そのゆく手を完全に塞いでしまった岩石の量たるや、普通の土建屋が行えば大変な労力が必要と思われる。
 それを、特別な能力を持った者たちが行うとはいえ、復旧に集まった十数人で行うのは骨である。
 巨大なマグマイレイザーが自由に動き回れるほど、結構な広さを持った道を完全に塞いでいるのだ。
 さらに、この落盤がどれくらい奥まで続いているかも、掘ってみなければ分からない。
 リニアモーターカーの材料に使える超耐熱合金のようなものを手に入れるために、重要な行程を受け持ったダークサイズ幹部たちは、早速作業に取り掛かる。

「ぱんだー! ぱんだったった(うっしゃー、ダイダル卿、やるぜー!)」

 やはりダイダル卿の頭に乗っかっている『怪人垂ぱんだ』こと朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、【携行用パイルバンカー】を取り付けた【筍里】を、そのかわいい右手で掲げる。

「ぱんだぱんだぱんだ(俺のスキルで岩の弱い所を見つけてやるからよ、俺とおまえでガンガン掘り進むぜ)」
「おお、そりゃ効率いいのう、さすが垂じゃ。早速やってくれい」
「ぱんだー、あーい(ぱんだ【ホークアイ】)!」

 垂のパンダ目がギラリと光り、積み重なった岩々の中で突き崩しやすそうな一点を見極める。

「ぱんだあー(そこだあー)!」
「それそれそれーい」

 二人が砕いて飛散した岩を、ぱんだ部隊がキャッチしてバケツリレー形式で運び出す。
 本来、こういう作業は二次災害に注意しなければならないので、慎重に掘り進むべきなのだが、

「ぱだだいこたーぱいーんだよ(細けぇこたーいーんだよ)」

 こんな調子で、叩いた震動で他の岩が崩れたりするのはお構いなし。

「ぱんだだ(そういやーよー)」

 垂は【筍里】を振り回しながら、

「ぱんだんぱぱぱ(リニアってどうやって走らせんだ? レールとかいるのか? もし必要なら、材料足りねえんじゃね?)」

 と、ダイダル卿を上から見下ろす。
 ダイダル卿も頭の上の垂を見上げ、

「なに、心配あるまいて。それを探るために、ダイソウ トウ(だいそう・とう)は採掘からは離れるんじゃからの」

 ダイダル卿と垂は、まさにフレイムタン・オアシスに向かおうとするダイソウに、

『ぱのんだぞーい』

 と、手を振る。
 ダイソウは二人に頷き、オアシスへと向かいたいのだが、早速問題が一つ発生している。

「結和、リアトリス……どうすべきだと思う……」

 ダイソウは、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)高峰 結和(たかみね・ゆうわ)に相談するものの、二人も困った顔をしている。
 三人の眼前では、『セキトバ』ことヴァルヴァラ・カーネーション(ばるばら・かーねしょん)と『飛天ペガサス』ことエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)が、間合いを取りながら、火花を散らさんばかりに対峙していた。

「ぐるわぉうぅ……(まぁ、何なのかしらこの暑っ苦しい山羊は? こんなのに乗ったら、熱がこもってダイソウトウが卒倒しちゃうわ。ダイ卒倒なんて面白くもなんともないわ)」
「……(ダイソウトウを乗せるのは、僕だよ……!)」

 ダークサイズの中でもダイソウ騎乗用幹部であるヴァルヴァラとエメリヤン。
 二人の初対面は、『ダイソウを乗せる第一騎馬はどっちか』の対立で始まった。
 結和は、何やらスキルを岩石にかけながら、

「ええとー……わ、私はエメリヤンに乗って欲しいですけどー(エメリヤンの機嫌的に)……あ、でも、こういうのはダイソウトウさんが決めた方がいいかなって、思いますー」

 リアトリスも頬を指でかきつつ、

「僕も、ダイソウトウが決めたらいいと思うよ。でも、ダイソウトウはどっちとも仲良くしてたから、悩みどころだね……ていうか結和君? 何で【石を肉に】を岩にかけてるの……?」
「えっ? いやー、岩にこれかけたら、お肉になって復旧が進むかなーって思って……」
「石化解除をただの岩にかけても、お肉にならないと思うけど……」
「あっ! で、ですよねー。あははー」

 試してみたかっただけの結和は、スキルをやめてエメリヤンのマフラーを引っ張り、

「ねえ、エメリヤン。ダイソウトウさん乗せるの、そんなに大事なのー?」
「結和っ。僕にだって、譲れない戦いがあるのっ」

 エメリヤンは、きりりと結和を見返す。
 ダイソウ騎乗幹部の座を、他に譲るわけにはいかない。
 ここは、オトコ気の見せどころなのだ。
 しかし、エメリヤンがよそ見した隙を突いて、ヴァルヴァラは既成事実を作ろうと、ダイソウを乗せるために彼の股間に頭を突っ込んでいる。

「!」

 と、エメリヤンは不意打ちに驚いて、彼はダイソウの脇に頭を入れて自分に乗せようとする。
 対するヴァルヴァラは前足でダイソウの足を持ち上げ、自分の肩に乗せようとする。
 負けじとエメリヤンは、ダイソウの頭を咥え、彼を持ち上げてヴァルヴァラから取り上げようと試みる。

「よし分かった、お前たち。私がどちらに乗るか決め、やめよセキトバ私のズボンによだれを、飛天ペガサスはマントをひっくり返すでない」

 二頭の獣がひたすら人間に身体をこすりつけ、その飼い主(パートナー)二人がそれを眺める画は、実にシュールだ。

「ぐるるぐわぅ」
「ダイソウトウ、僕とこの人と、どっちを選ぶのっ?」
「……」



「ではアルテミス。私はフレイムたん『亀川』を連れ、オアシスのビルに向かう。お前はこちらの加護を頼んだぞ」
「承知しました、ダイソウトウさま」
「資材が回収できたら、遺跡への運搬と組み立てを監督してやってくれ」
「……ところで、騎乗はそこが落とし所だったのですか? いや、何も言いますまい。お気をつけて」
「うむ」

 選定神 アルテミス(せんていしん・あるてみす)は、あえて何も言わずダイソウを見送る。
 ダイソウは右足をエメリヤン、左足をヴァルヴァラの背中にそれぞれ乗せ、アルテミスの視線を受けながらゆっくり反転してオアシスへ去ってゆく。
 ヴァルヴァラとエメリヤンで身長差がかなりあり、ものすごくバランスが悪そうだ。

「では皆の者、待たせたな。フレイムタン・オアシスへゆくぞ」
「……お、おう」

 動物と一緒に形の悪い組み体操を組むリーダーの先導で、オアシス探索組は反応に困りながら事故現場を離れて行った。





☆★☆★☆






「あのー! すごく危ないんですけどー!」

 垂とダイダル卿がたたき壊す岩は、ぱんだ部隊がキャッチしているが、やはり取りこぼしというものがあり、ぱんだたちが取れなかった岩々は、なぜか吸い寄せられるように月詠 司(つくよみ・つかさ)イブ・アムネシア(いぶ・あむねしあ)目がけて落ちてくる。
 イブは必死に走り回りながら、

「何でですかぁ〜。他の皆さんは平気なのに、何でぱんださんが取れなかった岩が、ボクのとこにばっかり落ちてくるんですかぁ〜?」

 それに巻き込まれるように、司も一緒に岩を避けながら、

「何でですかねーっ! 何だか作為的なものを感じますねーっ!」
「ほらほら、ツカサにイブ♪ 遊んでないでワタシたちもお仕事始めるわよ〜♪」

 と、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が、ぽんぽんと手を叩いて二人を呼びとめる。
 司とイブがシオンに目をやると、やはり彼女の方には岩は一つも落ちてこない。

「これっぽっちも遊んでないんですけどぉ〜!」
「ていうか、何でシオンくんも無事なんですかーっ。せめて一緒に巻き込まれてくださいよー!」
「さ、そういうわけでアイリス♪ アレをやるわよ」
「ちょ、シオンくん! 私の言葉は華麗にスルーですかーっ!?」

 岩に襲われて右往左往する二人を尻目に、シオンはアイリス・ラピス・フィロシアン(あいりす・らぴすふぃろしあん)に作戦開始の指示を出す。
 アイリスはというと、右手には超人ハッチャンをぐるぐる巻きに拘束した【戦乱の絆】を握り、静かに左手の親指を立てている。

「ハッチャン……連れて来た……」
「あの、シオンにアイリス……何のつもり?」
「ハッチャン、よく来てくれたわ♪」
「来たんじゃなくて連行されてるんだけど」
「来てもらったのは他でもないわ。落盤の復旧作業に一役買って欲しいの♪」

 超人ハッチャンは、最近すっかり敏感になった『イヤな予感』が反応して、

「いや、僕は普通に作業するから」
「ああん、もうハッチャン。そんな意地悪なこといわないでぇ〜♪」

 と、作業に戻ろうとするハッチャンの腕に、シオンがしがみつく。
 アイリスはハッチャンに人差し指を立てる。

「話だけでも……聞いてみて……悪いようには…………しませんぜ……」
「しませんぜって何!」

 アイリスの妙な言い回しにツッコみつつ、ハッチャンはシオンの説明を聞かされる。

「ワタシたちだって、効率のいい復旧作業を真面目に考えてるのよ? こういう時はハッチャン、あなたの鋼の肉体に賭けるしかないの♪」
「賭けるってどういうこと!」

 シオンは【機晶爆弾】を取り出し、

「何のことはないわ♪ マグマイレイザーが尻尾で溶岩を弾き飛ばして攻撃してたでしょ? あれをヒントに、コレを溶岩に放り込んで爆発、弾け飛んだ溶岩が落盤した岩を溶かして、事故現場も一気に復旧♪ って寸法よ」

 と、ウインクしながら爆弾にキスしてみせる。
 ハッチャンはシオンのアイデアを聞き、

「うん、普通に危ないよね。他に作業してる人いるのに」
「その辺はぬかりないわ♪ 溶岩は岩に当っても人に当たることはないの。なんたって、人に当たりそうな溶岩は、全部イブとツカサに飛んでしまうのだから♪」
『何ですかそれーっ!!』

 岩をよけながら、司とイブが思い切り叫んで文句を言う。
 そんな星の下の二人を見てハッチャンは、

「ずいぶん都合のいい不幸体質だね……で、僕には何をやらせるの?」

 と質問するのを、アイリスが適当な岩を支点に板を乗せ、

「ハッチャン……おもし……」

 と、指をさす。
 ハッチャンが要領を得ない顔をしていると、アイリスはイブを捕まえて【機晶爆弾】を【戦乱の絆】でくくりつけ、板の端に乗せた。
 シオンがハッチャンの手を引きつつ、

「【機晶爆弾】に落下の加速度上乗せしたら、溶岩がいっぱい飛ぶでしょ? ハッチャンはシーソーのこっち側に飛び乗って、爆弾を天井ギリギリまで飛ばしてほしいのよ♪」
「あのぉ〜! で何でボクが爆弾と一緒に飛ぶんでしょうかぁ〜?」

 と、イブは泣きながら文句を言いつつも、アイリスの拘束には逆らわない。

「決まってるじゃないイブ♪ 加速度の効果を大きくするためよ」
「ボク、普通に死んじゃいますけどぉ〜……」

 泣きそうなイブの口を、アイリスは人差し指で塞ぎ、

「大丈夫……【メイド服】に……自動修復魔法……かけてみた」
「え、これ、自動修復するんですかぁ〜?」
「そう……爆弾……溶岩……破損……修復…………たぶん
「あれぇ〜! 今アイさん、たぶんって言いましたよね!? 効果は確認してないんですねぇ〜!?」

 アイリスが開発したと自称する、【メイド服】の自動修復機能。
 どうやら服の破損修復機能が、イブの身を守ることにもつながるようだ。
 ハッチャンは自分が安全であることに安心し、

「いくよー!」
「ひ〜ん!」

 怯えるイブ、飛びあがるハッチャン。
 ハッチャンがシーソーの端に飛び乗り、イブが飛びあがるわけだが、問題は二人とも【戦乱の絆】で縛られていることである。
 ぴんと伸びた紐に引っ張られて、ハッチャンも一緒に飛ばされる、と思いきや、彼の巨体の重量を舐めてはいけない。
 ハッチャンは微動だにせず、イブが反動でハッチャンの方へ飛んでいく。

『あぶねええええ!』

 ハッチャンが思わず身をかがめると、イブはハッチャンを通り過ぎ、司に直撃、計算したかのように【機晶爆弾】が爆発した。

『……』

 真っ黒になった司とイブを見て、シオンとアイリスはさもつまらなさそうな顔をして、

「……失敗」

 と、つぶやいた。