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【創世の絆】もう一つの地球と歪な侵略者

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【創世の絆】もう一つの地球と歪な侵略者

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アナザーの戦い 4



 ローザマリア他から、大量のヘリが向かってきている事を報告されてから間もなく、基地でもその姿を確認できるようになった。
「おうおうおう、蚊柱みたいなのが来たけんのう」
 ブラックダイヤモンドドラゴンの背で、清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)もヘリの大群を確認した。
 ここまでにも契約者や千代田基地の面々による防衛ラインがあったというのに、未だ膨大な数を蓄えている。
 先手を打ったのはヘリの方だ。青白磁を射程に捉えるとすぐに機銃を吐き出す。ブラックダイヤモンドドラゴンはひらりと身をかわし、機銃を避けた。
「いっちょやったるけんのう!」
 仁義の大太刀を腰に構え、青白磁はヘリへと突撃する。機銃のついたヘリの機首に仁義の大太刀を突き立てた。
「どっせい」
 ヘリに足をかけ、仁義の大太刀を引き抜く。傷口から、黒いコールタールのようなものが噴出した。このヘリの血だろうか、どのヘリのコックピットにもパイロットの姿はない。
 ヘリはふらふらと左右に蛇行するも、踏みとどまってミサイルポッドで反撃した。狙いの定まりきっていないミサイルはほとんどは空に地上に吸い込まれていったが、運のいいのがブラックダイヤモンドドラゴンに向かう。小さな爆発。それに満足したようにヘリは地上へと落ちて爆発した。
 爆発の煙の中で、ブラックダイヤモンドドラゴンが吼える。この程度ではドラゴンを落とすには物足りない。残る大量の攻撃ヘリも落ちないドラゴンにとどめをさそうと、標準を向ける。
 その戦いに、高速で近づく影があった。
「はあああっ!」
 死角から攻撃ヘリに切り込んだのは、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だ。生き残った攻撃ヘリが彼女の姿を捕捉した時には、一緒に攻撃ヘリが三機、浮力を失って地面へと落ちていく最中だった。
 詩穂は止まらず、次のヘリへと肉薄する。
 ヘリには空中での超接近戦に対応する戦術や武装は装備されていない。それでも、体当たりなどで接近戦に対応できるのは、ヘリの姿と性能を持った怪物の仲間だからだろう。
「やっぱりちょっと、数が多いね」
 一機のヘリを撃墜する間に、何台ものヘリが彼女達を無視して過ぎ去っていく。彼らの目的は千代田基地だ。なんとか邪魔をしたいが、空中を行く相手を止めるのは難しかった。

 防衛陣をすり抜けてきたヘリが、千代田基地の上空に現れる。
 最前列の戦闘ヘリは、さっそくミサイルを基地に向かって発射した。
「あー! せっかくみんなで作ったのに!」
 シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が頭を抱えて絶叫する。半日かけて作った防衛用の壁などが、ミサイルで吹き飛ばされていた。
「あれは……」
 イレイザーキャノンの展開をしていた国頭 武尊(くにがみ・たける)が、自分達の背後の奇妙な動きに気づいた。武器を持ち配置についていく千代田基地の人間とは別に、一団が整列している。
 整列した一団の後方には、コリマの姿もあった。彼の位置から遠く何を言っているか聞き取れなかったが、手を前に出し攻撃合図を出したのは見てとれた。
 列を作った集団は、それぞれ微妙な違いがありながらも手を前に出した。それぞれの手の先から、火弾が形勢されると、大砲の弾のように空中のヘリに向かって撃ち出された。
「あれって、魔法?」
「こっちも魔法があったのか。でも、あんなしょぼいんじゃ意味ねぇ」
 火弾は狙いも不正確で、威力も一撃でヘリを落とすには物足りないものだった。決して無意味ではないだろうが、何かを期待するには現状が絶望的過ぎる。
「お手本を見せてやるよ」
 エネルギーを充填したイレイザーキャノンが火を噴く。極太のビームは戦闘ヘリを貫いた。
「さらに!」
 ぐいっとビームが曲がる。遠隔のフラワシの力だ。本来は当たるはずでなはなかった戦闘ヘリもビームに巻き込まれていく。ただ、ビームの速さとフラワシの性質として、一回曲げるのが限度のようだ。
 地上からの迎撃はこれに留まらず、コリマの兵士や通常兵も積極的に攻撃を仕掛けていた。優位な戦況とは決して言えなかったが、攻撃ヘリだけで戦況が傾くとまではいかなかった。
 そこから少し前にいったところに、セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)の姿があった。攻撃ヘリを掻い潜った彼女の前に居るのは、大量の輸送ヘリの群れだ。
 彼女の広目天の霊眼が、そのヘリに詰め込まれているダエーヴァの軍勢を見抜く。
「行かせませんわ、天空稲妻落とし」
 輸送ヘリに先制の手刀でバランスを崩させ、そこから天空落としでヘリを地上に叩きつける。投げの極意を会得している彼女には、無機物だろうが関係ない。一連の流れるような動きは、それで一つの技であるかのような完成度を誇っていた。
 地面に輸送ヘリを叩きつけ、セルフィーナは空を見上げる。一つ二つと落としていては到底間に合いそうにない。
「出し惜しみしている余裕は、ありませんわね」
 古代の力・熾によって作り出された光の分身と共に、セルフィーナは再び空へと飛び立った。

「押しつぶすつもりでござるか」
「贅沢な戦争を……しかしこれでは、いくらなんでも持ちませんな」
 フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)フランソワ・ポール・ブリュイ(ふらんそわ・ぽーるぶりゅい)は、空を覆うヘリの大群、そして地上を均しながら進む戦車の一団を観測していた。
「怪物化というのは、存外便利なものですね」
「ヘリのパイロットを育成する手間暇をかけずに、一流のヘリを量産できるのでござるか」
「しかも、あの大量運用。予算に頭を抱えてる人に見せたら、発狂ものですな」
 二人が観測している間にも、契約者達の迎撃によってヘリは撃墜されていく。ダエーヴァ側も、ヘリを大事にしようという考えは無いようで、体当たりを仕掛けたり、あるいはわざと攻撃の前に出て味方の盾になったりと使い捨てている。
「あちらは、任せるしかないでしょうね」
「こちらは、あの厄介な鉄の塊を迎撃にまわるでござるな」
 地面を均しながら進む戦車の一団は、空を飛び回るヘリに比べては数は少ない。だが、厄介な相手である事には代わりないだろう。
「空が落ち着くまでは、足止めぐらいはしておく必要があります」
 戦場に向かうフランソワ・ド・グラスの背中を見送って、フランソワ・ポール・ブリュイは観測を再開した。
「……しかし、軍隊であるなら戦力の損耗は避けたいはず。現に今まで撤退を繰り返していた。あんな贅沢な戦いをする理由が、あの基地には存在するというのでしょうかね?」

「裁きの、光っ!」
 些細な障害物を潰して進む戦車の頭上に、複数の天使が姿を現した。天使達は槍を投げるように手を振り下ろす。するとどこからともなく、光が放たれ、戦車を貫いていった。
 戦車の装甲は均一ではなく、正面より背面、背面より上部の装甲は弱くなっている。正面からなら防げる攻撃も、上からでは防げないのだ。
「はぁ……はぁ……」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はぺたりとその場に腰を降ろした。裁きの光は、戦車相手に効果の大きい魔法ではあるが、その分消耗も大きい。しばらく休まないと、次を放つのは不可能だ。
 限界の数歩前まで魔法を使ったが、それでも戦車はまだ軍団を保っていた。範囲魔法であるため、傷の浅いものが出るのは仕方ないが、それ以上に敵の数が多く広く布陣しているのが問題だった。
「少し休んでていいよ。あとは僕が」
「はい、お願いします」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が倒れたビルを飛び越えて、戦車たちの前に躍り出た。コハクに気づくと、戦車は一斉に機銃で攻撃を仕掛けた。機銃で攻撃しながら、砲塔をコハクへと向けようとする。
「僕の方が早い!」
 機銃を避けるために飛び上がりつつ、滅技・龍気砲を解き放った。黒豹大隊とベアトリーチェが戦車を相手にしている間に、溜めに溜めた生命エネルギーだ。
 戦車の群れに解き放たれた龍気砲は、まずは正面に戦車を立て続けに二台飲み込んだ。さらに、その威力は凄まじく地面に大穴をあけると共に、爆心地に近かった戦車をめくり上げて吹き飛ばし、後続の戦車にぶつかっていく。
「戦車でボウリングなんて始めてみた」
 前線指揮をしていた黒乃 音子(くろの・ねこ)も、思わず声に出してしまった。それほど衝撃的な光景だったのだ。
 だがすぐに、指揮官としての思考に頭が切り替わる。
「ここを突破すれば、戦車の背面が取れるよ! 皆、続け!」
 戦車の背面を取れるのは大きい。アナザーの黒豹大隊と、現地で協力してくれている兵士は皆歩兵だ。歩兵が持てる火器で戦車とやりあうには、弱点を狙うしかない。
「妙に足が遅いと思ったが、なるほど、やはりオリジンの者は侮れんな」
 人間の言葉を発するのは、金色の鎧を纏った怪物だ。一同に戦慄が走る。人間の言葉を扱うのは、ダエーヴァの中でも司令やそれに類するごく一部の者達だけだとコリマから聞かされている。
「指揮官が自ら出てくるなんて、でも!」
 黒豹大隊の兵が一斉に攻撃を仕掛ける。銃弾やバズーカの弾が金色の鎧に殺到する。
「ふははは、むずかゆいわ!」
 怪物は、手に持った獲物、ハルバートを振る。その風圧だけで、兵士が吹っ飛んだ。
「くっ」
 暴風をこらえる音子。そこへ、大きな体からは信じられない速度で詰め寄った怪物が、獲物を突き出した。
「ベアトリーチェ!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の声。次の瞬間、巨大な光の剣を持った彼女は、音子と怪物の間に飛び込んだ。突き出されるハルバートを、覚醒光条兵器で受け止めた。
「ほう……だがな!」
 地面が揺れるほどの強い踏み込みと共に、一度止まったハルバートがさらに押し込まれる。ハルバートの刃は二人に触れる事は無かったが、二人まとめて押し飛ばされた。
 瓦礫に叩きつけられる寸前に体勢を直し、二人は舞い上がった埃が晴れると無事な姿を見せた。
「あいつは、私が時間を稼ぐから、戦車と基地のみんなをお願い」
 金色の鎧が見せた力は、まだほんの触りだろう。だが、それだけでも測れるものはある。一般の兵士では、近づけるだけで大損害を出すだろう、なんとかするには相当な実力を持つ契約者必要だ。そして、こうしている間にも敵の軍勢は基地へと殺到している。
 戦車やヘリ相手ならば、兵達も活躍できる。その為には、指揮する人間が必要だ。
「無茶は、しないでよ」
 音子は素早くその場から離脱し、それに伴い彼女の部下達もその場から引いていった。
「ほう、我にたった二人で相手するとな?」
 この場に残ったのは、コハクと美羽の二人だけだ。周囲には金色の鎧の怪物の他に、戦車や歩兵の姿もあるが、手を出さずに前へ前へと進んでいく。
「ふふふ、侮るなと言いたいところだが、お主らの力は我らには未知数、万が一もある。よって、全力でいかせてもらう」
 ハルバートを大きく振り、両手で構える。
「我が名はダルウィ。オリジンの戦士よ、よければ名前を聞かせてもらおう」
「コハク・ソーロッド」
「小鳥遊 美羽」
「よろしい。では、尋常に―――勝負!」
 美羽とコハク、ダルウィは同時に駆け出した。

 その光景を、金 麦子(きん・むぎこ)に肩を貸してもらいながら下がっていくベアトリーチェを見つめていた。
「美羽さん、あとはお願いしますね」
 覚醒光条兵器は、剣の花嫁にも多大な負担を強いる。できれば応援してあげたいが、敵は一人ではなくわらわらと大量に居る。こちらに気を使わせないためにも、撤退は必須だ。
「オレのお手製フランス式海軍カレーは絶品だよ」
「はい?」
「作戦が終わったら、みんなで食おうな」
「……はい」