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【選択の絆】常世の果てで咆哮せしもの

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【選択の絆】常世の果てで咆哮せしもの

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【13】



 最終防衛線。

 光条世界の出口から少し離れた場所にある渓谷に、探索隊の陣が展開されていた。
 涼司の進行ルートを考えると、この雪の渓谷を抜けて出口にやってくる可能性が高い。
 教導団の叶 白竜(よう・ぱいろん)少佐は、これまでにあがってきた報告に目を通している。
 ここまで情報が出揃うと、この騒動の実態も見えてきた。
「……謎の光、ですか。裏椿少尉の調査報告……なんとも信じ難い話ですね……」
 黒幕は、禿げた全裸のおっさん。これほどまでに力の抜ける展開がかつてあっただろうか。
 いや、あったかもしれないが、今、確実に脱力しているのは自分でよくわかっている。
「……作戦終了まで部下には伏せておきましょう。確実に士気が落ちます」
 白竜は、ドッグズ・オブ・ウォーで集めた傭兵団と特殊作戦部隊員で、罠を設置しているところだ。
 彼に代わって、現場の詳細な指示を出しているのは相棒の世 羅儀(せい・らぎ)
 カタクリズムやデバステーションで雪を排除し、露出した地面に機晶爆弾を仕掛けさせている。
 作業は迅速に行われているようだ。
「どうにか設置は間に合いそうですね」
「ああ、前線の隊が頑張ってくれてるおかげだ。あとはどれほど効果が見込めるか、だな」
「多くは期待していません。少しでも彼の注意を逸らし、出口から遠ざけられれば上々です」
「大津波とか大竜巻クラスの自然災害みたいなものだからね、彼は」
「首尾はどう?」
 とそこに、ルカが様子を見に来た。
「目標の到着予測時刻までには作業は終わりそうです」
「了解。こっちもそれまでには作業が終わると思うわ」
 更に後方では、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の指揮の下、ドッグズ・オブ・ウォーで集結した傭兵たちが大掛かりな落とし穴を作っていた。
 また、エンペラー・オブ・エイコーンによるイコン部隊と戦車隊、そして無敵艦隊がその時を待って、配置に付いている。
 まるで戦争だが、相手が普通の国家なら、まだそっちのほうがやり易い相手だろう。
「正気に返して彼を振り向かせられたら一番良いんだけどね……」
「ええ。それが最良であることに異論はありません」
「少なくとも本物の花音の声が心に届いて振り向かせる契機を生めれば……。攻撃に反応して振り向くといった普通の人間なら自然に行う行為も、今の涼司はやらないだろうし。それに、体の反応じゃなく、心に声が届かないと本当の意味で、彼を取り戻せないって思う……!」
「同感です。先ほど、エリザロフ少尉から連絡がありましたが、彼女を見つけるのに成功したと?」
「そのようね。シャウラからも連絡があったわ。ただ、えらく狼狽していたようだけどね」
「詳しくは聞けませんでしたが、何かトラブルでもあったのでしょうか?」
「うーん……ま、彼らが付いてるなら些細な問題じゃないでしょう。信じてるし」
 そこにメルヴィアが現れた。3人は敬礼して迎える。
「あ、少佐。こちらは問題ないわ」
「そうか……」
「? ご気分が優れないのですか? 顔色が良くないですよ?」
「ん? ああ、妙なものを見せられてどうしたものかと……はっ、いや、何でもない。忘れろ」
 白竜とルカは顔を見合わせ……ああ、あの件か、と思って触れないようにした。
「……お疲れなのでしょう。そのような格好では体調も崩すはずです」
 白竜はコートを脱ぎ、露出の多いメルヴィアの肩にかけてあげた。
「すまんな、叶少佐……。ここが正念場だ、諸君らの働きに期待しているぞ」

「涼司くん……」
 山葉 加夜(やまは・かや)は、白く煙る渓谷の向こうを不安な表情で見つめていた。
 加夜は涼司の伴侶、この騒動に胸を痛める気持ちは、痛いほどまわりにも伝わっていた。
 ――涼司くん。答えて。お願い。
 先ほどからテレパシーで呼びかけているのだが、涼司から返事はなかった。
 戦いに集中している所為なのか、それともあの光が邪魔をしているのか、それは定かではない。
「……大丈夫、加夜さん?」
 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)は声をかけた。
「ごめんなさい、涼司くんのことで色々と……」
「ううん。そんなこと言わないで。頑張ろう、きっとあなたの声は彼に届くと思うから」
「はい……!」
「……それと、花音さんの想いも思い出してもらわないとね」
「……あの時、預かったものを返さなくちゃね」
 エレノアが自らの胸に手を当てると、赤い光が浮かび上がった。
「大丈夫だよ。この美羽ちゃんがついてるんだから、どーんと大船に乗った気持ちで構えてて」
 そう言って、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は胸を叩いた。
「美羽の船長の船はちょっと船は不安だけどね」
「もう、コハクったら!」
 苦笑いするコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)に、美羽はほっぺを膨らませた。
「ありがとう、美羽さんもコハクくんも……」
「うん。加夜さんの声は、絶対に私たちが届けるからね。涼司とは、かなり付き合いが長い友達だけど……やっぱり涼司の心にいちばん訴えかけられるのは、奥さんの加夜さんだもんね」
「大切なパートナーを犠牲にした罪悪感が涼司さんの心を縛ってる。でも、縛られてるだけじゃ前には進めない。彼の目を覚まさせてあげよう」
 そこに、遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)が慌ただしく戻ってきた。
「渓谷の先で動きがあったわ!」
「そろそろ彼がここに来るぞ。皆、準備はいいか」
 7人は円陣を組み、それぞれの手の上に手を置いて、声を上げた。
「絶対、涼司さんを振り返らせようね」