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【選択の絆】常世の果てで咆哮せしもの

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【選択の絆】常世の果てで咆哮せしもの

リアクション


【8】



「涼司さん! 僕の声が聞こえますか、涼司さん!」
 湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は人間暴風と化した涼司を前に立ち尽くした。
 彼の声は届かず、振り回されるビルに薙ぎ倒される探索隊の仲間が目に飛び込んでくる。
 尚も前進を続ける涼司を止めることはかなわず、探索隊は前線を後退させた。
「結局、僕たち……加夜さんでさえも、花音さんの代わりにはなれないってことなのか……?」
 けど、だからといって諦めることは出来ない。
「……僕には僕なりの意地がある。止めてみせますよ、涼司さん。後ろ向きだった僕を振り向かせてくれた、新生徒会での恩は返してみせます」
 ハンドコンピュータ2台にテクノコンピュータと繋げたフル装備で解析開始。
 涼司を止める術を探すため、彼に取り憑いている“何か”の解析を行う。
「と言うわけで、エクス。涼司さんを止めろ。お前だって梟雄だろうが!」
「え、ええーっ!? 勝てるわけがない……無理だよ! 同じクラスでも『格』が違いすぎるんだよ!」
 役目を振られたエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)は悲鳴を上げた。
「皆で力を合わせればきっと止められるよ」
 その凛とした声に、2人は振り返った。
 雪景色のよく似合う青い髪の少女、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が涼司に向かって行く。
 ノーンの武器は歌。歌の力で涼司を止める。
 世界で1番大切な人を取戻す為に異界に渡った男。その悲しみと絶望、想いと希望……そして、再び抱きしめることが出来た幸せなぬくもり。
 それは彼女が身近に知る、大切な人との別離と再会のストーリー。
「今のあなたに繋がるかもしれない……。届いて。山葉さんに」
 ノーンの魂の共鳴。歌の波動が波紋となって雪に跡を作り、歌が広がっていく。
「この歌は……」
 涼司は歌に心を揺さぶられ、足を止めた。
 ――皆、今のうちに……!

「はぁはぁ……く、くそ……山葉のやつ……」
 息を切らせ、唯斗は雪の上に膝をついた。その両手には血が滲み、雪の上に赤い雫を垂らしていた。
 幾度となく思いを込めた拳を涼司に浴びせてきたが、あまりにも涼司は強大だった。
 無尽蔵な体力を持っているかと思えるほどの彼に対し、唯斗は先に限界を迎えてしまった。
「あの光だ……。あの光が、あいつの心を……」
 それでも戦おうとする彼を、治療に当たっていた酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が止める。
「もう無理よ。それ以上はあなたの身体が持たないわ」
 歴戦の回復術による治療でも、癒しきれないほど、彼は傷付いていた。
 前線最後列に位置する救護班の詰め所には、は頭を包帯ぐるぐる巻きにされた丈二と武尊も寝ている。
「は、放せ……」
「少し休め。しばらくは俺たちが足止めする」 
 そう言ったのは、酒杜 陽一(さかもり・よういち)だ。
 ナノマシン強化を施した肉体の上に。美由子が商人の切り札で持ち込んだベルセルクアーマーを装着。
 隣りには、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)の姿もあった。
「高層ビルをぶん回すとかないわー……」
 宵一はビルとは思えない動きをするビルを唖然として眺めている。
 パートナーのヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)も、有り得ない状況に呆然としている。
「まあいい、俺はしがないバウンティハンター。例えどんな神を敵に回そうとも、この神狩りの剣と共に戦うまでさ。俺たちでどうにかヤツの攻撃力を削ぎ落とす。その間に、ヨルディアは説得のための準備を進めてくれ」
「説得ですか……?」
「物理的に彼を止めるのはどう考えても無理だろ……」
 宵一はちらりと人間暴風を見た。うん、無理っぽい。
「あいつを止めるには、心を止めなくては。それには言葉が必要だ」
「……ま、言葉をかけるにも、まずは彼から玩具を取り上げないと。まともに話は出来ないぞ」
 そう陽一は言った。
「ああ。玩具を取り上げるのは俺たちの仕事だ」
 そして攻勢に出る。
「傭兵団の皆さん! 一斉にかかるでふ!」
 リィムはドッグズ・オブ・ウォーで傭兵達に攻撃を命じる。傭兵たちが一斉に涼司に飛び掛かった。
 しかし高層ビルのひと振りで一瞬の間に3分の1の傭兵が空を舞う。
「……と、とんでもない一撃でふ。目標変更でふよ、皆さん。まずはビルでふ。ビルを壊すんでふ」
「俺に続け!」
 陽一はソード・オブ・リコの闘気を最大放出。巨大光剣を創り出す。
 メンタルアサルトによるフェイントで攻撃を誘いつつ、ビルに一撃、ばりばりと亀裂が走った。
 続け様に斬り付け、コンクリートの塊がまるで豆腐のように斬り崩されていく。
「おっと……!」
 襲いかかるビルは、剣を“突き”で構え、尖端から放出する闘気の反動で、紙一重で躱す。
 額に付けた大帝の目で視野を確保、さっき食した小暮スイーツの効果で判断力も上がっている。
 剣の反動で空中を自在に動く陽一に、涼司も翻弄されているようだ。
「ちょこまかと……ならばまとめて!!」
「……性急すぎるな、山葉くん!」
 傭兵団ごと全てを押し潰そうと振り下ろされる一撃の下に、陽一は素早く割り込んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 巨大光剣で軌道を逸らし、傭兵たちの退却する隙を作り出す。
「急げっ!! 長くは持たないぞ!!」

「……そ、そうか。ビルを破壊するぐらいならボクにだって!」
 エクスは勇気を奮い立たせ、ビルの破壊に向かう。
 ヴァンダリズムによる怒濤の攻撃で、コンクリートを砕き、鉄骨を折り、徹底的な破壊を行う。
「神は倒せなくても、普通の高層ビルくらい……!」
 くらい、と言うのもおかしな感覚だが、ラヴィエイジャーにとってはそう難しいことではないはずだ。
 傭兵達も統率のとれた攻撃でビルに攻撃に呼吸を合わせ、左右から陽一とエクスが飛んだ。
 言葉も視線も合わせずとも、歴戦の感覚が互いの動きを自然と読みとる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーっ!!!」
「はああああああああああああああああーーーーっ!!!」
 ほとばしる斬撃。剣の描く閃光が、縦横無尽にビルに走り、ビルは空中でバラバラになった
 その刹那、スレイプニルに跨がった宵一が涼司の間合いに一気に踏み込んだ。
「!?」
 迎撃に移ろうとする涼司を一瞬遅らせたのは、リィムのトゥルーグリッドによる銃撃。
 生身で銃弾の直撃を食らって平然としているのは頭が痛くなるが、それでも動きを鈍らせた。
「ふんっ!」
 宵一はホワイトアウトで視界を塞ぎ、ヴァンダリズムで猛攻撃を涼司に浴びせる。
 幾度となく斬り付ける……が返ってくる手応えは大岩をハンマーで叩いたような鈍い手応えだった。
「なんて強靭な肉体だ……!」
「もう満足したか?」
「!?」
 ホワイトアウトの煙を貫いて、涼司の放ったパンチが宵一に突き刺さる。
 100メートルほど吹っ飛んだ彼は体勢を立て直し、大地に剣を突き刺して、なんとか踏みとどまる。
「げほっげほ……! これしきのことで…!!」
 口元から吐き出された鮮血を拭う間もなく、宵一は駆け出した。
 斬撃を素手で防御する涼司。確かに目の前にいる存在は人智を超えた存在なのだと思うに十分すぎる。
「うおおおおおおおおおっ!!」
 渾身の一撃で振り下ろすと、涼司の周辺がクレーターのように陥没した。
 その隙に、宵一はレプリカシャドウレイヤーを起動させ、装置をクレーターの中に放り込んだ。
 広がる影の空間に侵食され、涼司の身体が重圧に包まれる。
「これで……はぁはぁ……幾分、時間は稼げる……!!」