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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・前編

リアクション

1 カリペロニアにて

 メニエス・レイン(めにえす・れいん)は機嫌悪そうに、秋野 向日葵(あきの・ひまわり)をじろじろ見ている。

「な、何よ……」

 向日葵はメニエスの傲岸な目つきに、少しだけたじろぎつつも彼女に対抗して小さな胸を張る。
 メニエスはフッとため息をつき、

「別にあたしは、旅の目的なんてどうでもいいのよ。あたしはエリュシオンで魔術本巡りしたいだけだし? ラピュマルだかなんだか知らないけど、好きにすれば? って感じ。でもね、あなたがついてくるってのだけは納得いかないわ」
「なんでよ? あなたには関係ないでしょ」
「大ありよ! あたしは優雅に静かに旅を楽しみたいの。あなたなんかいたら五月蝿くって邪魔だし、ていうかあなた邪魔しに来たんでしょ?」

 それを聞いて向日葵は腕を組み、

「ふふん。ダークサイズに浮遊要塞なんて持たせたら大変だからね。エリュシオンに着いたら、ラピュマルなんて絶対阻止だよ! ね、みんな!」

 メニエスにびしっと指を向けた後、大岡 永谷(おおおか・とと)グラン・アインシュベルト(ぐらん・あいんしゅべると)に振り返る。
 彼らはテーブルについて地図を開き、エリュシオンの地理や情勢の予習に精を出していた。
 二人はキラリと目を光らせ、

「当然だ。悪の増長など許すものか。覚悟してろよ。エリュシオンに着いたらな」
「そうじゃ。たっぷり邪魔させてもらうぞい。エリュシオンに着いたらの」

 と、文末に気になる言葉を付け加え、メニエスを見る。

「グラン殿、永谷殿! ご覧下され、世界樹でござるぞ! また壮大かつ美しいものでござるなぁ」

 オウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)が、後ろから永谷とグランに声をかけながら、どこから集めたのか、エリュシオンのパンフレットをぴらぴらさせている。
 いつもはツッコミ役でオウガのはしゃぎっぷりを制止するアーガス・シルバ(あーがす・しるば)。そんな彼もウィザードとしての血が騒ぎ、興味深そうに世界樹ユグドラシルのイラストを見ている。

「なるほど。しかもこの広大な国土。手つかずの未知の魔術が眠っているかもしれぬ……」
「大山殿、世界樹ゆぐずぐらっしゅるでござるぞ! これは霊験あらたかと思われぬか」
「オウガ殿、ユグドラシルだ」

 エリュシオンへの旅に興奮気味のオウガはいつものように舌が回らず、アーガスがすかさず突っ込む。
 椅子でうとうとしていた伽耶院 大山(がやいん・たいざん)は、オウガに言われてぼんやりと目を開く。
 オウガは大山を覗き込み、

「楽しみでござるなぁ、えるしにょん!」
「エリュシオンだ」
「うむ……ああ……」

 しかし大山はよく分からない返事を返し、またうとうとする。

「何でござるか大山殿。もうすぐ出発でござるぞ」
「まあまあ。家事で疲れがたまっておるのじゃろう。出発までは寝かせてやろうぞ」

 グラン達の生活で、家の管理や家事を一手に受け持つ大山。まるで使用人のような生活の中で、よくぞエリュシオンへの長い旅に参加できたものである。
 パンフレットを見てはしゃぐオウガを横目に、アーガスが向日葵、グラン、永谷に向き直る。

「お三方。まず前提として、細かいことを聞いてもよかろうか」
「何だ?」

 永谷が顔を上げる。
 アーガスは咳払いを一つして、

「我輩たちは一致団結した、打倒ダークサイズの連合軍であろう。その打ち合わせを何故、大総統の館でやっておるのだ?」

 ここはカリペロニア、大総統の館一階。向日葵たちがテーブルを一つ占拠しているのを誰も気にせず、ダークサイズ幹部達は出発準備に歩き回っている。

「……そこはまあ、ねえ」
「出発に間に合わなかったら困るし……」
「それにダイソウトウのやつが、ここ使っていいって……」

 と、曖昧な返事をする三人に、アーガスは身を乗り出す。

「こう言っては何だが……今回は便乗目的であるな?」
「そんなまさか、そこは、その……ねえ!」

 三人はアーガスに図星を突かれて、顔を見合わせる。
 それを察したアーガスは、

「やれやれ……」

 と、今日もため息を漏らすのみである。

「やっぱり……エリュシオンに行ってみたいだけね」

 メニエスが言葉を添えるところに、物資を詰めた荷物を抱え、赤城 長門(あかぎ・ながと)が通りかかる。

「メニエスレインの言うとおりじゃけん。オレも秋野向日葵がついてくるのは反対じゃのう。やい、いじめっ子秋野向日葵、ダイソウ トウ(だいそう・とう)をいじめるのは許さんけんのう! ちゅーか大総統の館に入ったんじゃけん、ガーディアンと戦って貰わんといかんのう!」

 長門はダイソウ親衛隊の一員として、ルールを守るよう要請する。
 それにグランが反論する。

「しかしのう、わしらは1階を突破する気はないんじゃ。出発となったらこのまま出ていくから、戦う必要はなかろうて」

 さすが何度もダークサイズと対峙していることもあり、グランはダークサイズのゆるい部分を突いてくる。
 長門もその指摘に、なるほどという顔をする。

「そ、そういえばそうじゃのう。こういう場合どうすればいいんじゃい、メニエスレイン」
「知らないわよ。あたし親衛隊でもガーディアンでもないし。そんなことより、なんでわざわざついてくるのって話よ。あ、ねえ。あなたたちも何とか言いなさいよ」

 と、自分の荷物をまとめ、外に出ようと通りかかるキャノン ネネ(きゃのん・ねね)キャノン モモ(きゃのん・もも)に話しかける。ネネの荷物は瀬島 壮太(せじま・そうた)が一手に担って抱えており、彼の両足はその重さに、心なしか震えている。

「まあ、向日葵さん。出発の準備は出来まして?」

 ネネはまるで友達にでも会ったかのように、扇子の隙間から向日葵に笑顔を向ける。
 これから長旅に出ると言うのに、いつもの胸を強調したロングドレスに、

「う……キャノンネネ……」

と、向日葵は身構える。羨ましい限りのボディラインと親しげな距離感が、向日葵は最近どうも苦手なようだ。

「あたしは優雅に旅をしたいのよ。あなたもそうでしょ?」

 メニエスは、優雅で静かな環境を求めると言う意味では同じタイプとみなしているネネに、同意を求める。

「それはもちろんですわ。でも優雅なだけでなくて、旅は楽しくなくてはなりませんわ。そうでしょう? 壮犬さん」

 と、ネネは壮太に首を振る。

「もちろんっす、ネネ姉さん! オレ、瀬島壮太もそう思うっす!」

 相変わらずネネに名前を間違えられている壮太。今日は自分の名前を強調し、さらにそれとなく胸にネームプレートを下げているが、まだネネは気付かない。
 メニエスはため息をつきながら、

「楽しいっていうか五月蝿いだけでしょ。モモ、あなたも……」
「私はお姉さまがよければ別にかまいません」
「相変わらずね……聞いたあたしがバカだったわ。あたし嫌なのよ、こんなガキっぽいのがついてくるの」
「が、ガキって何よ!」

 と、向日葵がメニエスに食って掛かる。
 メニエスは半ばあきれながら向日葵の服装に目を向け、

「だってその格好……」
「いたいたぁ、サンフラワーちゃ〜ん」

 メニエスの言葉をさえぎって、神代 明日香(かみしろ・あすか)が向日葵に走り寄る。

「だ、だからあ! そんな名前で呼ばないでよ!」
「えへへ、可愛いですよぉ、この名前。あと魔女っ子服も似合ってますぅ。私があげたの着てくれてるんですねぇ〜」
「な、長旅だから、普段着だとアレなだけだよ……」
「またまたぁ、嬉しいですぅ。あ、やっとできたんですよぉ、サンフラワーちゃん用の通行証」

 と、カリペロニア受付嬢の明日香は、向日葵に特製のカリペロニア通行証を彼女のイチゴのペンダントに取り付ける。カードには、

『だーくさいず(仮)☆魔女っ子サンフラワーちゃん』

 と書かれてある。

「え、ちょっと勝手に、仮って何! あれ、取れないっ」

 小さいながらも強力なフックでペンダントと連結された通行証カード。

「じゃぁ、のちほど〜」

 と、用を済ませた明日香は去っていく。

「ちょっとぉ、なにこれー!」

 唐突かつ理不尽に、不本意なネームプレートを付けられた向日葵。
 それを冷静に見ていた永谷とグラン。

「とにかく、エリュシオン到着までは成功してもらわないといけないからな。円滑な旅のため、がんばろうぜ、サンフラワーさん」
「ええっ、永谷くん!」
「出発は島の北西の塔からのようじゃ。行くぞい、サンフラワー殿」
「何悪ノリしてんのよー!」

 味方の裏切りにあたふたする向日葵の肩に、壮太がポンと手を置く。

「がんばって名前覚えてもらおうぜ」

 自分のネームプレートを掲げてグッと親指を立てる壮太。

「ち、ちが、これあの子が勝手に……」

 通行証を見た長門が目を見開き、

「そうか秋野向日葵! ダイソウトウイジメをやめてダークサイズに入るんか! そうかそうか! 更生したんじゃのう! オレの想いが伝わったんかいのう!」
「ちがーうっ!!」

 と、本人をよそに勘違いなのか確信犯なのか、サンフラワーちゃんへのお膳立てが加速していく。

(……もう、いいや……)

 いつものドタバタについに降参し、メニエスは自分のペースで旅に参加すべく、ふてくされながら空飛ぶ箒にまたがって、館を出て島の北西へ向かった……