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リアクション
第二章 疾駆の報酬
枯れかけの森を進み行き、『石造りのロッジ』に出会せばそこから見える。
どこまでも闇が続く洞窟は闇瞑の洞窟と呼ばれ、人々から敬遠されている。多くのモンスターが巣くうとされている洞窟に、かつて西カナンの若き英雄とまで言われた男ジバルラが身を潜めているという。
無限 大吾(むげん・だいご)はロッジの窓から洞窟の入り口を目認した。ネルガル兵たちもこうして見張っていたと言うが、なるほど確かに入り口らしき巨穴が見えた。
「それにしても……」
窓から身を乗り出して見つめみても、やはりそれは明確だった。「身を隠すにしては、だいぶ目立つよね」
ロッジから入り口までは100m近く離れている。にも関わらず、この距離でこれほど大きく見えると言うことは、実際の洞窟口は相当に大きいのだろう。国を追われた男の潜伏先にしては何とも間口の広いことか。
「裏切りの英雄って、マルドゥークちゃんを裏切ったってことだよね〜?」
廿日 千結(はつか・ちゆ)が自問しながらに言った。
「って事は〜マルドゥークちゃんに奇襲を掛けるためのアジト?」
柔らかな頬が空を向いている。折れ落ちそうな程に首を傾げながら、『それならこんな危ない所を使うはずないか〜』と自答していた。これには大吾も賛成だった。
「それに、裏切りの前に『一人で』戻ってきたというのも腑に落ちない。相棒であるドラゴンを溺愛していていたようだし、裏切るなら尚更だ」
そして戻ってきた際に取りに来たと言った『忘れ物』の謎もある。危険を冒してまで取りに来なくてはならなかった物とは一体何なのだろう。
「う〜ん、変なところがいっぱいだ〜。やっぱり会って聞いてみないと分からないよね」
のんびりと千結が言った時、一行は洞窟入り口に辿り着こうとしていた。近くで見るとやはりに大きい。
「ほわぁ〜」
入り口の際で見上げみて、西表 アリカ(いりおもて・ありか)は唇を突き出した。洞窟入口の上半周は、枯れ木が垂れ覆っているため明確ではないが、それでも一般的な二階建て一軒家がすっぽり入る程には大きく見えた。
「ほんとに真っ暗なんだねぇ」
陽の光りが届かぬ先は全くに何も見えない。そんな闇路を目の前にしてもアリカは得意げに笑んで見せた。
「でもでも〜ボクには『ダークビジョン』があるから大丈夫っ! バッチリ見えるよ」
見通してみれば、奥まで続く洞窟内は横倒した円柱のようで、視力の限りに見てみても、天井と壁面はどこまでも狭まる様子がないように見える。このまま深部まで続くなら、想像以上に巨大だということなのだろう。
「怖じ気づくかと思ったけど」
フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)は『ハルバード』で軽く空を斬ってから握りなおした。
「その心配はないみたいね」
「もっちろん! っていうか、そんな風に思われてたなんて、ちょっとショックだよ〜」
「ふふ、冗談よ」
頬を締めて洞窟に向き直るフリューネの傍らに、相沢 洋(あいざわ・ひろし)が寄り立った。
「今一度の確認を」
突入しようとする洞窟にはモンスターが巣くってる事、そして向かい会おうとしている男ジバルラは荒く危険な男、話ができる相手ではないということも―――
「いえ……今から言っても無駄ですね」
「理解が深くて嬉しいわ」
「護衛します、我々が」
背筋を伸ばし立つ洋の後ろに、【ロスヴァイセ遊撃隊】の面々が並び立っていた。誰の瞳も気力に満ちていて頼もしい。
「お願いね」と言ったフリューネに乃木坂 みと(のぎさか・みと)が「お任せ下さい」と胸をはった。
「光源は精霊さんにお願いします」
『光精の指輪』から呼び出した人工精霊を先に舞わせて、一行は僅かな光りを頼りに洞窟内へと歩み始めた。
「あの…………フリューネ?」
見知らぬ地をグングン進むは『勇気ある証』だろうか、その見知らぬ地が暗闇に包まれているにも関わらず肩で風切り進むは『勇気ある証』なのだろうか。いや、それはきっと『勇気の無謀な使い方』というものではなかろうか。
「そんなに早く歩いたら危ない……」
リネン・エルフト(りねん・えるふと)の制止も届かない。僅かな光源しかないというのにフリューネは迷いなく地面を蹴り進んでいった。かろうじて『駆けて』はいないが、今にもそちらに移行してしまいそうだった。
「任せてよ」
ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が歩みを早めてフリューネに追いついた。彼女に並んだ所で『光術』で前方を照らした。
「この方が見やすいでしょ?」
「助かるわ」
みとの光精があるとは言え、照らす事のできる範囲は限られてくる。歩みながらにヘイリーは周囲を照らしてみた。
ここまでの道のりも一貫して地は平らだった、壁間も広く、むしろ少し前から余計に開けたようにも思える。
「なんだろう。岩が多いわね」
ホールのエントランス程に広い空間を歩んでいるのだろうが、どうにも歩みづらい。それは、2m近い岩がゴロゴロと乱雑に生えていて、避けながら進む必要があるからだったのだが。
「………………ヘイリー」
「あぁ、リネン、追いついたのね……って、何? 微妙な顔して」
「……いや…………岩が多いわって…………」
「ん? 何? 何か変なこと言った? ………………って、ハッ!!!」
言葉のいたずら、宴会芸の二枚包丁、洒落のきいた高度な言葉遊びと称されることも。
「ちょっ、違っ! シャレで言った訳じゃないんだからっ!」
慌てて弁解していたら、ドンと岩に当たっていた。勢いはついていなかったのだが―――
「ん? 温かい?」
触れてみれば一目瞭然、岩皮はまるで鋼のように硬く、そして人肌以上に温かかった。
「ヘイリー…………」
「ん?」
リネンが声を震わせて見上げていた。その視線を追って見上げてみれば岩の表皮がニタリと裂けて、白い牙が現れた。
「ヒィッ!!」
岩が震えて動き出し、表面の岩皮が2枚ほど剥がれた。2m級のサンドバットが両翼を広げて奇声を放った。
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