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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)
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 2m級のサンドバット、それが発した奇声が洞窟内に響き広がった。
「ヘイリー!」
 相沢 洋(あいざわ・ひろし)が彼女の手を取って引き寄せた。みなの準備は出来ている。先手を取らせる前に、こちらが仕掛ける!
「各員、応戦! 弾幕を張るぞ!」
 現れたサンドバットに向けて、大吾リネン綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)の3名が一斉に掃射した。
 鳥類のような奇声があがり、身を守る為に両翼を閉じた。皆が岩と思い込んだ形状に戻ると、銃弾は硬い表皮を貫けなかった。
「羽の外皮は堅い堅〜い」
 弾幕で抑えているのは、あくまで一体。しかし岩だと思っていた物が全てサンドバットだったなら―――
「だから内っ側を焼きっ斬る〜」
 セイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)は後方から迫る一体の懐に飛び込むと、力強く『爆炎波』を叩き込んだ。
「ククク、アハハハハッ!」
 奇声と共にこちらは倒れ込んだ。やはり熱に弱いというのは情報通りのようだった。
「そうは言っても、ねっ」
 廿日 千結(はつか・ちゆ)は先ほどから『火術』での炎撃を仕掛けているのだが、
「あぁもうっ! また閉じた!」
 両翼を閉じられてしまえば、硬い表皮が熱をも防いでしまう。加えて、敵の数が脅威になり始めていた。
 風花らの弾幕が敵の進撃を防いでいたが、ついにはそれを抜ける個体が現れた。
「どぉれ」
 素早く跳んだアルス・ノトリア(あるす・のとりあ)が、その個体の首元に『バニッシュ』を放った。
「あまり手間を掛けさせるでないぞ」
 サンドバットは一度大きく仰け反ったが、すぐに起きあがって襲いかかってきた。
 翼の先端に生える短剣の如き爪が眼前に迫る。
「つっ!!」
 アルスが爪撃を覚悟したときだった。スキル『炎の聖霊』が発動した。
 現れた聖霊が盾となって彼女を守り、その身に宿した炎がサンドバットを後方へ跳び退かせた。
「助かったぞぃ」
 役目を終えた聖霊は消えてゆく。言葉の通り助けられたが、発動条件を鑑みると暗に楽観する訳にもいかなかった。
「アストレイア!」
 配分なんて考えている暇は無い。御剣 紫音(みつるぎ・しおん)はパートナーのアストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)を強く呼んだ。
「我、魔鎧となりて我が主を護らん」
 アストレイアを装した紫音は『ウルクの剣』を二刀、構えた。
 自分たちをだと認識したのだろう、サンドバットたちは己に近い生徒に襲いかかるようになっていた。それ故に―――
「ふっ!!」
 右方から迫る爪撃を右剣で受け、左剣で大きく弾いた時には更に右後方から別個体の爪撃が迫っていた。
「っ、くそっ!!」
 残っている慣性のままに半回転し、下げた半歩に力を込めた。強引に『ライトニンングランス』を爪撃に叩いて、これを弾いた。今の間はこれで防げている、が、これでは本当に防いでいるだけだ。
「くそっ、キリがない…………!!!」
 数が多すぎる。ある程度は生徒同士で陣を張っているものの、八方を囲まれる中で戦っているような錯覚さえおぼえる。
 一瞬たりとも気は抜けない、『殺気看破』は連続で発動しっぱなしだった。
「ん?!」
 爪撃ではない。いくら巨体とはいえ、ここまでの高さであるはずはない。感知した殺気は自分のほぼ真上、この位置なら飛び迫るより他に手は無いはず……。
 ――違う!! 
「上だっ!!」
 飛べない事もないのだろうが、あの巨体で飛んだにしては明らかに数が多すぎる、つまり自分たちの頭上に何か、別の何かが大量に居るということだ。
 見上げたとき―――それはすでに降り落ち来ていた―――
 アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が誰よりも速かった。みなが見上げた時、彼女は一人髪をなびかせていた
 美しい銀の髪幕から5体の『使い魔:吸血コウモリ』が飛び出すと、落下物に向かい飛んでは、その身を投げた。
 衝突の後に地面に落ちる。それをアリスが覗き見るのと、パートナーである鳴神 裁(なるかみ・さい)が天井を見上げるのが同じタイミングであった。
「うにゃうにょっ!!」
 思わずが叫んでいた。魔鎧であるドール・ゴールド(どーる・ごーるど)のスキル『ダークビジョン』が見せたのは、天井に蠢く大量の蛇だった。
「ぃぃぃぃいいぃ〜」と全身に悪寒を感じて身をよじらせたが、それら蛇群の次撃がフリューネの頭上に起こるのが見えて、はキッ! と瞳を鋭めた。
 落下してくるはサンドバジリスク、その数は先ほどよりもずっと多い。
 炎を操る『焔のフラワシ』を3体、そしてジャタの森の精『ピー』6体を一度に放つ。それらが傘のように陣を張り、フリューネに届くより前に迎撃を果たした。しかし、間髪入れずに次撃が降ってくる。
 サンドバジリスクには猛毒があると言われている。故に身を投げ落ち来る攻撃はそれだけで脅威だった。
「……させない」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)が『曙光銃エルドリッジ』を天井に向けた。強力な光の弾丸が蛇の頭を次々に爆ぜてゆく。
 ――フリューネには触れさせない。
 リネンと同じくこれを想うフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は、すでに弾幕を抜けて落下を果たした蛇を掃していた。
 6体の『武官』で防壁を作り、蠢き寄るバジリスクを端から潰してゆく。それなりの戦闘経験を持つ従者たちは、冷静に一匹ずつしとめてゆく。それでも防壁は一つの面に過ぎない、故に。
「はぁっ!!」
 後方から跳び迫っていた2匹に気付かなかった。それを一閃で薙ぎ払ったのはフリューネだった。
「大丈夫?」
「あぁ、助かっ―――!!!」
 2mの巨体から繰り出される爪撃、これをまたしてもフリューネの『ハルバード』が受け捌いた。
「何して、くれてんだっ!!」
 フェイミィが剣撃でサンドバットの顔部を斬りつけた。
 やはり岩皮の如くに硬いからだろう、斬撃は打撃になってしまっていたが、それでも巨体を後退させる事はできた。
「フリューネ! 今のうちに行け!!」
「は?」
 跳びついてくる蛇を真っ向から突き刺し、そのまま地を這う蛇に突き下ろす。何とも豪快に立ち回っているが、それはフェイミィ等が望む姿ではない。
「目的を忘れんな! こんな所で消耗戦してる場合じゃねぇだろ!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
 明らかに手数が足りない、そんな事は分かっている。タシガン空峡での勇姿は知っている、あんたならこの場も見事に切り抜けるのかも知れない、それでも! それでもこんな危険地帯のど真ん中にいつまでも居させてたまるかよ!
 ――あんたはオレたちの、希望なんだ。
「いいから行け!! ここはオレたちが何とかする!!」
 何とかする、どうにでもしてみせる、オレたち【ロスヴァイセ遊撃隊】がどうにでもしてみせる。
「オレたちを信じろ!!」
「フェイミィ……」
「おぉぉおおおお!!!」
 雄叫びながらフェイミィサンドバットに斬りかかってゆく。彼女の背を追おうとするフリューネを、九条 風天(くじょう・ふうてん)が止めた。
「行きましょう」
「着けると良い」
 駆け出しながらに宮本 武蔵(みやもと・むさし)が彼女の胸に押し渡した。
「ペースを上げて一気に行くぞ!」
 モンスターの奇声も銃声も撃音も聞こえてくる。戦いは今も終わらない、それでも先の戦いを託してくれた者たちがいる。
 渡された『ノクトビジョン』を強く握りしめ、フリューネは駆けるを始めた。
「道を作る! みと! 焼きつくせ!」
 相沢 洋(あいざわ・ひろし)の声に乃木坂 みと(のぎさか・みと)が『火術』を放つ。【ロスヴァイセ遊撃隊】の追撃と共に、戦場を抜ける道が開かれた。
 彼らを残し、フリューネと生徒たちは駆け出した。
 必ず追いついてくる、そう信じて一気に戦路を駆け抜けた。