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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)
【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回) 【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)

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 相も変わらずに洞窟内は闇に覆われている。
 各々に『ダークビジョン』やら僅かな光源などの頼りはあれど、視界は狭いまま、モンスターが巣くう未開の地という状況は変わっていない。にも関わらず一行が駆けるを行っているのは、託された想いがあるからだろう。
 そんな中、先頭を切っていたはずの男が失速を始めた。
「やはり、口だけでしたか」
 激励の言葉ではなく、嘆息まじりに坂崎 今宵(さかざき・こよい)は言った。「ほら武蔵さん、キリキリ走って」
「相変わらず……厳しいねぇ」
 『パワードアーマー』に『パワードインナー』、『パワードドレッグ』に『パワードバックパック』。宮本 武蔵(みやもと・むさし)はこれらを一人で担いで走っていた。
 ――結構重いんだぜ、これ。
 武器だけではなく、なかには医療品も詰めてある。『必要なのだ、必要なのだよ荷物係は』と何度も自分に言い聞かせていた。
 ――ま、グチっててもしょうがねぇ。いょいしょっと―――ん?
 持ち代えようと『パワードバックパック』をの上に置いた時だった。
 予め言っておこう、彼は悪くない、悪くないのだ。膝高ほどのの上に安易に乗せただけなのだから。
 ………………お察しの通り。
 例によってそのサンドバットだったわけで――
「ぬぉわっ!!」
 彼が叫んだ時には爪撃が迫っていた。寝転がりながら片翼だけを開いたようで、その動きは武蔵の見立てよりもずっと速かった。
 ――横になってるなんてズルイだろっ!
「ぐふっ!」
 頭に衝撃を感じた。気付いた時には吹き飛んでいた。爪撃ではなく打撃。彼を蹴り飛ばしたのは今宵だった。
「姉さま!」
「っぅぅぅぅぅううう」
 白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)が瞳を光らせる。片翼が開ききるその一瞬を狙って、
「討つ!」
 轟音と共に『ファイアストーム』が放たれた。狭い隙間を見事に射抜き、サンドバットの胴部を焼いた。
 結局寝転がったままで巨大蝙蝠が果てた時、ようやく武蔵がノッシと起きあがった。
「痛っつっっ。蹴とばす事はねぇだろう」
「あら、そんな所に転がっていたのですか。発作ですか?」
「発作て……。豪快に蹴り飛ばしてくれた者の言い種とは思えんな」
「まぁ良いではないか。今宵がそうしていなければ、おぬしも一緒に丸焦げだったのだぞ?」
「そういう事でございますわ」
「だからって……」
 ん、まぁ確かに気付いた時には手遅れぎみだったわけだが。蹴られたからこそ避ける事ができたのもまた事実。そしてあの炎撃…………むぅ……。
「次からは……も少し弱く蹴ってくれい……」
「暢気にM宣言してる場合じゃないぞ」
 氷室 カイ(ひむろ・かい)の言葉に武蔵は慌てて弁解したが、飛び込んできた光景がそれを止めた。
「どうやら、起きちまったようだな」
「4体です」
 サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が『光術』を発っした。辺りを照らし終えるより前に言いきったようにも見えたが、まぁそこは眼力が優れているという事なのだろう。
「ずいぶんと少ないですね」
「多いよりはマシよ」弾けたように雨宮 渚(あまみや・なぎさ)が右方に飛び出した。間は無くカイが正面に駆けだす。
「悪いが、最低の寝起きをくれてやるぜ」
 起きあがる巨体の頭上に跳んで、『妖刀村雨丸』を打ち下ろした。
 斬撃が打撃になる事は知っている、だから、着地と共に追撃を放った。
 ――休む間もなく打ちつけられれば。
 思った通り、連撃を払うべく両翼を開いた。
「はい、チェック」
 の銃撃が胴部を射った。『最古の銃』は炎熱属性を持つため、一射がそれだけで大きなダメージとなる。
 先の戦いから情報は得ている。十分優位に戦える。
 弱々しく『ハルバード』を振り回すサーの元には3体のサンドバットが集まっていた。
 取り囲んだ。狩れる。蝙蝠ながらにそう思ったことだろう。3体は一斉に翼を広げて爪を剥いていた。
「残念ですが、そう上手くはいきません」
 駆けるスピードそのままにレオナ・フォークナー(れおな・ふぉーくなー)は『クロスファイア』を放った。
 十字炎撃が一度に2体を、そして背面飛びで爪撃を避けながらに放った『クロスファイア』が激しく胴部を打ち焼いたところで、勝負あり。
「さぁ、急ぎましょう」
 烈火の如くに5体ものサンドバットを退けた一行は、再び深部を目指して駆け始めた。



 『闇瞑の洞窟』内をゆく一行、その先頭をゆく神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)は『光精の指輪』で前方左方を照らしていたが、
「ストップです」
 と腕を上げて後方に知らせた。
 ――何でしょう?
 前方に見つけた影、それほど大きくはないようだが。
「サンドバジリスク、×5だね〜」
 すぐ傍らでナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)が言った。彼女の『光術』が前方を照らした事で有栖にもそれらを確認するできた。確かに5匹の蛇が身を寄せ合って蠢いている。
「あ、ごめんなさい。サンドバジリスクの群れが現れた、サンドバジリスクA、B、C、D、E―――」
「丁寧な説明、感謝しますわ」
 聞き終える前に、ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)が飛び出した。
 敵前に放った『光精の指輪』を追うように駆けると、『ライトブレード』と『雅刀』の二刀を次々に薙ぎ振るいゆく。
「B、C、すごいですっ! あっ、Eも倒したです」
 疾速の剣が空を裂く度にバジリスクの体も2つに裂かれてゆく。ナカヤノフは手を叩いて喜んでいたが、パートナーのリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は小さく憤慨した。
「遊んでいないで、わたくしたちも行きますよ」
「えぇっ! リリィ、危ないよ!!」
「へっ?」
 リリィの背後に炎の雨が降り注いでいた。有栖が天井に向けて放った『ファイアストーム』の拡散範囲にリリィは半歩踏み入れてしまっていたようだ。
「きゃあっ」
 炎雨は残る2体の蛇を焼き、そしてリリィの長い髪の先をも触れたようで。有栖は駆け寄り、頭を下げた。
「ごめんなさい」
「あ、いえ、大丈夫ですわ」
 焦げた髪先を撫でながら笑顔を作ったが、やはりどこか、ぎこちなかった。
 ――危なかった……
 内心は今もドキドキしていた。2体の蛇は見事に焼き倒れている、あと半歩でも歩み入っていれば脳天から炎雨を受けていたかもしれない……。
 ――落ち着くのです、落ち着くのですよ。
 そう必死に思ってはいるものの、胸に当てた手はしばらく動かせそうにもないようだった。
「しっかし殺風景だな」
 伏見 明子(ふしみ・めいこ)に装しているレヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)は、辺りに視線を走らせて言った。
「水の気配すらしねぇ。ほんとに住んでるのか? その竜騎士ってのは」
 どこまで行っても一本道、何度か緩やかな傾斜を感じたが、岐点はこれまでに一度もない。
 通路幅もほぼ同じ、巨大な穴がひたすらに続いていた。
 英雄だろうと何だろうと、生きるためには水は不可欠なはず。モンスターの襲撃などで立ち止まる度に『ダウジング』で水の気配を感じ取ろうとしたのだが、それすらも感じられなかった。
「実は『居ない』という可能性もある。でもその場合は、」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は瞳だけを素早く動かすと、無表情のままに『マシンピストル』を壁に向けた。
「ミッションはより困難になるわ」
 銃声の後にサンドバジリスクが転がり落ちたが、月夜は既に樹月 刀真(きづき・とうま)へと視線を向けていた。
 刀真はすでにその意を察していた。
 ――無いものの証明、か。
 ネルガル軍が入り口を見張っていた以上、ジバルラが洞窟内に入ったのは確かなのだろう。そして少なくとも『外に出た』形跡がない事は、先日まで見張りが行われていた事が証明している。それなのに洞窟内に居ないとなれば……。
「洞窟内を全て調べなくてはならないというわけだな?」
 月夜がコクリと頷いた。
「いっそのこと、洞窟ごと焼いてしまえば良いんじゃなぃ?」
 ザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)が端正な顔でサラッと言った。
「そうすれば、嫌でも出て来るんじゃない?」
「それはまた過激な意見ね」
 他の誰かが何を言うより先にフリューネが応えた。笑みすらも浮かべるザウザリアスに彼女も一度は笑んで見せたが、すぐに頬を落として、
「当然、却下よ」
 と言い捨てた。
「冗談よ。でも、彼がただの裏切り者だった時は、殺すんでしょ?」
「…………」
 殺す。この言葉が場に沈黙を与えた。
「私は殺すべきだと思うわ。ネルガル側として積極的に動かれたら、それこそ厄介だもの」
 誰もが考えなかった訳ではない、しかし実際にそうせざるを得ない状況がこの先に待っているかもしれないのだ。ここまで来た以上、もはやヒトゴトでは済まされない。
「そもそもが悪名高い人物な訳で、そんな人を仲間にしてネルガルを倒したとしても、その後にまた問題を起こす可能性は十分に考えられるでしょ、だから―――」
「だから会うのよ」
 フリューネが言葉を遮った。己の不安をも振り払うように強くしっかりと言葉を投げながら。
「会って判断する。それだけよ」
 行くわよ、と言って駆けだした彼女に一行は続いた。フリューネのすぐ後ろを駆ける刀真には、彼女の背が気のせいか小さく見えていた。
 彼女の疑点も同じなのだろう。
 ジバルラの行動には不可解な点が幾つかある。マルドゥークの前に一人で現れたという点、そしてその後の行動は、他人から嫌われるような行動をわざと取っているようにも感じとれる。
 月夜の言うように、すでに洞窟内には居ないのかもしれないし、会えたとしても、大勢で押し掛けては話してくれないかもしれない。
 それでも今は、行くしかない。
 フリューネが言うように『会って真実を確かめる』、それが今は何よりの最善なのだから。