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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第1回/全3回)
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 ネルガルが右手をあげると、数体のワイバーンが降下してきた。その光景に、フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は言葉を失った。
 ワイバーンの背にはシャンバラの生徒たちが乗っていた。その数、1、2、3、4……全部で7人。
「あなたたち、どうして……」
 ネルガルの背についている、それはつまりイナンナ様を、いえ、わたくしたちを裏切ったという事なのですか?
「あなたたちはこの国を、ネルガルの支配から解放するために、そのためにシャンバラから来たのではないのですか?」
 静かな激は届かない。ネルガルの「イナンナを捕らえよ」の言葉をきっかけに、彼らの乗るワイバーンが更に降下を始めた。
「イナンナさんっ!」
 出雲 竜牙(いずも・りょうが)イナンナの手を取って駆けだした。
「逃げるぜ! 走れ!!」
「でもまだ……」
「女神様が捕まったら話にならないだろ! モニカ! 雷牙!」
「了解……」
 出雲 雷牙(いずも・らいが)が『綾刀』を携えて先頭を駆けた。庭園内、ここから橋までの走路で敵が潜めそうな場所は前方2ヶ所、樹壁の陰と橋の入り口、それ以外は目視で十分。そして跳び出してくるのはロックワーム。
「モニカ……」
「分かってるわよ!」
 『空飛ぶ箒』に跨ると、モニカ・アインハルト(もにか・あいんはると)は『巨獣狩りライフル』を空に構えた。思った通り、空からオルトロスが跳び向かってきた。
「誰が近寄っていいって言ったのよ!」
 容赦なく、一度撃ち抜いた個体にまで連射してしてしまったとしても構わないままに、モニカは空に向かって掃射した。
 それでも怪犬たちは恐れを見せずに跳び落ちてくる、狙いはイナンナただ一人のようだ。
「他人に躾られた犬は好きじゃないのよ、ねっ!!」
 彼女めがけて向かってくるなら、その場所を分からなくすれば良い。モニカは空に向かって『煙幕ファンデーション』を投げつけた。
「ったく、面倒な事しやがって」
 ワイバーンの背から見下ろしていた。如月 和馬(きさらぎ・かずま)は大きくため息をついた。
 斬撃を得意とする和馬にとっては、この煙幕は邪魔すぎる。
「何とかしろよ、侍女っ娘さん」
「こ、子供扱いするのは止めてください」
 秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が抗議しているうちに、もう一人の『侍女っ娘』村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)が煙幕に向けて『火術』を放った。
 小規模ながらに衝突の爆発が起きると、僅かに煙幕が晴れていった。
「そうそう、上出来だ」
 界下にイナンナの姿を捉えて和馬は一気に跳び出した。
 一撃で斬り裂く、そう振り下ろした『龍骨の剣』は、横から現れた『ライチャスシールド』に防ぎ弾かれた。
「あん?」
「女神様には指一本触れさせないよ」
 盾で弾き、『ライチャススピア』で払い退ける。文字通り盾となってアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)イナンナを守った。
「翔クン、こっちは任せて。」
「アリア! くそっ!!」
 殿を彼女に、そして自分はイナンナの護衛を、という取り決めだったが。いちるの『火術』を葛葉 翔(くずのは・しょう)は『煉獄斬』で斬り裂き、瞬きの次間に終夏の『光術』を察して避ける。殿をアリア一人にさせている事も心苦しいし、ネルガル側についた生徒たちには相応のペナルティを叩き込んでやりたいのだが、何せ敵数が多くて手が回らない。
「またミミズか!」
「……俺が」
 橋の手前で蠢くワームに雷牙が巨大ブーメランで殴り払った。身の丈ほどもある『光条兵器』がワームの腹を叩き上げると、その巨体を無理に押し退けた。
「……今です」
「よし! アリア! 急げ!!」
 橋を渡り、一気に城内に駆け込んだ。ワイバーンが飛襲してくる前に逃げ込めたのは大きい、城内ならば飛竜は追っては来れない。城内を探索していた生徒たちとも合流を果たし、一行は一気に城内を駆け行った。
「こっちだ」
 華嵐の作成した城内マップとホウ統 士元(ほうとう・しげん)の索敵がここでも役に立った。
 動きの遅いワームとは戦わずに城内を駆けていたが、
「待って下さい。正面に5体、素早いのが現れます」
「正面に5体って……」
 聞きなおした所で変わらない。隼人はとっさに兵用の部屋の扉を開けて皆を促した。壁には×印が描かれている、隼人は自信を持って皆を押し込んだ。
 最後に自分が入って扉を閉める。直後に跳ね暴れる足音が大きく聞こえてきて―――そして、それは次第に遠ざかっていった。
「くそっ、どうしてネルガルがここに……」
 隼人が安堵の息を吐く横で、鬼籍沢 鏨(きせきざわ・たがね)は目一杯に悔しそうに呟いていた。
「タイミングが良すぎる。誰かが情報を流したとしか考えられない」
「待って」とイナンナがこれを遮った。
「むやみに疑うのは良くない。何も好転しない」
「……別にオレは構わないけどよ、裏切り者が居るんなら、状況はむしろ悪くなる一方だぜ」
 正論だと隼人も思う。信じたくはないが、内通者が居るという可能性も確かにある。
「そもそもネルガル側につく奴があんなに居ていいのかよ、シャンバラの信用問題にもなる……いや、いっその事、オレたちは別にしてもシャンバラの事はあまり信用しない方が良いかもしれないぜ」
「おい、それは言い過ぎだろ」
「本当にそうか? これ以上シャンバラから裏切り者がでたり、より多くの援軍が来たりしたら、カナンの人々は他国であるシャンバラが本格的に軍事介入してきたって思うんじゃねぇか? そうなりゃ、オレらの居場所も無くなるぜ」
「そんなことありません」
 幼子の姿をしたイナンナが静かに言った。
「人々は助けを求めています、そして自分たちだけではネルガルを倒せないと、絶望しています」
 噛みしめるように女神は言った。
「シャンバラの人々の協力に感謝し、そして最後まで戦いぬく。これは我々の、いえ、国民の覚悟です」
 人を説くには技術が要る、しかし真っ直ぐで正直な想いが言わせた言葉は、それだけで人の心に入りてくる。「ごめんなさい、偉そうなことを言って……」と彼女はおどけたが、個人差はあれ、彼女の想いは皆の心に届いたことだろう。
 なかなか外が静かにならず、一行は部屋を出るタイミングを図っていた。
 城内に居れば遅かれ早かれ発見されてしまうだろう、寝返った生徒だけでなく、オルトロスパラミタロックワームも闊歩している。石版に描かれた絵を解析する為にも、ここは一刻も早くの脱出を要されていた。
「そのことなのですが」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が控えめに、それでもしっかりとした声で言った。
「先日、マルドゥークさんの元に『各地の現状を撮影した写真』が集められていたのですが。その中に、あの絵に似た竜巻が写っていたように思えるのですが」
「…………メイベルさん? それ、勝手に見たですぅ?」
 ヘリシャの問いに彼女は「少し拝借しただけですわ」と小さく舌を出して笑み言った。
 それなら尚更、一刻も早く脱出して写真と映像を照合することだ。
 マップを眺めたイナンナは道なき箇所を指さした、そこに外に繋がる隠し通路があるという―――
「早く言わんかぃ!!」
 と、一致団結の想いでツッコミを入れたおかげで、敵に見つかった。
 怪犬、ミミズ、人間に飛竜。それらをどうにかこうにか切り抜けての脱出を試みた。
 ………………。
 古代戦艦ルミナスヴァルキリーに辿り着いた時、翌日の陽の光りが一同の顔に降り注いだそうだそうな。