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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・後編

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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・後編

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4.ダイソウ・ダイダル卿救出作戦?

「はっはっはっは!! 話せば話すほど愉快な男じゃわい!」

 ユグドラシルの監獄内には、ダイダル卿の笑い声が響く。
 おそらくアポロやヘルメェスからの差し入れなのだろう、尽きることのない『アルテミス』のワインを傾けながら、格子を挟んでダイソウ トウ(だいそう・とう)と語り合う。
ダイソウは牢の中。ダイダル卿は自分の独房を出て、廊下に座り込んでいる。

「我々、謎の闇の悪の秘密の結社ダークサイズは」
「はっはっは! 長い名前じゃ!」
「パラミタ大陸征服を目論む、悪の秘密結社だ」
「実に壮大な夢じゃ!」
「すでに空京放送局を押さえ、カリペロニアには悪の拠点が完成し、西カナンにはダークサイズカナン支部の土地も確保した。我が館には各階にガーディアンを配置し、さらに親衛隊が私の傍を固めるのだ。カリペロニアにはレジャー施設も完備し、ダークサイズ主力戦闘部隊『ペンギン部隊』の『オディンソード』で、我らに仇なす者を恐怖に陥れるであろう」
「ほー、それはもう出来上がっているんじゃな?」
「そうだ。残るは各学校、他国に攻め入るための浮遊要塞を獲得するのみ。さらにダークサイズ幹部と戦闘員を増やし、エリュシオンを併呑するのも時間の問題だろう。これはまだ内緒だが、最近私の影武者を作る技術チームも作ったのだ」

 いつの間にやら、ダークサイズがここまで拡大したのは事実である。しかし如何せん、現在のダイソウは軍服を失って、下着にポンチョという情けない姿。
 ほら吹きのおっさんと思われても仕方がない。
 ダイダル卿も本気なのか話し半分なのか、面白そうに聞いている。

「いいのう。若い者には夢がある」

 と、ダイダル卿は言うものの、ダイソウも中年の男である。

「自由とはいいものじゃ。わしら貴族の身分は、気ままに暮らす道楽者と言われるが、とんでもない。身分を保障される代わり、土地に縛られ民に尽くす。危機が訪れるなら真っ先に命を捨てる。わしは『アルテミス』の民が好きじゃ。だからこの地を捨てる気はないが、お主らのような生き方に、憧れはあるのう」
「? ここはユグドラシルであろう」
「何を言っとる。ここはわしの館じゃ。館は『アルテミス』に建てた。従ってここは『アルテミス』に決まっておろうが」

 と、この調子で二人の会話は尽きることがないものの、要所要所で噛み合わない。
 その後ろで、超人ハッチャンクマチャンは、半分諦めたような顔でうずくまっている。

「……誰も助けに来ないね」
「うん……」
「超人ハッチャン、大幹部。浮かぬ顔をするでない。まだそれほど時間も経っておらぬ。物事には準備というものがあろう。ダークサイズ幹部の誰かが、必ず私の服を何とかしてくれる」
「いや、服の心配じゃないんすけど……」
「そうじゃ二人とも。助けを外に求めてどうする。自らの力でそれを乗り越えてこその、人生の妙であろうが」
「いや、人生論の話じゃないっす……」

 ダイソウに加えてボケがもう一人増えた形になり、超人ハッチャンもクマチャンも、そういう意味で疲れてきている。

ぎいぃぃ、がしゃん……

 そんな中、監獄の入口の方から、扉が開く音が聞こえ、コツコツと足音が聞こえてくる。

「もしかして、助けが?」
「ほう、早いな」

 ダイソウ達三人は味方を期待し、ダイダル卿はキョロキョロして人を探す。

「ん? 今日はアポなしの客人が多いのう。娘に出迎えをさせんとの」
「娘? ダイダル卿、娘いるんすか」

 と、クマチャンが聞く。

「おう。わしに似ても似つかぬ、美人に育ってしもうたがの」
「ほほー! 名前は?」
「ん? はて、何じゃったかの」
「ええー!」
「おい、騒ぐな!……ダイダル卿」

 看守もダイダル卿の対応には慣れたもので、慇懃におじぎをして言う。

「お客人をお連れしますので、応接室へおいでいただけますか?」
「おお執事。そうか客人か。今日は忙しいのう」

 ダイダル卿も素直に自分の牢へ戻る。
 看守の後ろを歩く男の顔がキョロキョロしている。看守が連れてきた男、赤城 長門(あかぎ・ながと)は、ダイソウの顔を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる。

「ダイソウトウ!」
「おお、親衛隊員長門ではないか」
「おったおった! こんな所におったんか、ダイソウトウ! みんな探しちょったけん!」
「うむ。とんだことに巻き込まれてしまったぞ」
「オレが来たからには大丈夫じゃけん」
「それにしても一人で来たのか。よくぞここを見つけたな」
「簡単じゃき。兵隊に聞いたら素直に案内してくれたけん」
「そうか。よくやったぞ」
「こら、私語をするな。お前はこっちだ」

がしゃん……

 看守は長門を別の独房に放り込む。

「お前捕まってんじゃねえかー!!」

 超人ハッチャンとクマチャンの叫びが空しく響く。
 どんな環境でもレザーパンツに上半身裸の、プロレスラー気質な長門。
 ポンチョ姿のダイソウですら捕まったのだ。衛兵が長門にどんな反応をしたのかは、推して知るべし、である。
 またがっかりと頭をもたげる超人ハッチャンとクマチャン。
 しかしそれでも動じない長門。

「大丈夫じゃけん。これくらいは予想済みじゃけんのう。あくまで捕まったのは、ダイソウトウの場所を知るためじゃけん」
「なるほど! 頭使ったね」
「ここからが赤城長門の見せ場じゃけん! オレの男気、見せちゃるけん! ふぬあああああ!!」

 看守が去った直後、長門は牢の格子を掴み、筋肉をほとばしらせて鉄棒を歪ませにかかる。
 これには超人ハッチャン達は期待して、

「おおっ! そうか、こういう脱獄作戦ってことか! がんばれ!」
「うおおおおおっ! うおおおぉぉぉ……ぅぉぉおおぉぉ…………はあ、はあ……」
「あれ、どうした?」
「……堅すぎるけん……」
「失敗かよおおお!!」

 期待し損である。
 しかしそれでも長門は動じない。騒ぐクマチャン達を手で制し、

「こんなこともあろうかと、ダイソウトウの服を用意してきたけん。服さえ着れば、無罪放免。オレは自分で何とかして脱出するけん! さあ、ダイソウトウ!」

 と、カッコイイことを言い始め、長門はレザーパンツに手を突っ込み、中からレザーパンツのスペアを取り出し、ダイソウの前に放り投げる。

「……」
「ダイソウトウ、それを履くけん!」

 ダイソウは、長門のぬくもりがしみ込んだパンツを眺め、そして目をつぶる。

「……長門よ」
「何じゃい」
「……気持ちだけは受け取っておこう」
「拒否られたけんーー!」
(何だ?)

 牢獄の奥で長門の嘆きが響くのが聞こえ、入口の看守は休憩しながら首を向けた。