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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・後編

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ダークサイズ「蒼空の城ラピュマル」計画・後編

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「しかしよ、普通に考えて、よくこんな大荷物で面会許可してくれたなぁ」

 監獄での受付を済ませて廊下を歩きながら、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が自分の抱える段ボール箱を見ながらつぶやいた。
 看守の案内に従って、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)を先頭に魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)
ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)。彼らも各々箱や風呂敷を抱えている。
 ミカエラは、

(テノーリオ、余計なことは言わないの! 変に悟られたらどうするのよ……)

 と、目で制す。

「まあ、ダイソウトウは軽犯罪で拘留されていると聞きました。その程度の罪で、脱獄なんてリスクを侵す者はいないでしょう」

 子敬がフォローを入れて、ゆめゆめ脱獄を企みなどしない者たちだ、とふるまう。

「もう少し様子見だが、そういう様子なら交渉組の法的手続きで何とかなりそうだな」

 トマス達の面会についてきたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、監獄内の観察も怠らないが、ダイソウたちの監獄での扱いの軽さに、少し安堵の表情をする。
 トマスも彼らの話を聞いていたが、

「しかしともあれ……」

 珍しく鋭い目でこう言う。

「今回ばかりは自分で何とかしてほしいもんだね。たまには『これぞリーダー』ってとこを見せてもらわなきゃ」
「ま、それも一理あるが……それでその荷物ってわけか……」

 ラルクはトマス達の抱える箱を見つつ、タバコに火をつけようとする。
 ちょうどそこに看守が振り返る。

「おい、ここは禁煙だ」
「ええー、そうなのかよ」
「面会だぞ」

 看守はダイソウの格子を警棒で叩く。
 ダイソウより先に超人ハッチャンたちが反応し、

「おおー! 今度こそ助けが来た!」

 と、喜ぶ。
 トマス達は荷物を牢の前にどさどさと降ろし、ダイソウの前に座っていく。

「ダイソウさん、お疲れ様。大変な目にあったね」

 トマスはまずはダイソウたちの不幸を残念がる。
 ダイソウもトマス達の到着を喜び、

「うむ。とんだことになってしまった。よくここが分かったな」
「うん、長門君が捕まったんで、後をつけてきた」
「なるほど」
「ひどいけんー! だしに使われたけん!」

 ダイソウのはす向かいで長門がまた嘆く。
 ラルクは長門の独房へも行き、

「お前、そんなカッコで歩いてたのかよ。ダイソウトウよりタチ悪いぜ……」
「何も悪いことはしちょらんけん。いつものフォーマルな装いじゃけん」
「フォーマルって……まあいいや。助けが来ると思うから、それまで頑張れよ」
「今助けてくれんかのう」
「いや、俺はもう少し様子見るからよ。別方面で動いてるやつらがいるんだ」
「冷たいけんラルククローディス! 親衛隊のよしみじゃけんー」

 長門がラルクにごねるのを背景に、トマスは箱を開けてダイソウに中身を見せる。

「ダイソウさん、これ差し入れね」
「ほう」
「ユグドラシルについてろくなもの食べれてないでしょ?」
「助かるぞ。エリュシオンに着いて一食目が、留置所の冷や飯だったからな」
「それにしても、よくこんな大荷物で面会の許可出たね」

 クマチャンが早速、まずはケバブのような食べ物に手を伸ばしながら言う。

「ええ、ダイソウトウとダイダル卿の面会って言ったらすんなりね」

 と、ミカエラがダイダル卿を振り返る。

「おお、今日は客人が多いのう」

 ダイダル卿はのそりと独房から出てくる。

(でけえし出てきたー!)

 囚人が牢から勝手に出てくるのには、さすがにみんな驚く。
 テノーリオが驚きながら身構えて、

「おおおお、おい、出てきたぞ!?」
「何かこの人だけ出入り自由なんだよ……訳わかんないけど脱走しようともしないし」

 クマチャンは口をもぐもぐさせながら、落ち着いた様子。
 ダイダル卿の名前を出すと看守の口調が柔らかくなり、大量の差し入れも許可してくれたこと、面会室ではなく牢まで案内されたことが、何となく納得できたトマスたち。

「総合的に見て、看守たちもダイダル卿に一目置いているようですねぇ」

 子敬がトマスに目をやり、トマスも頷く。

「彼を味方につければ、脱獄も容易になるかもしれないね。というわけでダイソウさん」

 トマスがミカエラとテノーリオの段ボール箱、子敬の風呂敷を開いてみせる。
一つは純銀製のスプーンがぎっしり、一つはステンレスのスプーンがぎっしり、風呂敷には本と地図らしき冊子が数冊。
 ダイソウはそれを見て、

「これは何だ?」
「やっぱ、脱獄の王道はこいつだよな。地道にスプーンで穴を掘る! 壁の向こうはきっと排水管につながってるはずだぜ。銀のスプーンは俺からの差し入れだ」

 テノーリオが自慢そうに言うのを、ミカエラがこずく。

「ばかっ、テノーリオ! 銀なんてすぐ擦り減ってしまうわ。ステンレスでないと役に立たないっていったでしょ」

 彼女はステンレスのスプーンを持って、キンキンと鳴らして丈夫さをアピールする。
 さらに子敬が冊子を一つ手に取る。

「一応、この監獄の見取り図と、警備の配置は可能な限り書きいれてありますから、参考にどうぞ」

 彼らは一通りの脱獄道具を差し入れて、

「じゃ、がんばって」

 と、早々に立ち去ろうとする。
 超人ハッチャンとクマチャンが、

「いやいやいやいや! ちょ待って! どういうこと!?」

 トマスは目薬をさして目を潤ませ、そして振り返る。

「できることなら! 僕たちが救出してあげたい! その方が楽に出られるかもしれない……」
「じゃあ今助けてくれよ」
「でもそれじゃあ、ダークサイズのコンセプトに反すると思うんだ!」
「いや、こんなときにコンセプトとかいいから!」
「ダークサイズは千里の道も一歩から。地道にコツコツがモットーのはず」
「そんなモットー言ったことない!」
「やはりこう言う時こそ、ダイソウさんにはダークサイズリーダーたる模範を示してもらいたい! 僕たちは、君が大物だって信じてるから!」
「ええー!」

 結局脱獄道具の差し入れに来ただけのトマス達。今ここで救出する気がないことに、総帥と大幹部は愕然とする。

「ちょ、ちょっと閣下! 何とか言ってやってください!」
「……お前の気持ち……受け取ったぞ!」
「乗せられてんじゃねえー!!」

 親指を立てて健闘を祈り合う、ダイソウとトマス達一行。
 去っていく後を追ってラルクも、

「じゃ、そういうわけだからよ。がんばってな」
「ちょっとおい! お前もかよ」
「だからよ、法手続きで恩赦が出ねえか試してっから。できるなら合法的に出れた方がいいだろ? あとダイダル卿も何とかしなきゃいけねえし」
「え? ダイダル卿も? 何で?」
「ま、とにかく後でなー」
「うぉい! 肝心なこと言わねえのかよ!」

 ラルクも去った直後、まあまあ、と手を振って六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)がダイソウに近寄る。

「ダイソウトウ。面会だけではありませんよ。今こそ私のクローン技術を発揮する時ではありませんか?」

 エリュシオンへの旅の中、遊び半分でダイソウのクローン技術(思考力のない人形であるが)を開発した鼎。
 もし脱獄となれば、本物瓜二つのダミーくらいは欲しいところ。
 図らずも鼎のクローン技術によって、それが可能なのだ。

「というわけで、ダイソウトウのはあるので、超人ハッチャンとクマチャンの髪と爪と角質をください」

 超人ハッチャンもクマチャンも、喜んでサンプルを差し出す。
 鼎はダイダル卿にも振り返り、

「やーどうもダイダル卿、ファンです。髪と爪と角質をください」

 と、あまりにも堂々としたウソをつく。
 ダイダル卿もさすがに驚いた顔で、

「ほぉ、わしのファンとは嬉しいのう。どれ、これでいいのか。サインはどこに書こうかのう」
「あ、サインは要りません」
「そ、そうか。変わったファンじゃ」

 それを見てまたしてもクマチャンは気になってしまう。

「何でじいさんのクローンも作るの?」
「ん? まあ後で分かりますよ」
「ちょ、言えよ! 隠す意味あんの!?」

 クローン作りのため鼎もそそくさと去り、後には弥涼 総司(いすず・そうじ)が一人残って、ダイソウ達の前に立っている。
 彼はフラワシで持ち込んだ包みをダイソウに渡す。

「まずは差し入れだぜ。暇つぶしに使いな」
「これは……ラジカセにコーラに、少年ジョンプ……」
「コーラを飲むときは、缶底にペンを刺してタブを引く。その後ペンを抜いて一気飲みだ。これは絶対だぜ」

 総司は何故かコーラの飲み方を指定して、直後ビシイッとダイソウを指さす。

「ダイソウさんよぉ、このチャンスを待ってたぜ……これだけは言っておかなきゃ気が済まねえ」

 総司は何やら不穏な雰囲気を出して目を閉じる。
 そして目を開き、

「吐き気をもよおす変態とはッ! 男同士でちちくりあってるホモ野郎や、自分のことを可愛いと思ってんのか知らねーが、男の娘とかいう言葉を盾に、女装を正当化してるヤツの事だ……! 男が女の恰好を!! てめーだけの趣味でッ!」
「……う、うむ……」

 変態部隊隊長としての主張なのだろうか。総司は個人的な気持ちをダイソウにぶつける。
 確かにダークサイズには『男の娘』たちが数人いる。
 ただ、それは個人の問題なのでダイソウには何も言えない。
 それでも、

『この弥涼総司には正しいと信じる変態がある』

 ということなのだろう。ダイソウは意見として受け取っておくことにした。
 総司は、さらに一つ提案とばかりに、

「つーことでよ、浮遊要塞ゲットしたら、滅ぼしちゃわない? 薔薇学」
「薔薇の学舎なのか? 今の話では百合園を恨んでいるように聞こえるが……」
「ま、いいや。とにかく考えといてくれよなー」

 と、総司は言うだけ言ってラルクを追って去っていく。
 彼の背中を見ながら、超人ハッチャンとクマチャンはこう叫ぶしかなかった。

「貴様ッ! 新手の冷やかしかァーッ!!」