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手を繋いで歩こう

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第29章 愛されるよりも

 鳳明と別れた後、フリューネは街外れでレン・オズワルド(れん・おずわるど)と合流する。
 1月前と同じように、何気ない話をしながら、レストランで夕食をとって。
 同僚や親しい友人と同じように他愛ないことで笑いあったり。
 その他に、少し真面目に情勢に関しての話をしたりもした。
 フリューネの口から出る真面目な話は、全てカナンのことだった。
 食事を終えた後、レンはフリューネに家まで送ると申し出る。
「子供じゃないんだから、大丈夫よ」
 くすりと笑みを浮かべ、軽快な声でフリューネはそう答えた。
「いや、俺もフリューネの故郷に用があってな」
 レンの言葉に、フリューネは怪訝そうに眉を寄せた。
「ん? そっちに戻る予定はないんだけど」
「いいだろ、一晩くらい。……一緒に泊るとは言わないぞ」
「ふふ、まあいいわ。付き合ってあげる」
 フリューネの言葉に、レンも軽く笑みを浮かべて、ペガサスを繋いである場所まで一緒に歩いた。
 レンは前もって彼女の故郷の町へと手紙を出してある。
 故郷の人々は、彼女を盛大に歓迎してくれるだろう。
 その盛大な出迎えに、彼女が喜ぶ姿が――彼女の喜ぶ姿を見てみたかった。

「ねえ……レン」
 ペガサスに乗って、空を飛びながら。
 フリューネがレンに話しかけた。
 彼女の声は小さくて、飛びながらではほとんど聞き取れない。
 レンは出来るだけ彼女の傍に近づいて、耳を傾ける。
「私は今、カナンのことで頭がいっぱいなの。でも、カナンに私の空がなくなったら……次の空を見つけて、私は駆けるのかもしれない」
「それが、何か問題か?」
 迷いがあるようなフリューネに、レンが語りかける。
「戦えない誰かの為に、剣を振るう。それ自体は今も昔も変わらない。これから先も変わらないかもしれない。しかし、その歩いた後に、道は出来、その背を支える仲間が沢山出来た。……そうだろ?」
 それが、カナン解放に挑む彼女の支えになると、レンは信じていた。
 増えていく仲間の存在が、彼女の更なる活力となり、彼女は前へ前へと進むだろう。
 束縛をするつもりはない。
 彼女の歩みの邪魔になるつもりはない。
 レンは愛されるより、愛したいと願う。
「レン……」
 真剣な顔でフリューネはレンを見ていた。
「どうした?」
「あのね」
 フリューネは大きく息を吸い込んで、言う。
「風の音で、話よく聞こえなかった!」
 ガクッとレンの体から力が抜ける。
 直後に2人とも明るい笑みを浮かべる。
「でも、ありがとう。うん、ありがとー!」
 フリューネは風に乗って駆ける。本当に聞こえてなかったのだろうか。
 レンも彼女と共に、風に乗る。――穏やかな笑みをたたえて。
 故郷の人々の歓迎を受けて、照れくさそうに喜ぶ彼女の姿を思い浮かべながら。