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種もみ剣士最強伝説!

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種もみ剣士最強伝説!
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プリーストvsディーヴァ


 リング傍に小型飛空艇アルバトロスを停める許可を得た須藤 雷華(すとう・らいか)は、そこのあいたスペースに持ってきたアンプ等を置いた。
 今回組んで戦うこととなった師王 アスカ(しおう・あすか)と、対戦相手のリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)に「待たせてごめんね」と軽く頭を下げる。
 アスカもリリィもまったく気にしていない。
 しかし、和やかな雰囲気も試合開始と共に掻き消え、緊迫したものへと変わる。
 二人のディーヴァを前にリリィはどう攻めるか迷っていた。
 ディーヴァは上級クラスだが、同じ上級クラスのフェイタルリーパーやヘクススリンガーと比較して、攻撃力に優れているのだろうか?
 吉永竜司のような例は稀だと思いたい。
 とすれば、何となく補助的なクラスに思える……。
 とか考えているうちにアスカが雷華に激励を送っていた。
 少し緊張気味だった雷華は、その緊張感を良い良い方向へ持っていくことができたようだ。肩の力が抜けたのが見て取れる。
 アスカの気持ちに応えようと雷華はエレキギターを手に取った。
「雷華、合わせよう!」
 ベースを見せたアスカに、雷華は笑顔で頷くとピックをあてる。
 旋律に乗り、エレキギターからの雷撃がリリィを襲う。
 それに合わせてアスカのベースからは氷の礫が飛んできた。
 電撃に体を打たれ、氷の礫の追撃を受けたリリィは、しびれる体を抱えてうずくまった。
 気が遠くなりそうになったがどうにかこらえ、グレーターヒールを自身に施す。
(考えている場合ではありませんでしたわ。相手は上級クラス……上級クラスなのですっ)
 強力な回復魔法を使っている様子に、アスカは完全に回復する前にとどめを刺すべきと判断した。
 膝を着くとハーモニウムを乗せ、悲しみの歌を歌い始める。
「ああ……そんな……っ」
 突然、わけのわからない悲しみに胸を締め付けられるリリィ。
「そんな、そんな……。せめて、このバニッシュで悲しい罪の浄化を!」
「そうくるのぉ!?」
 リリィのまさかの行動に思わずアスカが声を上げた直後、雷華と二人、光の奔流に飲み込まれた。
「うぅ……」
 途切れそうな意識で雷華は激情のスコアを広げ、決して手放さなかったエレキギターをピックで弾く。
 弱々しかった旋律に少しずつ躍動感が加わっていった。
 すると、それに力をもらったかのようにアスカが立ち上がり、ベースを掴むと気迫のこもった眼差しをリリィに向ける。
「みすみちゃんが待ってるのに、負けられないわ〜」
「それはわたくしも同じですわ」
 リリィは二度目のバニッシュの態勢に入る。
 そうはさせまいと、雷華の奏でるメロディーに今度はアスカが合わせた。
 飛んでくる凶暴な氷の塊を、リリィはフェイスフルメイスで弾く。
 闘志を燃やしたアスカはいっそう激しい想いをベースに叩きつけた。
 激情のスコアから通常のメロディーに戻った雷華のエレキギターが飛ばした雷撃に、とうとうリリィの手からメイスが飛ばされてしまった。
「あっ」
 と、小さく声をあげた後、リリィは氷の礫を受け昏倒した。
「勝負あり!」
 菊の判定と共に、アスカと雷華は静かに腕をおろした。


モヒカン戦士vsパラディン


 自称モヒカン戦士ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)のギラギラした視線に、パラディンのグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)は対抗意識を燃やした。
「二戦目も女の子とはついてるな! さっきは危うく毒殺されるとこだったが、今度はそうはいかねぇぜ」
「乙女にみだりに触れようなど……許されることじゃないわ! 反省しなさい!」
「がはははは! 聞こえねぇなぁ!」
 高笑いするゲブーをグリムゲーテはキッと睨みつける。
 赤羽 美央(あかばね・みお)がグリムゲーテの怒りを静めるように肩に手を置いた。
「まともに相手をする必要はないでしょう。落ち着いていけば確実に勝てます」
 淡々とした口調のためか、グリムゲーテは一度大きく息を吐き出して気持ちを静めることができた。
「それじゃ……いくぜっ」
 ニヤリとしたゲブーが地を蹴る。軽く蹴ったように見えて意外とスピードがあった。
 美央の指示で二人はファランクスの構えをみせる。
 二人が並べる盾の隙間をこじ開けようとゲブーが手を伸ばした時、その手を串刺しにするかの勢いで美央が飛竜の槍を突き出した。
「あぶねっ」
 慌てて手を引っ込めるゲブーに、今度はグリムゲーテが眉間を狙ってソードブレイカーを繰り出す。
 亀のように首を引っ込めてかわしたが、剣は彼のトレードマークのピンクのモヒカンを貫いた。
 幾本かの髪が宙に舞う。
 気づいたゲブーは「あーっ!」と叫び、自慢のモヒカンの無事を確認する。
「俺様のモヒカンが……!」
 見た目は何も変わっていないのだが、ゲブーにとっては大事件だったようだ。
「オオオオオッ……【喪悲漢】!」
 彼が天に向かって咆えた後、モヒカンが硬度を増した……ように見えた。
 ゲブーが言うには、モヒカン戦士スキルの一つである【喪悲漢】とは、モヒカンにまつわる悲しみを背負ってモヒカンが決して折れなくなるというものらしい。
「フッ、これで俺様のモヒカンは無敵だ。……ところでてめぇ」
 ゲブーがグリムゲーテを見据える。
「てめぇのその剣。女王のソードブレイカーだろ。てめぇはパラディンじゃなかったのか。そのピアスもパラディンとは何の関係もねぇじゃねえか。だいたい、ソードブレイカーは盾代わりに使って、ついでに敵の剣を折ってやろうって武器だろ」
「……何が言いたいのよ」
「クラス最強決定戦でクラスに関係ない装備をしてくるたぁ、何考えてんだ」
 わけのわからない言いがかりにグリムゲーテは唖然とする。
 ゲブーは調子に乗って続けた。
「罰として……」
 グリムゲーテの気が削がれた隙をつき、ゲブーがヴァーチャーシールドを跳ね除けて彼女の懐に飛び込む。
 そして、胸元にヌッと伸びる手。
 あっ、と身を引こうと思った時はすでに遅く、ゲブーの手がグリムゲーテの胸にタッチしていた。
 ──グリムゲーテの、硬い鎧の上に。
 しかし彼女にとっては充分とんでもないことだった。
 天誅ーッ!
 グリムゲーテと美央の怒声が重なる。
 グリムゲーテのライトブリンガー、美央のランスバレストの連携攻撃で、ゲブーはさんざんに打ちのめされたのだった。


治療に手抜きなし


 ほとんどルール無用のクラス最強決定戦において、休みなしに活躍していたのは選手だけではない。
 試合に勝っても負けてもケガをする彼らを、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は分け隔てなく手当てしていた。
「先ほどの試合では片方のみ重傷でしたね。どこに運ばれたのでしょうか」
「まあ見た目はな。パラディン達もそうとうの衝撃を受けたと思うぞ」
 姉と慕うエクスの言葉に、睡蓮は小さく唸って考え込む。
 そして、同意するように大きく頷いた。
「そうですね。……でも、怪我人は怪我人、ですよね?」
「その通りだ。お、あそこだ」
 二人がゲブーのもとに駆け寄ると、傍では彼のパートナーのホー・アー(ほー・あー)が複雑な目で見つめていた。
 その表情からは、何を考えているのかわからない。
「少し邪魔するぞ」
 エクスが断りを入れてゲブーの傍に膝を着き、怪我の具合を一つ一つ診ていく。
「ふむ。見た目の酷さのわりには軽傷だったな」
 そう言い、エクスは状態の悪いところからヒールをかけていった。
 傷口がふさがれていくにつれ体も楽になったのか、やがてゲブーは意識を取り戻した。
 開いた瞳に飛び込んできたのは銀の髪を日の光に透かした──。
「いけませんよ」
 エクスの胸に伸ばしかけた手が、突然あらぬ方向へ曲げられる。
 姉の危機に敏感に気づいた睡蓮が、サイコキネシスでゲブーの手首を本来なら曲がらないはずの方向へ曲げたのだった。
 睡蓮は花がほころぶような微笑みで続ける。
「おいたが過ぎるようでしたら、次はズドンですからね」
 言って、妖精の弓を心臓の真上に押し当てる。こんなゼロ距離で矢を撃たれたらさすがに死んでしまう。
 ゲブーは石のように身を固くしておとなしく治療を受けるしかなかった。
 と、そこに弁当売りスタイルのガガ・ギギ(がが・ぎぎ)が通りかかり、働きづめのエクスと睡蓮に休憩を勧めた。
「ちょうど昼だし、試合も昼食後だ。選手とスタッフはタダだよ」
 ほら、と二人の分とゲブーにホーの分を箱から取り出す。
 手軽でシンプルな、おにぎりと漬物のセットだ。
 受け取った四人にガガは軽くリングを指して言った。
「もう少ししたら卑弥呼が歌うから、良かったら聞いてやってくれ」
「わかった。弁当はありがたくいただくよ」
 エクスの礼を受け、ガガは今度は観客席へと向かう。
「弁当はどうかね〜。鮭おにぎりと漬物セットだよ〜」
 ガガの掛け声にあちこちから手があがり、呼び止める声が多数投げられた。
 これの売り上げは、四十八星華劇場建設のための資金に回すつもりだ。