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種もみ剣士最強伝説!

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種もみ剣士最強伝説!
種もみ剣士最強伝説! 種もみ剣士最強伝説!

リアクション



ディーヴァvs魔法少女


 この二組の試合は、観客を浮き立たせた。
 どちらも夢を運ぶクラスだ。
 いろいろと期待してしまうのは無理もない。
 彼女達がリングへ上がると、まるでアイドルのコンサート会場のような盛り上がりに包まれた。
 その熱気に見事に応えたのは久世 沙幸(くぜ・さゆき)だ。
 彼女は試合開始直後、『変身』した。
「行くよーっ。へんしーん☆」
 沙幸がくるりとその場で軽やかに回ると、着ていた服がきらきらとした光の粒子に変わり、彼女の周囲を舞う。
 観客の──特に男達が大きくどよめき、もっとよく見ようと前列席に詰め寄る。
 こういう変身では、素っ裸になっても見えそうで見えないのがお約束だ。
 沙幸の変身も例にもれず、背伸びしても這いつくばっても、一番見たい部分は光の粒子がうまく隠して見えなかった。
 もっとも、それがいいのだと言う人もいるが。
 そして、光は足元から消えていき、代わりに鎧形態のウィンディ・ウィンディ(うぃんでぃ・うぃんでぃ)が装着された沙幸が姿を現した。
 ほぅ……と周囲からこぼれる吐息。
 基本デザインは和服だが、かなり改造されている。
 大胆に開いた胸元、袖から覗く白い腕、短めの裾からのびるすらりとした脚、細い足首。
 鮮やかに袖を振り観客へ向けてポーズを決める沙幸。
「【まじかるくのいち☆さゆきちゃん】参上だよっ!」
 わあっ、と主に男性客から拍手喝采が沸き起こる。
(も、もしかして成功……? ウィンディの言った通りにやって良かったみたい?)
 予想外の好感触に沙幸がホッとしていた頃、この変身を勧めたウィンディは……。
(この素肌の感触……最高じゃわい)
 沙幸のすべらかな肌にうっとりしていた。
 この試合、インパクトが大事だとウィンディは言ったのだ。
 そこで変身シーンを披露することになったのだが。
「ねぇ、何かとんでもないことが起こってたりしないよね?」
「気のせいじゃ。今のおぬしの可憐さに興奮しておるだけじゃ」
 実は一瞬とはいえ、すっぽんぽんになっている……とはあえて言わないウィンディだった。
 すっかり注目が魔法少女組に向いてしまっていることに、師王 アスカ(しおう・あすか)は危機感を覚えた。
「これは負けていられないねぇ。よ〜し!」
 アスカがこの試合のパートナーとも言える須藤 雷華(すとう・らいか)に目配せすると、彼女も頷きエレキギターを持ち直す。
 アスカのベースに合わせて二人で『激励』を演奏し、雰囲気に飲まれかけていた気持ちを立て直した。
 前回と同様に小型飛空艇アルバトロスに積んだアンプにより、演奏は観客達にも充分に聞こえた。中にはノリノリで踊りだす人もいる。
 そんな中、魔法少女達はふわりと浮いた。
「私達が力を合わせれば、どんな相手にも勝てますっ」
 北郷 鬱姫(きたごう・うつき)が力のこもった声で言い、まじかる☆ますけっとを振ると、空の一点が輝きリングに何かが降ってくる。
 アスカと雷華はそれらを避け、あるいはベース演奏による氷の礫で迎え撃ち、そのまま反撃に出た。
 ベースからハーモニウムに持ち替えたアスカが、落ち着いた静謐な雰囲気で歌うのは『悲しみの歌』。
 魔法少女達の胸から試合への高揚感が薄れていく。
 もっとも影響を受けてしまったのは鬱姫だった。
 空中でぐらりと態勢を崩した彼女は、切ない表情でため息をつき──ハッと我に返る。
「な、何を悲しむ必要があるのです? こんなに心強い仲間がいて、私は一人ぼっちじゃないんですよっ」
 パシパシと自らの頬を叩いて沈みそうになる気持ちを立て直す鬱姫の隣に、沙幸が並んだ。
「その通りだよ。私がいるんだもん、元気出して」
 微笑む彼女の手には刀があった。
 そして、ディーヴァ達へと急降下する。
「詩穂も行くよっ」
 こちらは本気狩る(マジカル)☆ステッキを握った騎沙良 詩穂(きさら・しほ)
 真っ直ぐに向かってくる沙幸と詩穂に、雷華のエレキギターの雷が降る。
 アスカも再びベースに切り替え、雷華の旋律に合わせた。
 避け損ねた雷撃や氷をぶつけられながらも沙幸と詩穂は、二人のディーヴァの近くに降り立つ。
 狙い撃ちされないよう、間髪入れずに低く飛んだ沙幸の刀を、宙に走った紫電が弾いた。
 尻もちをついた沙幸から場外にしてしまおうと、アスカが氷の壁で押し出そうとしたが、それは鬱姫のシューティングスター☆彡に阻まれてしまった。
「う〜ん、悲しみ度が足りなかったかなぁ」
「させないよっ」
 スッと詩穂がアスカの懐に滑り込み、演奏させないように古の杖術で攻め込む。
 雷華が助けに入ろうとしたが、そちらには沙幸が飛び込んでいた。
 彼女は火の玉を飛ばして牽制した。
 ガツンッと固そうな音と同時にアスカの悲鳴が小さくあがり、とうとう場外へ落ちてしまった。
 そして、それに気を取られた雷華も、火術を避け続けているうちに縁まで追い詰められていたことに気づけず、足を踏み外す。
「いたた……魔法少女が大事な変身道具で殴るかなぁ」
 頭のタンコブを気にするアスカへ、詩穂はペロッと舌を出す。
「派手に振り回しても曲がったりしないように、頑丈にできてるんだ☆」
 たぶん、と小声で付け加えたことに、アスカも雷華も思わず吹き出した。


パラディンvsグラップラー


「お前みたいなお嬢様がオレに勝てると思ってるのかよ。……なぁ、悪いことは言わないからやめとけよ。怪我するぞ」
「いつまでも守られてばっかりじゃいられないの。本気できなさい大助!」
 四谷 大助(しや・だいすけ)グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)のやり取りから、この試合は始まった。
 二人はパートナー契約を結んだ者同士だ。
 やる気満々のグリムゲーテに対し、いまいち気が乗らない大助の肩をラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が叩く。
「良い目をしたお嬢さんじゃねえか。真面目に相手しないと無礼だぜ」
「そうか……そうだな」
 大助は気持ちを切り替えた。
 そして始まった勝負に、大助達はかなりてこずることになった。
 グリムゲーテと赤羽 美央(あかばね・みお)はとにかく防御が堅かった。うまく連携をとっており、隙らしい隙がない。
 また、どうにか盾の壁を突破してもすぐに回復魔法で傷を癒されてしまうのだ。
 たった今も切り込んで行ったラルクの放った鳳凰の拳を受け止めたダメージを、グリムゲーテがきれいに治してしまった。
 そして危うくその拳を盾で止めた美央から、急所を狙った反撃をくらうところだった。
「個々で仕掛けてはきりがないですね。畳み掛けましょう」
 リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)の言うことはもっともだった。
 美央とグリムゲーテも攻撃の姿勢をみせる。
 人数はグラップラー組が倍ほどだが、まったくそれを感じさせないパラディン組の、まずはその鉄壁の防御から突き崩そうと、先に動いたのはエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)だった。
 失敗したらカウンター食らってノックアウトだが、持久戦に持ち込まれたら不利と考え、神速で急接近する。
 エヴァルトは拳や蹴りを繰り出すのではなく、強烈な闘気を叩きつけた。
 もし、観客の誰かがこれを受けたら失神するだろう。
 さすがに美央はそのようなことはないが、一瞬息苦しさは覚えた。
 しかし、キッとエヴァルトを睨みつけると、彼の闘気の鋭さに負けない威力の突きを繰り出す。
 エヴァルトは後ろに飛ばされ、美央は膝が崩れそうになった。
 すぐに起き上がったエヴァルトは、続けてグリムゲーテにも仕掛けようとして……何故か思うように技を使えずにつまずいた。
「黒印の妙技、その身に受けなさい!」
 振り切ったグリムゲーテのソードブレイカーからライトブリンガーが放たれる。
 それは美央に技を封じられたエヴァルトへ向けたものだったが、何故か大助を襲った。その後の光輝魔法も。
「……偶然よ」
 そう言うグリムゲーテだが、二度目のライトブリンガーもまるで狙ったように大助を襲った。
「よくわからんが避雷針だな。頼んだぜ!」
 その間にラルクとリュースが駆ける。
「その分厚い装甲ごとふっ飛ばしてやるぜ!」
 何とか態勢を整えた美央に、グリムゲーテがリカバリをかけるより早く、ラルクの拳が美央を場外へ突き飛ばした。
 アッと思った時にはグリムゲーテも、リュースによって同様に。
「ああ……負けてしまいましたか……」
 打ち付けた箇所をさすりつつ、残念そうにこぼしながら美央が身を起こした時、観客席で騒ぎが起こった。
 見れば、みすみが大勢のモヒカンから種もみじいさんを守ろうとしている。
 どう見ても無茶だ。みすみの兜の種もみも奪われるだろう。
 案の定、みすみはあっという間に倒され、モヒカンの手が頭の種もみにのびた。
 やめてくれ、と種もみじいさんが自らの種もみを差し出し、みすみの分は見逃してくれるよう懇願するが、そんなことを聞き入れるモヒカンではなく、じいさんもあっさり足蹴にされてしまった。
「……下衆め」
 吐き出し、美央が駆けていくのと、見かねたエヴァルトが走るのはほぼ同時だった。
 美央が真っ先に槍で薙ぎ払ったのは、種もみじいさんを踏みつけているモヒカンだ。
「あまり醜いことはするものではありませんよ……」
 すぐ後に、エヴァルトがみすみの種もみを奪おうとしていたモヒカンを殴り飛ばす。
「何だてめぇは!? ……おい、この女ふらついてやるぜ。てめぇの心配もせずに人助けかァ? ギャハハハハ! 一緒にくたばれや!」
「あまり……なめないでもらいたいものですね」
 槍を構える美央の横にエヴァルトも並ぶ。
 巻き込まれてはたまらない、と観客が避難した直後、乱闘が始まった。
 結果としては美央とエヴァルトの勝利で、モヒカン達は口汚く罵声を吐きながら逃げていったわけだが、二人が割り込む前にモヒカンにさんざんに打たれていた種もみじいさん達は、すでに起き上がる気力もないようだった。
「じいさん達、こんなことでくたばっちゃダメだよ……誰が種もみを守るの……?」
 一生懸命励ますみすみも、殴られた頬は赤く腫れているし、頭の種もみも萎れている。
 みすみは一人一人手を握り締めていくが、種もみじいさんからの返事は頼りない呻き声だけだった。
「私が助けるから、私の分も種もみを──」
「その必要はありません」
 種もみじいさん達のために、自らを肥やしにしようとしたみすみを美央が止める。
 美央はこれまで種もみ剣士という存在を認めていなかった。
 大きな理由は、種もみ剣士の『苗床』とパラディンの『サクリファイス』が酷似しているところにある。
 パラディンというクラスに誇りを持っている美央は、下級クラスとそっくりなスキルを覚えることに納得ができなかった。
 だから、決勝戦で種もみ剣士とあたる時は、上級クラスの者との違いを見せ付けてやろうくらいには思っていた。
 しかし、グリムゲーテと共に他のクラスの者達と戦い、また今、みすみの行動を見て考えを改めたのだ。
 種もみ剣士もパラディンも、自分を犠牲にして他者を助けるという、同じ献身の心を持つ仲間だったことに気づいた。
 そこに、クラスの上級下級はない。
 美央はみすみの隣に膝を着くと、その手をそっと握り締めた。
「聖騎士じゃないあなたなんかに言ってもわからないでしょうけど……とある漫画で、聖騎士はある人を息子と知らなくても自分の命を犠牲にして救ってました。他の聖騎士も、とある人のために力を与えて死んでいったといいます。私も、誇り高き聖騎士の女です。その精神を受け継いでいるんです」
 美央とみすみの視線が交じり合う。
 この時、美央は初めてみすみをきちんと正面から見つめた。
「私だって、何かしなくっちゃあ……カッコ悪くてあの世にいけません」
 少し照れくさそうに微笑む美央。
 みすみと繋いだ手が淡く輝きを帯びる。
「私が最後にみせるのは代々受け継いだ未来に託すパラディン魂です! 献身の魂です! 種もみ剣士ー! 受け取ってくれーッ!」
 まるで美央の魂の輝きそのもののような清廉な光が彼女達を包み込んだ。
 そして、光は急速に静まる。
 後には、傷がすべて癒されたみすみと種もみじいさん達。
 美央は気を失ったのかぐったりしている。
「しょうがない人だな」
 エヴァルトは苦笑すると美央を抱き上げ、駆けつけた救護班に託した。
 みすみは運ばれていく美央に大きく「ありがとう! あなたの死は忘れないよ!」と叫んだ。
 死んでません、という救護班の声は聞かなかったことにした。


侍vsネクロマンサー


 ようやく訪れた二試合目に、リングへ上がった白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は歓声をあげる観客に舌打ちし、審判を務める菊に不愉快げに鼻を鳴らした。
 彼にとって、強者との戦いを見世物にされたり、そこにルールが伴うことは好ましいことではなかった。
 ルールがある闘争なんざ、お遊びのダンスと同じ──。
 それが竜造の意見だ。
 しかし、この場に立った以上はそれに逆らう気はない。
 もっとも気になる千種みすみと戦うためにも。
「よそ見ですか? 余裕ですねぇ」
 からかうようなエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)の声に、竜造はゆっくりと向き直り獰猛な笑みをみせた。
「そいつは失礼したな。てめぇらを無視してたわけじゃねえよ……ネクロマンサーか。楽しめそうじゃねえか」
「それはどうも」
 挑発的な笑みを戦わせる竜造とエッツェルの様子を、やや離れたところから緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)は観察するように見ていた。
 菊が「始め!」と告げると、遙遠は四体のアンデットを呼び、自身は禍々しい翼を羽ばたかせて宙へ飛んだ。
「そんな奴らじゃ俺は倒せねぇぜ!」
 各二体のレイスとスケルトンが遙遠の指示に従い、竜造に迫る。
 刀で迎え撃つ彼に、遙遠はさらにアボミネーションを仕掛けた。
 心にズシリと底冷えのするものを覚えた竜造だが、持ち前の気迫で跳ね飛ばしアンデットを斬り伏せる。
 一体、二体と倒していく最中、突如鋭い突きが竜造の目玉を貫かんと襲った。
 とっさにかわしたが、まぶたを切られた。
 血が入らないように目を閉じた竜造が、この突きの主のエッツェルを捉える。
 リジェネーションでじょじょに傷をふさぎながら、竜造は楽しそうに刀を構え直した。
「複数人相手ってのは……やりがいがあると思わねぇか?」
「さぁ……私は楽しめれば問題はありませんが」
「それには同意するぜ」
 上空の遙遠にも気を配りつつ、竜造はエッツェルに斬りかかった。
 竜造へ攻撃の隙をうかがっている遙遠は、二人の攻防に苦笑がもれそうになっていた。
 このトーナメントに参加をした者達の動機はさまざまだが、遙遠は暇つぶしとして楽しむためにやって来た。
 やるからには手抜きなどしないが、優勝に強い執着があるわけでもなく。
 防御を放棄したエッツェルの猛攻に感心半分呆れ半分といったところか。
「痛みを知らぬ我が躯とリジェネーションに対し、龍鱗化とリジェネーションでしょうか」
 リジェネーションにも限度がある。
 遙遠はアンデットに竜造の足を狙わせると、黒翼を羽ばたかせ罪と死を放った。
 ハッと上空に意識のそれた竜造の隙をエッツェルが見逃すはずもなく、血まみれの剣を振りかざす。
「なめるな!」
 吼えた竜造は足にしがみつくスケルトンを力任せに引き離すと、エッツェルの剣への盾にした。
 骨だけに盾としては頼りないが、何もないよりはマシだと判断した。
 そして、羽の刃と闇属性魔法へは衝撃に身構える程度にとどめ、たとえこれを食らっても次の攻撃に繋げようと、遙遠へおぞましいものを見せるという幻覚術を仕掛ける。
 スケルトンは粉砕され、遙遠は眩暈を起こしたようにゆっくりと地上に降りてきた。
 代わりに竜造は刀で弾ききれなかった黒い羽と魔法により、気を失いかける。
 しかし目だけは闘争心を失わず、二撃目──とどめとなったエッツェルの剣を最後まで睨みつけていた。

 ようやく幻覚から解放された遙遠が見たのは、救護班の治療を受ける竜造とそれを断るエッツェルの姿だった。
 エッツェルは血の跡を残しながらふらふらとどこかへ行ってしまった。