天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

種もみ剣士最強伝説!

リアクション公開中!

種もみ剣士最強伝説!
種もみ剣士最強伝説! 種もみ剣士最強伝説!

リアクション



決勝戦 種もみ剣士vsグラップラー


 ゴスロリ服でかわいらしさと神秘的な雰囲気を出して観客の目を楽しませていた親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)は、この決勝戦ではライダースジャケットで決めてきた。
 シャープでワイルドになった卑弥呼に、観客の一部から別人説があがったとか。
 その卑弥呼に、審判の追加が紹介された。
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)だ。
 これまでにない大人数での戦いになるためである。

「みんな、ここまできたらやるしかないよっ。最後の試合、全力でがんばろう!」
 まるで今まで沢山の試合を勝ち抜いてきたような言い方をする千種 みすみ(ちだね・みすみ)だが、集まった種もみ剣士達もそれにノッて盛り上がる。
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)がその様子に苦笑した。
「では、クラス対抗トーナメント決勝戦、始めます!」
 弁天屋 菊(べんてんや・きく)の声に、選手達の空気が変わる。
「どちらも悔いのないように、正々堂々と! ──始め!」
 そして、菊とヒロユキはリングに残り、ダリルは撮影も兼ねて上空から試合を見守ることになった。

 種もみ剣士達は周りを救世主で固めていた。
 何人いるのか……いっぱいだ。
 それを楽しむように薄く笑い、前に出るエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)。本人にそのつもりはないが、もとの顔立ちのせいか凶悪な笑みに見えてしまう。
「種もみ剣士か……種もみを奪われ続けてたまりにたまった恨みつらみの力、うまく使えばネクロマンサー並の闇黒の力を引き出せよう。──せっかくの対戦だ。真の力を解放した種もみ剣士と闘いたいものだ!」
 期待の目をみすみ達に向け、疾風の覇気を構えるエヴァルトに、救世主達が種もみ剣士を守るように身構える。
 なるほど、と頷くリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)
 と、エヴァルトとリュースの隙間、足元のほうから黒い塊が風のように飛び出した。
 それは救世主がもっとも分厚く集まっている箇所に突進したかと思うと、いきなり黒い爆発を起こした。
 それが等活地獄だとわかったのは、爆発の中心に四谷 大助(しや・だいすけ)の姿を確認した時だった。
 混乱する救世主達をそのままに、種もみ剣士達の真ん中を突っ切った大助は、ラルク達へ声を張り上げた。
「みんな、今だ!」
 言われるよりも先にラルクは駆け出していた。
 追ってエヴァルトとリュースも、種もみ剣士が態勢を戻す前に畳み込んでしまおうと突撃する。
「みんな、大丈夫だから落ち着いて!」
 混乱の中、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の声が響き、命のうねりで吹っ飛ばされた救世主の傷を癒していく。
 その最中のルカルカへ、大助が拳を向けた。
「やらせはせん!」
 踏み出した大助の足元へ、夏侯 淵(かこう・えん)が放った矢が突き刺さる。
 とっさに足を引いた大助と夏侯淵の視線が交わる。
 とたん、闘争心を削ぐような歓声が夏侯淵の傍から上がった。
 何かと思えば、彼が連れてきたHPライナーの二人だ。
 彼女達は早口で何か盛り上がっている様子で、時折『誘い受け』だの『淵ジェル』だの妙な言葉が漏れ聞こえてくる。
 胡乱な目で二人を見る大助に、夏侯淵はごまかすように咳払いをした。
「とにかく、ルカの邪魔はさせんぞ!」
「ああそう」
 何とか気を取り直して構えた夏侯淵と大助だったが。
 居心地の悪い間の後、夏侯淵がボソッと疑問を口にした。
「ときに大助殿。『淵ジェル』とは何だ?」
「知るかァ!」
 大助は神速で夏侯淵に迫り、彼の弓を跳ね上げた。
 グラップラー達に挟撃されてしまった種もみ剣士達。
 みんなが落ち着きを取り戻すまではと、仕込み竹箒【朝霧】を振るう朝霧 垂(あさぎり・しづり)
 ラルクの得意の体術による猛攻を凌ぐため、持てる限りの技を惜しみなく発揮する。
 超感覚により露わになった黒豹の尻尾も、時にはラルクの目を掠めるように走らせた。
 繰り出される拳を【朝霧】でいなし、隙を見ては疾風突きを仕掛ける。
 相手も歴戦の強者であるため、なかなか決定打を出せない。
 ラルクもそのことに少し焦れたのか、垂の防御ごとぶち破るように鳳凰の拳で挑んできた。
 炎を纏った拳を【朝霧】を盾にかわすが、拳の重さに剣は手から弾かれた。
 が、これは半ば予想していたことだ。
 垂は突き出された腕を掻い潜り深く踏み込むと、隠し持っていたもう一本の仕込み竹箒【無光】を振り上げた。
「!」
 ラルクはとっさに身をそらすが、見えない刃は薄く胸元を切り裂いていく。
 走る痛みに顔を歪めながらもラルクは垂の腕を掴み、投げ飛ばした。
 駆けつけようとするルカルカの前に、エヴァルトが立ちふさがる。
「たれちゃん!」
「大丈夫だ、俺にはこれがあるっ」
 垂が懐から引っ張り出したのは、光る種もみ。
 淡く輝くそれを、垂はむしゃむしゃと食べ始めた。
「お、おいっ。そんなもんナマで食ったら腹壊すぞ」
 焦るラルクに垂は不敵に笑う。
 と、彼女の全身に訴えていた痛みが引いていった。
 勢い良く立ち上がった垂は、危なかったと呟く。
「あと少し食べるのが遅かったらギブアップだったな」
「んなワケねぇだろ、光る種もみにそんな即効性のものはねえよ!」
「フフ……」
 妖しく微笑む垂だが、ラルクの言うことは真実で、彼女は単に命の息吹を使っただけだった。
 しかし、今の垂は種もみ剣士。気分を高揚させるにはこれで充分だった。
「ああ、力が……!」
 世に言う『種もみ(シード)覚醒』とはこのことなのだろう、と垂は思い込むこにした。
 恍惚とした表情の垂に、実はさっそく腹が痛くなってきたのかとラルクは心配したとか。
 それはともかく、垂は【無光】一本でラルクに挑んだ。
 一方、すぐにでも垂の援護に入りたいルカルカは、そのためにはまずエヴァルトを退けなければならなかった。
 しかし、彼の防御は堅く、また攻撃も疾風のようで、なかなか決着をつけられない。
 そこでルカルカは武官とケンタウロスの力を借りることにした。
 エヴァルトの両サイドから二人が斬りかからせ、自分は二つの戦輪をサイコキネシスで操る。
 エヴァルトは表情を厳しくさせると、迎え撃つために身構えるどころか逆にルカルカに向かって突進を始めた。
 武官とケンタウロスはエヴァルトに剣を向けることでルカルカまでも傷つけてしまうことを躊躇い、ルカルカは戦輪の飛ばし所に迷う。
 エヴァルトはその躊躇を見逃さなかった。
 ルカルカ、夏侯淵、垂の三人が沈められるのかと観客が息を飲んだ時、ヒュッと空気が切れるような音があった。
 同時に、やたらドスの効いた怒号。
「おらァ! ブチコンダル!」
 その凄まじさに振り向くと、景色がわずかに霞んだ部分が。
 真空波だ、と気づいたラルクとエヴァルトは、攻撃から回避へ素早く切り替えた。
 放ったのは伏見 明子(ふしみ・めいこ)で、ブチコンダルとは言ったが聖杭ブチコンダルをぶち込んだわけではない。
 真空波が掠ったリングは、鋭い爪で裂かれたような跡が残った。
 グラップラー二人だけでなく、ルカルカ達も巻き込んで真空波は観客席をも襲った。
 避け切れなかった分、ぱっくりと裂けた傷口に眉をしかめるラルクとエヴァルトへ、明子は仕留められなかったことに舌打ちすると、反撃される前に救世主達の中へ身を隠した。
 ルカルカ達に怪我はなく、どさくさに紛れてグラップラー達と距離をあけることもできた。
 ラルク達もいったん態勢を整えようかと思った時、どこにその身を隠していたのかカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が蒼き水晶の杖を二人に向けていた。
 体の芯を縛られるような気味の悪い感覚に、ラルクとエヴァルトはしばらくは技が使えそうにないことを感じた。使おうとしても集中できないのだ。
 追撃のために振り上げた腕は、しかしリュースに掴まれてしまった。
「いけませんよ、喧嘩じゃないんですから……ね」
 カルキノスの手からもぎ取ったのは、石。
 二人の視線が何となくヒロユキのほうへ向くが、彼は軽く肩を竦めるだけだった。
 この試合に細かいルールはないからだ。
「仕方のない人です、ねっ」
 苦笑したリュースの鳳凰の拳で、カルキノスはエヴァルトを挟み撃ちにしていたルカルカのほうへ飛ばされた。
 衝突した二人はもみ合うようにリングを転がる。
「ルカルカ!」
「カルキノス!」
 垂と夏侯淵の声が重なる。
「よそ見はいけないよっ」
 大助の等活地獄が二人に重い衝撃を与えるが、その直後、力の抜けたところを突いて明子の真空波が彼に直撃した。
 二撃目を技の封じられたエヴァルトへ、と方向転換したが、それはラルクのタックルに阻まれた。
 リングに激突しそうになった明子をルカルカの武官が支える。
 それらの様子に、月来 香(げつらい・かおり)は冷めた気持ちの中にどうしようもなく熱いものが生まれたのを自覚した。
 正確にはそれは、パートナーの赤羽 美央(あかばね・みお)がみすみへの態度を変化させた時からもやもやとあった。
「対抗戦はめんどくせーですし、うじゃうじゃといる救世主はむさくるしくてうぜー上に暑苦しいったらありゃしませんのに……」
 続きは口に出さず、代わりにサイコキネシスで種もみを飛ばした。
 小さな種もみはグラップラー達の目元に当たり、攻撃の手を止めさせる。
「淵ジェルさん、とっとと皆さんを助けなさいな」
 突き放すように言いながらも、香は栄光の杖を構え夏侯淵の準備が整うまでの盾になるように背にかばう。
 らしくない、と思いつつ。
「恩に着る」
 夏侯淵は短く礼を言うと、リタイア寸前の味方を助けるため、その身を犠牲にした。
 彼の苗床により復活した垂、ルカルカ、明子、カルキノスは、みすみの元へ駆けるグラップラーを追いかけた。