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種もみ剣士最強伝説!

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種もみ剣士最強伝説!
種もみ剣士最強伝説! 種もみ剣士最強伝説!

リアクション

 みすみを仲間のほうへ押しやり、ラルクと大助の前に進み出たロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)。周りには荒野でも助けてくれた救世主。
 ラルクと大助は足を止め、ラルクのほうは追ってくる種もみ剣士へと向き直る。
「剣士なのに剣は使わないのか?」
 槍を持つロザリンドをからかうように言う大助に、彼女は自信を持って答える。
「確かに私は種もみ剣士ではなく、その亜種、種もみ槍士と言うべきでしょう。ですが、ご存知ですか? 槍の先端は穂先と呼ばれます。種もみの前段階、収穫されるのを待っている穂で先なのです。つまり、槍使いは種もみとも相性が良いのですよ!」
「へぇ。思わず納得しそうな理屈だね。それじゃ、その穂先、収穫させてもらおうかな!」
 大助の姿が掻き消えた──かと思うと、瞬きの後にはロザリンドの正面に現れ炎を纏った拳を振り上げる。
 聖槍(?)ウチコミマスヨでそれをいなし、槍の柄を突きこむロザリンド。
 大助は反対の手で柄を防ぐと、体を反転させてロザリンドを突き飛ばした。
 転ぶことなく踏ん張り、すぐさま態勢を立て直した彼女に、大助は感嘆する。
「種もみ槍士か……いいね」
「ありがとう、ございますっ」
 ロザリンドは大きく踏み込むと連撃を浴びせた。
 大助がどんな戦い方をするのか、周りに知ってもらうためだ。だから、多少無茶な攻め方もした。
 そして、大助が両腕で槍を受け止めた時、飛び出す『槍の穂先』を発射させた。
「うっ……このォ!」
 体でそれを受け止めてしまった大助は、衝撃に咳き込んだ後、槍の柄を握り締めてロザリンドごと振り回した。
 遠心力に耐え切れず、手を放してしまったロザリンドの体が宙に飛ばされる。
 リングに打ち付けられるところを、身を挺して助けたのは救世主達だった。
 その時ロザリンドは、善戦をしながらもスキル封じが解けたラルクとエヴァルト、もともと封じられていなかったリュースに、ルカルカ達が追い詰められてしまったところを見た。
 人数が減ったら負ける。
 そう判断したロザリンドは、自分はここまででいいから仲間達を救う道を選んだ。
 倒れる寸前だった種もみ剣士達が急に元気になったことに、大助は渋い顔をして代わりに倒れたロザリンドを見下ろした。
 面倒くさいな、と言いたげな彼の前に、今度はセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が現れる。
「次はわたくしが相手ですわ」
 セルフィーナは剣を武器としていた。
 彼女はロザリンドの意図を読み、大助の戦い方の癖を学んではいたが、実際についていくのは難しかった。
 数回の打ち合いで剣を落としそうになってしまっていた。
「先に進ませてもらうよ!」
「あうっ」
 とにかく相手より先に攻撃することを重視した大助のフェイントを交えた蹴りに、セルフィーナは派手に飛ばされ、リングを転がった。
 大助が一度、セルフィーナを確認するように見つめてから、みすみを目指そうと一歩踏み出した時、グラップラー達は世にも恐ろしいループに迷い込んだ。
 セルフィーナは、自身にもう立ち上がる力がないとわかると、苗床を発揮して先に倒れたロザリンドや、今また倒されたルカルカを始めとする種もみ剣士達をよみがえらせた。
 まさか、と顔を引きつらせるグラップラー達だが、諦めることなど念頭になく、今度こそと連携を保ちつつ種もみ剣士と相対する。
 そしてまた、種もみ剣士達が倒されそうになると、誰かが苗床で……。
「そんなワケねえだろーッ!」
 心の底からそんな未来を拒絶する大助の叫びは、ラルクやエヴァルト、リュースも同様で、四人はいっせいに等活地獄や鳳凰の拳を放ち、種もみ剣士達がどうがんばっても苗床を使えないくらいにまで叩きのめした。
 体力よりも精神力を消耗した戦いだった。
 ──が、これで終わりではない。
 彼らの様子を、少し離れたところで観察していた佐野 豊実(さの・とよみ)は、とうとう遠慮なく笑い出した。
「これは何とも馬鹿な試合だな。でも、こういう馬鹿は良いよね。私も及ばすながら種もみ剣士。張り切っていこうじゃあないか。なあ、久君!」
 と、上機嫌に夢野 久(ゆめの・ひさし)を見やれば、彼はやけに気合の入った顔つきをしていた。
 それがさらに豊実の笑いを誘う。
 今、久に声をかけても聞いてなさそうなので、豊実はみすみを振り返った。
「みすみ女史は楽しんでるかい?」
「もちろん。そろそろ私も出番かな? やられちゃったみんなをよみがえらせに──」
「待て」
 ようやく周りの話し声が耳に入ったのか、久が飛び出しかけたみすみを止める。
「おまえは俺達のリーダーだ。倒れられちゃ困るんだよ。無謀なことはせず、うまくやってくれ」
「おっけー。わかったよ。二人も気をつけてね」
 おう、と答える久に対し、豊実は何故か息切れするほど爆笑している。
 首を傾げるみすみに、途切れ途切れに豊実は説明した。
「だって、いつも無茶ばかりしてる久君が、無謀なことはするなだなんて……!」
「うるせぇよ! おまえも参加するんだから同じだろ!」
「ははは、その通りだ。では、行ってこようか」
 目尻に浮かんだ涙を拭うと、豊実は両脇に武官を従えてグラップラー達に挑んだ。
 彼らの戦い方は見てきた。
 向かってくる者にどう反応するかを思い描き、先回りしてまずは則天去私。
 追撃は武官に任せて豊実は彼らからいったん離れる。
 入れ替わるように久が剣で突っ込んだ。
 ヒロイックアサルト全開と二人と武官や救世主の応援が混じり、先ほど同様混戦状態となった。
 その真っ只中で機関銃を構えた豊実に大助が身構えるが、彼女はトリガーを引くことなくそのまま突撃してくる。
「至近距離からなんて撃たせないよ!」
「残念。これは殴るものなんだ」
 豊実が抱えているのは、ひしゃげたイコン用機関銃。銃としては使い物にならないが、槌のように振り回して相手をぶん殴る分には充分凶器だった。
 唸りを上げて振るわれた鉄の塊を、大助は首を引っ込めてかわす。そして足払いをかけた。
 バランスを崩したところに叩き込まれた鳳凰の拳は、代わりに武官が受けて吹き飛ばされた。
「まさか、その剣も実は……」
「こいつは本物だ!」
 疑うような目を向けたリュースへ久は言い返すと、リングの端へ追い込むように突きを繰り出す。
 その意図を察したリュースは多少の怪我には目をつぶり、久の攻撃のリズムが終わったところへバーストダッシュで突っ込み、勢いを乗せた鳳凰の拳を繰り出す。
 とっさに久は剣で受け止めたが、勢いは殺しきれず体が浮くのがわかった。
 単純に転ばされたりはせずに、受け身をとって追撃に備えたが、顔を上げたところに見たのは自分を守ろうとする救世主達の背だった。
「ええい、邪魔だーッ!」
 何かと障害になる救世主達に焦れたラルクが神速で飛び込み、ボコボコ殴って久への道をつくる。
「久!」
 みすみがたまらず助けに入ろうとした時、雷術が足元に落ちた。
 ハッとして嫌な感じのするほうを見れば、とても危険な目をした人物──ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)がニヤニヤしながらみすみを見ていた。
「あなた、グラップラーじゃないわね? どういうつもり!?」
「どういうもこういうも……千種ちゃんが種もみ剣士だから。これじゃ不服か?」
「意味がわからないよ」
「おや、種もみ剣士なのに? まあ、実は俺様もどうしてこんなことしてるのか、よくわからないんだけど、たぶん千種ちゃんを見ていたらその種もみを奪いたくなったんだと思うよ」
「奪わせないよ!」
 みすみはゲドーに剣を向けた。
 その態度はかえってゲドーを煽る結果となる。
「ヒャハハハハ! いつまでそう言ってられるかナ゛!?」
「みすみへの乱暴は許しませんよ」
 忘却の槍の柄で思い切りゲドーをど突いたシメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)が、痛みに頭を抱える彼を冷たく見下ろす。
 またもや種もみ剣士でもグラップラーでもない者の登場に、みすみは戸惑う。
「あの、あなたは?」
「私はあなたの救世主です」
「はぁ? でも私、呼んでな……」
「どうぞお気になさらず」
 シメオンは無邪気な笑みで芝居がかったお辞儀をする。
「あなたの魂の輝きが私を呼んだのです。ですから、ここからは私が、私の意志で、私の思い通りにあなたを救いましょう!」
「ええ!? 意味がわからないよ」
「そうですか? ではわかりやすく言いましょう。あなたが種もみ剣士だから。この一言では不服ですか?」
 みすみは愕然とした。
 言い方は違うがゲドーと同じではないか。
 自分の敵か味方の差はあれど、二人は同類だと直感した。
 このままこの二人に関わっていたら、魔のバミューダ海域ではないが永遠に彷徨うことになりそうだと、危険さえ感じる。
(でも、味方はほしい……い、いいよね? だって救世主だって言ったもんね)
 ちらっとヒロユキやダリルを見やるが、二人が何か言ってくる気配はない。菊が反対しても多数決で何とかなりそうだ。
 みすみは救世主の誘惑にあっさり流された。
「頼んだよ、救世主さん! 私も戦うから!」
 シメオンは満足そうに頷くと、怒りの歌をうたった。
 ゲドーはサンダーブラストで一気に二人を丸コゲにしようとする。
 みすみは雷撃を食らったが、へこたれずに立ち向かった。
 その背にヒールを飛ばすシメオン。
 どうにかしてみすみの加勢に行きたい久達なのだが、四人のグラップラーはそれを許さなかった。
 攻撃力はゲドーのほうが上で、みすみとシメオンはしだいに追い詰められていく。
 強敵グラップラーへ攻め込もうと救世主へ作戦指示を出していた葉月 可憐(はづき・かれん)は、急遽、標的をゲドーへ変えた。
「皆さんごめんなさいっ。苗床でがんばってください!」
 と、グラップラーに嬉しくない台詞を投げて、救世主に呼びかける。
「救世主1号様から3号様、お願いします!」
 任せとけ、と元気の良い返事をした三人は、剣を片手にゲドーへ波状攻撃を仕掛けた。
 みすみに夢中になっていたゲドーは背中をざっくり斬られたが、まるで痛みを感じていないように斬りつけた救世主1号を振り向く。
 その時には救世主2号が迫っていて、斬撃の衝撃でゲドーはわずかによろめいた。
 そして、とどめのように救世主3号の剣が腹を貫く。
「ほほう……」
 それでもゲドーは笑っていた。
 間近にそれを見たみすみだけでなく、少し離れたところから指揮している可憐も背筋がひやりとする。
 けれど可憐は救世主4号から8号へ射撃の号令をかけた。
 五人の救世主からいっせいに矢が放たれ、可憐も弓状の光条兵器の矢を引き絞る。
 ゲドーは避けるでもなく体で矢を受け止め、眉間を狙ってきた可憐の矢は手のひらを盾にしてみせた。
 ヘラヘラ笑いながら矢を抜いていくゲドー。
「何だか平気そうにしてますけど、不死身なわけがありません。皆さん、もう一度です!」
「おいおい、今度は俺様の番だろ?」
 ゲドーは奈落の鉄鎖で可憐を引き倒すと、雷術を落とす。
 さらにもう一撃、と魔法力を溜めた時、ゲドーの周りを虫の大群が覆った。
「可憐、しっかり!」
 アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)の回復術が可憐を助け、救世主達が彼女をもっと離れたところへ運び出す。
 アリスの呼び寄せた毒虫の群にも不気味な笑みを絶やさないゲドーの周りの虫を、混戦から抜け出した大助が鳳凰の拳で振り払う。
「おまえ死ぬぞ!」
「そんなワケないじゃん」
「いや、何かヘンな斑点できてるから」
 毒虫に刺されたのだろうが、ゲドーはケロッとしている。
「乱入者か……まあいい。共闘といくか」
 大助が拳を構えるが、ゲドーはそういう意識はなかった。
「千種ちゃんの次は他の種もみ剣士で、その次はキミ達で……」
 基本的に他人の幸せを許せないという人だ。大助達の優勝を認められるわけがない。
 それでも今だけは倒す相手は同じだ、と大助は気持ちを切り替えた。
 回復した可憐が今度は大助とゲドーに救世主との連携攻撃を仕掛けてくる。
 大助は彼らの隙間を縫い、転ばせ、打ち倒す。
 ゲドーはひたすらみすみを狙って雷術やサンダーブラストを放った。
 アリスの回復術だけでは間に合わなくなり、彼女は自分を守っていた救世主達に捨て身の戦法をお願いをした。
 アリスの救世主の1号から8号は、二手に分かれて大助とゲドーに飛び掛る。
 それは攻撃ではなく、張り付いて重石となる行動だった。
 剣などで斬りつけるよりも、ある意味やっかいな障害だ。
 動きを制限された二人に可憐が光条兵器の弓矢を向けた。
 大助は思い切り暴れて救世主の戒めを崩すと、強引に等活地獄へ持ち込んだ。
 そして、放たれた矢を身を捩ってかわす。
 頬に熱いような痛みを覚えたのは、矢が掠めていったからだろう。
 こちらも身半分くらい自由を取り戻したゲドーが、可憐とアリスへ雷撃の雨を降らせた。
 大助はその中に突進して二人を退けると、みすみに向き直る。
 みすみは大助に剣を向ける。
 シメオンが彼女を援ける歌をうたおうと口を開きかけたが、それはゲドーの雷術に邪魔された。
「苗床って厄介な力だよね。でも、そろそろ終わりにしたいな……!」
 一撃で決めるため、大助は神速を使ってみすみとの距離を詰め、グッと引いた拳に鳳凰の炎を纏わせる。
 みすみは逃げずに正面に剣を構えて、大助を見据えた。
 刺し違えてでも、とみすみは覚悟を決めていたが、実際に拳を受けたのは彼女ではなかった。
「エリヌース……なんで?」
「あたしより、目立つなんて……許せないから、だよ」
 今までどこに隠れていたのか、エリヌース・ティーシポネー(えりぬーす・てぃーしぽねー)がその身を盾にみすみを助けた。
 エリヌースがみすみをライバル視していることは知っていたので、まさかこんなふうに助けられるとは思ってもいないみすみだった。
「みすみ様、気を抜いてはいけません……っ」
 気絶したエリヌースを抱えて呆然とするみすみへ、遠くなる意識をかき集めて可憐が呼びかける。
 彼女の傍には、同じく大助に打たれたアリスが横たわっている。
「あなたは、種もみ剣士の星なのですから……」
 けれど、可憐の意識はそこまでだった。