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2021年…無差別料理コンテスト

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第6章 ちょっと大人の味も一口で・・・?

「もうそろそろ冷蔵庫から出してよさそうだね」
 西園寺は弥十郎が香辛料に漬け込んだ肉を取り出し、タワー型に積んで天辺に脂肪を置く。
「わぁ〜、何か凄いね」
 試食させてもらおうと来た北都が、羊1匹分使っている迫力にびっくりする。
「とってもスパイシーな香りがしますけど。どうやって食べるんでしょうか」
「ケバブロースターで焼けたところを、殺ぎ落とすんだけどね。試食するのかな?」
 弥十郎は屋台の裏からひょこっと顔を出し、クナイたちに声をかける。
「どうします?北都」
「うん、食べてみたいな」
「2人分だね、先生、後はお願いするね」
「は〜い。お肉の他に野菜とソースもあるよ」
「野菜は食べやすい量にしてほしいな」
「ハーブを使ったソースにしませんか?」
「クロイターソースだね。じゃあそれでお願いするよ」
「2人とも同じやつでいいんだよね」
 注文を聞くと西園寺は、こんがりと焼けた部分をナイフで殺ぎ落とし、北都の好みに合わせて四角に焼いたトルティーヤで巻く。
「口に合うと嬉しいな」
 ソースが漏れて手が汚れないように片方を内側に折って、その部分を厚紙で作った入れ物に入れる。
「焼き加減もいいし、とても食べやすいね」
 工夫しているところを北都が聞かなくても分かるくらい、食べる人の手が汚れたり溢さないように作ってくれている。
「他の屋台でもそうでしたけど。皆さん、好みに合わせて作ってくれてますよね」
「簡単そうに見えても、注文がいっぱいあると大変そうなのに。でも僕たちにとっては嬉しい配慮だよ」
「へぇ〜そうやって巻くのね。私、トマトソースがいいわ」
 まだ食べたりないセレンフィリティが注文する。
「私もそれにするわ」
「ちょっと待っていてね。」
「それにしても。お肉の香りがとてもいいわね。ねぇ、どうやって作るの?」
 作り方を教えてくれないかな、っとセレンフィリティは西園寺を見る。
「牧場で暴れ坊の新鮮な羊肉を使ってるんだけど。香辛料に2日間とちょっと漬け込むだよ」
 作っている西園寺の代わりに弥十郎が答える。
「え〜っ!?美味しいものを作るのって、そんなに時間がかるのね・・・。あ、じゃあトルティーヤはどうやって作ってるのかしら」
「トウモロコシの粉で作っているんだよ」
「それなら作りやすいかもね。パンとかの代わりにもなりそうだわ」
「出来たよ。はい、どうぞ♪」
 中東風まき寿司のような出来立てを、西園寺が彼女たちに渡す。
「美味しすぎるじゃないの!ヨーグルトが入ったトマトソースとも合っているし」
「結構身がひきしまっているのね。羊なのに、くさみもないわ」
 火の打ち所がないとセレアナも舌を満足させる。
「まぁ〜あ、とってもゴージャスな雰囲気ですこと。屋台にあっても不自然さもありませんし。ソースはトマトにしてほしいですわ」
 オレンジ色の浴衣を着たラズィーヤも試食させてもらう。
「僕もそうしようかな」
「(こうやって見ると、やっぱり女の子にしか見えないね)」
 丈の短いピンクの浴衣姿の静香に北都は、どう見ても普通の女の子っぽいのに、と見つめる。
「やっとここもお料理をいただけるんですねぇ〜。このソースをつけてください♪」
 匂いに惹かれてきたエリザベートがクロイターソースを指さす。
「あたしも欲しい」
 行列を見たミルディアも試食用にもらおうと並ぶ。
「ルカたちにもください!」
「え?は〜い。注文が急にいっぱいきたね」
 たくさんの注文に西園寺は大慌てで作る。
「お待ちどうさまっ。―・・・ふぅ」
「中東料理ですかぁ〜?」
「うん、自分の校風に合わせた感じだね」
 エリザベートに聞かれて疲れた顔を見せずニコッと答える。
「ドイツっぽい感じもするよ?」
「香辛料を使っているわりに食べやすいですわ」
「中東でありながら、この風味・・・っ」
 衝撃的な味にミルディアは無差別に近いかも、という眼差しで手にしているそれを見る。
「ほぅ、食感もいいな」
「はい・・・そうですねっ。(ふぎゃぁああーっ!辛いっ辛いよぉおお!!)」
 淡々と食べる団長の傍ら、西園寺の作ったタバスコで、ルカルカの口の中は大火事だ。
「さすがシャンバラ教導団の校長だね、全然平気みたい。でも・・・普通はああゆう感じだよね」
 涙目になっている彼女を見て西園寺は思わず苦笑する。



「2品目を作ろうかな♪」
 灌の心配を他所に郁乃は、はりきってクレマカタラーナを作り始める。
「作り方は、確か・・・えーっと。思いだした!卵黄をときほぐして、砂糖とオレンジピール、それとシナモンを混ぜるんだったよね♪」
「香りはまとも!?いえいえっ、ここからが最も不安なんですよね・・・」
「後は小麦粉を加えて混ぜて、これも入れて混ぜて〜♪」
 ゴポゴポと沸騰した牛乳も入れて一煮立ちさせる。
「冷やしてる間、休憩しようかなーっと・・・あっ、お客さんだ!」
「お姉ちゃんのところに!?」
 なんてチャレンジャーなのっ、と灌が驚きの声を上げる。
「いただきに来ましたわ」
「ささっ、どーぞどーぞ!」
 郁乃は器によそってやり、牛肉のシチューをラズィーヤに渡した。
「3日間、煮込んだの♪」
「全体的に味が染みていて美味しいですわ」
「うっ、うそぉおお!?」
 これは宇宙が崩壊する予兆かも、という感じで灌はビックリする。
「(さよなら・・・悪魔の料理人の汚名・・・・・・!)」
 奇跡に感謝しつつ、郁乃にしか見えない去っていく汚名に手を振る。
「でも・・・、大人の味ですわね。赤ワインがききすぎですわよ」
「えーーっ!?そんなぁ〜、ちゃんと煮込んだのに」
「エリザベートさんは食べない方が・・・あらまぁ〜」
 アルコールで酔ってしまった少女をラズィーヤが見下ろす。
「世界がぐる〜ぐる〜って回ってるですよぉ〜」
「あぁっ、大変!エリザベートさん、お水を飲んで」
 倒れそうになる彼女を静香が支えてやり、水を飲ませてやる。
「あわわっ、どどどうしよ〜。でもっ、大人は大丈夫なら試食してもらえるよね。ねぇ、牛肉のシチュー試食してみない?みんな〜、大丈夫だからおいで!ねぇってばーっ、どうして逃げるのー!?」
「―・・・お姉ちゃん」
 酔うだけじゃすまいと思われ、先生や生徒たちに逃げられた郁乃に、灌は憐憫の眼差しを向ける。
「こうなったら、2品目に賭けるしかない!」
 冷やしたクレマカタラーナを容器に入れて表面に砂糖をまぶす。
「焼き立てを召し上がれ♪」
 火術のオレンジ色の炎で焼くと、甘い香りがほわぁ〜んと漂う。
「見た目はよさそうですし、仕上げも美しいですわね。でも・・・お味はどうかしら?」
「うぅ・・・食べたいですぅ」
「はぁ・・・仕方ありませんわね。今回は特別ですわよ?」
 まだまともに動けないエリザベートにラズィーヤが食べさせる。
「スペインのお菓子ですねぇ!」
「復活しましたわね」
「こんな美味しいのに、どうして私たちしか食べないんですかぁ〜?」
 甘いものが酔い覚ましなのか校長は元気になった。
「フフフッ。さぁ、なぜでしょうね」
 あなたが酔ったのが原因ですのよ、とは言わないでおいた。
「やだぁ〜!帰って来なくていいのに・・・っ。しくしく・・・」
 1度はさよならした汚名を取り戻してしまい、“ただいま!”と郁乃のところへ帰ってきてしまった。