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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!

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目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!
目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム! 目からビーム出そうぜ! ビームだよビーム!

リアクション

                              ☆


「なるほど……確かに、一点に集めるのは基本ですよね」
 と、小型飛空艇でビームを集めていく朝霧 垂を街から見上げた茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は呟いた。
 その傍らには、パートナーの茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)の姿がある。
「けれど……まだまだ殲滅には時間がかかる……こちらの発想はまるで逆ですね」
 確かに、雲の上に現れた巨大クラゲを倒しきるのにはまだ時間がかかる。
 母体を叩かないとキリがないのは事実だが、その間に生み出され続ける通常の電気クラゲを放っておけないのも事実だった。

「……それじゃ衿栖、準備はいい?」
 朱里は自慢の大剣に情熱クリスタルをセットして尋ねる。
「ええ……始めましょう!!」
 朱里は大剣を振りかざし、情熱クリスタルの力を解放する。


「でりゃあああぁぁぁっ!!!」


 朱里の大剣から、大きな斬激が衝撃波ビームとなって飛んでいく。
 それは、空中に浮遊する通常のパラミタ電気クラゲにヒットし、相当数を一発で屠ったものの、残りのクラゲの気を引く結果になった。
「衿栖――来るよっ!!」
 朱里の言葉に、衿栖は指先に神経を集中させた。
「――分かってる」
 静かに呟くと、指先から人形を操る魔法糸が輝きを帯び始める。
 衿栖が持つ情熱クリスタルから力が溢れ、魔法の糸を伝って、それぞれ四体の人形――リーズ、ブリストル、クローリー、エディンバラへと送られていく。

「みんなは巨大クラゲを狙いますよね……ならば私は、それ以外の電気クラゲを引き受けてみせる!!」

 衿栖は仲間であるヴァル・ゴライオンやレン・オズワルドから連絡を受けて協力していた。
 パラミタ電気クラゲの群生体には母体のようなものがあるのではないかと予想していた彼らは、有事の際にはクラゲの母体を狙うコントラクターの隙を突かれないよう、衿栖に通常のクラゲの始末を任せていたのだ。
 魔法の糸で多数の人形を自在にあやつり、体多数の戦いを得意とする衿栖には、その仕事は適任と言えた。

 そして今、衿栖が操る人形はそれぞれにひとつずつの漏斗型クリスタルを持っている。
 衿栖の持っているクリスタルと四体の人形が持つクリスタルが反応して、輝きを増していく。


「――行きます!! ドールズ・ビィィィムッ!!!」


 それぞれの漏斗型クリスタルから、拡散型のビームが一斉に発射され、それは数十本のビームとなってツァンダの夜空に輝いた。
 一本一本の威力は普通のビームだが、断続的に発射されるビームは次々に通常のパラミタ電気クラゲを襲い、次々に叩き落としていく!!


「――よし、私の仕事はこれでいい……母体を叩くのは、任せますよ――帝王」
 朱里のガードで人形操作に集中しながら、衿栖は友の名を呼んだ。


                    ☆


 その時、ヴァル・ゴライオンはいよいよ動こうとしていた。
「よし……通常の電気クラゲがほとんどいなくなった……いよいよ、あの母体であるクラゲを全滅させれば、街に平和が戻るな」
 だが、傍らのウィンターとスプリングの表情が固いことに、ヴァルは気付いた。
「……どうした?」
 上空の巨大クラゲの動向を見守りながら、ウィンターは呟いた。
「……まずいでスノー」
 その一言を受けて、スプリングもまた同様の呟きを漏らす。
「……巨大クラゲが燐光を放っている……さっきと同じでピョン!!」

「……どういう、ことですか?」
 ヴァルと同じく情熱クリスタルの本体をガードしていた神楽坂 紫翠は尋ねた。
「さっき、多くのコントラクター達から情熱クリスタルの力が失われていたのでスノー。
 おそらく、通常の電気クラゲがクリスタルそのものの力を吸い取っていたはず……。
 今、巨大クラゲに浮かんでいる燐光は、その時の光と同じでスノー」
 カレン・クレスティアが夜空を見上げると、巨大クラゲはいつの間にか情熱クリスタル本体の上空へと移動して、密集してきていた。

「……てことは……」
 という、アキラ・セイルーンの言葉が合図だった。


「――うぉぉぉっ!?」
 ヴァルはうめき声を上げた。
 突然、上空からのしかかるようなプレッシャーを感じる。周囲の仲間たちも同様に、うまく動けないでいる。
「これは……いったい……!?」
 上空を睨みつけるヴァル。しかし、巨大クラゲはそれをあざ笑うように上空に集まり、そのプレッシャーを増強させた。
 おそらく、電磁波のようなものを発生させてこちらの動きに制限を加えているのだろう。
 しかし、問題はそこに留まらなかった。

「……あっ!! クリスタルが!!!」
 カレンが叫ぶ。情熱クリスタル本体の輝きが明らかに失われている。
 はるか上空の巨大クラゲ達が、クリスタル本体の力を吸っている。

「ビームが……出ない?」
 紫翠は扇の先端からのビームで抵抗しようとするが、すでに自分の持つクリスタルからも輝きが失われていることに気付く。
 何とか抵抗すれば、電磁波の元で行動すること自体は可能だと思われた。
 だが、情熱クリスタルの力がなければクラゲを撃退することは難しい。

「……どうすれば……いいんだ……」
 こんなところで倒れるわけにはいかないとヴァルは必死に耐えた。しかし、実際のところ今すぐ状況を打開する方法がいないのも事実だった。


 徐々に、情熱クリスタル本体の輝きが失われ、街を飛び交っていたビームも撃てなくなっていく。
 ――やがて、ツァンダの街が沈黙するまで、数分もかからなかった。


                    ☆


「……これは……まいったのぅ……」
 と、カメリアは呟いた。
 情熱クリスタルの力を吸い取られ、ほとんどのコントラクターはビームの反動で動けなくなっていたのである。
 カメリアと同行していた風森 望も同様だった。
 ビームを撃っていなかった水心子 緋雨と天津 麻羅は満足に動けるが、今となってはビームを撃つことはできない。
 しかし望は、満足に動かない身体を動かし、倒れたカメリアに擦り寄った。
「ふっふっふ……この時を待って……いたのですが……残念……満足に動きませんね……あわよくばカメリア様をお持ち帰りしたかったのですが……」
 それを聞いて、ノート・シュヴェルトライテは呆れた声を出した。
「……そんなこと考えてたんですか……。でも、失敗したからって口に出すなんて望らしくありませんわね、腹黒ビームを撃ちすぎて真人間になりましたか?」
 辛うじて動く身体を横たえて、望はカメリアの前でごろりと横になる。
「ふふふ……そうかもしれませんね。私も……少し、疲れてしまったかしら」
 そんな望に、カメリアの手がそっと伸びる。
「……望ねぇは、疲れぬか? 色々と表と裏で考えることが違うと、疲れぬものか……?」
「カメリア……様?」
 そのまま、カメリアは望の顔に両手を添えて、きゅっと自分の胸に抱きしめた。

「智に働けば角が立つ……情に棹させば流される……何かと人の世は住みにくいかも知れぬな……。
 じゃがな望ねぇ、儂は人の世が好きじゃ。良い者もいれば悪い者もいよう。
 考えが甘いと言われればその通り……じゃが、儂はそんなこともひっくるめて、この街が好きじゃ」

「ん……そう……ですね……」
 抱きしめられた望は、そっと瞳を閉じた。
 誰だって、憎からぬ相手に抱きしめられれば心地いい。しばし感じたことのなかった、その温もりに胸が熱くなった。

「そうですよ……僕だってこの街が好きです……カメリアさんのことも……ともに戦う、仲間のことも。
 だから今……諦めるわけにはいかない……クリスタルが使えないなら……他の手段を……」
 カメリアの背中を、音井 博季がそっと抱く。
 その言葉に応えるように、カメリアは微笑んだ。
「そうじゃな、博季にぃ……何とか、せねばならぬな……」


 一方その頃、ブレイズ・ブラスは路地裏で目を覚ました。
「……ん……」
 ビームの撃ちすぎで疲労困憊したブレイズ。しかし、人よりも早くエネルギー切れを起こしたせいで、体力だけは人より回復したのは皮肉なものだった。
「……気付き、ましたか……」
 そこに現れたのは、風森 巽だった。
「……先輩!!」
 ブレイズは目を剥いた。タフなヒーローである巽のこと、無事であろうとは思ったが、自分の身体を囮にして病院を守った巽は、それ相応の代償を自分の身体で支払っていたのだ。
 ヒーロースーツのマスクは壊れ、巽本人の口が見えている。
 スールのあちこちはダメージを受けて破け、背中のウィングはもう動かない。
 全身の傷から血を流して、それでも巽は立っていた。

「……ブレイズ……いや、正義マスク……貴公は、戦わない……の、ですか……?」
 ブレイズ言は、巽の言葉にはっとした。
 確かに、目を覚ましたブレイズに何ができるとも限らない。情熱クリスタルの力は失われている――もうビームは撃てないのだ。

 ――だが、まだこの身体は動いている。

「……先輩」
 ブレイズは、巽の前に握り締めた右拳を見せた。
 巽は、マスクから覗く口元をほころばせ、言った。
「それでいい……まだ、感じられるか。貴公が初めて信じた、正義への想いを――」
 初めて会った時のことを、二人は思い出していた。


「ああ……俺はまだ、戦えるぜ――先輩!!」


 それでも巽の負傷は激しい。何とか路地裏から出て、巽とともに建物の屋根に上る。
「あ……ブレイズ……」
 そこには鳴神 裁――正確には彼女に取り付いた奈落人、物部 九十九がいた。
 その傍らには、宇都宮 祥子と樽原 明の姿。
「さて……どうしたものかしら」
 と、祥子は言った。祥子と明は肉体的な消耗はさほどではないものの、情熱クリスタルの力を失い、ビームが撃てないことに変わりはない。

「くそっ……誰かいねぇのか……まだ、満足に動ける奴は……ビームを撃てる奴は……」

 見ると、移動を繰り返していた彼らは、いつの間にか情熱クリスタル本体の近くまで来ていたらしい。
 輝きを失ったクリスタルを見つめるブレイズに、後ろから声を掛ける者があった。


「いるよ……ここにひとり、ね!」