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リアクション
■ 墓前での邂逅 ■
中天から照りつける太陽。
墓花はこの暑い時間をやり過ごそうとしているかのように、やや頭を垂れている。
この時季に墓参りをしようとするなら、まだ涼しい朝かあるいは陽が落ち着いてくる夕方を選ぶ人が多い。
だから。
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は敢えてこの時間を選んで墓にやってきたのだった。
父の宇都宮 誠司が決めた見合いが嫌で、パラミタに逃げ込んでもう2年。
その間、忙しいのもあったけれど、祥子は一度も母の墓参りをしていなかった。
ここに来られる今のうちに墓参りをしようと、祥子は地球へ帰ってきたのだった。
母の墓は綺麗に掃除され、花が供えられていた。
その周囲に見知った顔がないのを確認し、祥子はほっと息をつく。
自分は勘当された身。知り合いや家の者たちの前に顔を出す訳にはいかないのだから。
「ただいま。ごめんね。しばらくお墓参りに来られなくて」
墓前に手を合わせれば、話したいことは自然と溢れてくる。
「お父さんには悪いことしちゃったわ。けど、私はシャンバラで多くの友人や大切な人と巡り会えた」
イルミンスールで精霊と出逢って、コンロンでは世界樹と縁ができた。日本の江戸時代のような国『マホロバ』にも行けた。
「生涯ついていこうと思った人にも出逢えたしね」
勘当されてはしまったけれど、パラミタに渡ることを選択したからこそ得られたものは多い。
「いま、先生になるための勉強してるの。ちょっと寄り道して他の学校に留学したりしたけど、早ければ春には免許が取れるかもしれない」
けれど祥子は、先生になったらまたお墓参りに来るから……とは言えなかった。
父の顔に泥を塗って家を出た身だから、この街には戻れない。それに地球とパラミタがいつ分裂するかも分からないから、もう来られないかもしれない。
「親不孝な娘でごめんなさい」
祥子は母にそう謝ると、墓前を離れようとした。が、入れ替わるようにこちらにやってくる人影がある。
(あら……? こんな時間に墓参の客なんて)
珍しいこともあるものだと見直した祥子の表情が強ばった。
(お父さん……)
暑くてもきっちりとした恰好。背筋の伸びた少し大股気味の歩き方。
変わらない父の姿。
祥子に気づいただろうに、歩調も緩めずやってくると誠司は聞いた。
「そこは妻の墓ですが、ご縁のある方で?」
「昔、とてもお世話になった者です」
祥子も他人のふりで答えた。そうしなくてはならないから。
「たまたまこちらに来る機会があってお参りをさせていただきました。なかなかもう、こちらに来る機会はないと思いますので、お礼と近況報告をと」
他人としてそう告げると、祥子は一礼してその場を離れていった。
祥子の立ち去った墓前で誠司は墓に手を合わせる。
「……祥子は元気にやっているようだよ。母さん」
故人の耳にしか届かぬ場所でそう言うと、誠司は僅かに口元を緩めた――。
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