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リアクション
■ 迎えの一撃 ■
とにかく帰省だ、とエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が言うので、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)とミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)も一緒にエヴァルトの実家にやってきた。
場所は日本、茨城県の外れの片田舎。
「欧州あたりと思ったか? 残念!」
「お兄ちゃん、誰に向かって言ってるんですか?」
ここには自分たちしかいないのにと、ミュリエルに不思議そうな顔で尋ねられ、エヴァルトも肩をすくめる。
「……誰にだろうな」
何かこう、言わずにはいられない突き上げるような衝動に襲われたのだけれど……まあ気にすまい。
「エヴァルトの実家も久々だねー」
ロートラウトは3年前の夏の日を懐かしく思い出す。
高校受験をどうしようか悩むエヴァルトに魂のまま出会って、契約をした。契約を決めたのは、ピンと来たから。どことなく、他人じゃないような感じでもあった。
「本当に久々ですね、実家」
ミュリエルもエヴァルトの家族から、本当の家族のように接してもらっていたので、ここに来ると実家に帰ってきたのだという気分になる。
「帰省の手紙は送っておいたんだが、みんな揃ってるかな」
今ここに済んでいるのは父と母、そしてエヴァルトの双子の女兄弟であるカティヤ・マルトリッツの3人だ。
皆元気でいるかと、エヴァルトは実家の扉を開けた。年季は入っているけれど、頑丈なのが取り柄の家だ。
ただいま。
そう言おうとしたのだが、その前にエヴァルトを木刀の一撃が襲った。
「な……」
「死にかけたとか、サイボーグとか……身体を大事にしなさいって言ったでしょ!」
木刀と一喝でエヴァルトを迎えたのは、カティヤだった。
双子の妹、と皆に認識されているけれど、当人だけは双子の姉だと主張し続けている。
姉らしく威厳をもってエヴァルトを睨んだのもわずかの間。
カティヤはすぐにくしゃくしゃと半泣きに顔をゆがめた。
「でも……本当に、生きてて良かったぁ……」
「まったく、姉と自称するわりに落ち着きが無いな。仕方ないだろう。友が住まう地を守るための代償だし。もう心配いらん。だいぶ慣れたしな。……ただいま」
やっと帰宅の挨拶を口にすると、カティヤはごしごしと目をこすり、ちょっと涙声ではあったけれど、笑顔でおかえりと言ってくれた。
ミュリエルも手伝って作った夕食を終えると、皆でのんびりと縁側で涼む。
そこでエヴァルトはパラミタで頑張っていることを家族に報告した。
この身体になるきっかけの、ナラカでの戦い。ザナドゥでの敗戦。
「数ヶ月前、日本にも配備されたろ、イーグリット……いや、ヤマトタケル。あれのもっと強いやつを生身で壊す奴がいてな……」
思い出すままにエヴァルトはパラミタでの出来事を話してゆく。
「あれって、パラミタだとイーグリットって言うんだね。イージス艦がこんごうとか名付けられるのと同じなのかしら?」
カティヤに聞かれ、そうかもなとエヴァルトは答えたあと、一応、それに乗っていたことも話した。
エヴァルトの隣では、ミュリエルがにこにことその話を聞いている。
「あとは……日本に接近していたゾブィアック内で、女王救出と地球とパラミタの繋がりが断たれるのを防いだことの一助ともなれたな」
「ホントにエヴァルトは凄いんだよ。日本で言うヤマトタケルみたいなロボットをパラミタではまとめてイコンって言うんだけど、それが初めて戦場に出たときに強奪しようとしたりさー。失敗したけど。それから、女王陛下と一緒に強い人に立ち向かったり。都知事のミルザムさんとだって、少しは親しいしねー」
ロートラウトが自分のことのように自慢すると、自分が思っていたよりも弟は頑張っているようだと、カティヤは素直に感心した。
「へー、結構いろいろやってるのね。まぁ、私の弟なら当然よね!」
カティヤは笑ってくれたけれど、父には少しばかりの説教を受けた。
母の目は心配半分、安心半分といったところか。
パラミタで無茶もやってきたけれど、家族は誰もエヴァルトのやったことを否定はしなかった。
理解力の高い両親で本当に良かったと、エヴァルトはつくづく思うのだった。