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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 雅羅の里帰り ■
 
 
 
 里帰りに同行したいと近衛シェリンフォード ヴィクトリカ(このえしぇりんふぉーど・う゛ぃくとりか)が言うと、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は面白くも無さそうに言った。
「里帰りって言っても、私は先祖の住んでた家で独り暮らしよ。一緒に来て楽しいとこじゃないわ」
 何もない所だから、という雅羅にヴィクトリカはそれでも構わないと答える。
「雅羅の家ってどんなのか見てみたいと思ってたのよね。先祖の住んでたってことは古い家なのかしら」
「まあ、年代物なのは間違いないわね。子供の頃は家族みんなで住んでたんだけど……」
 私と一緒には住みたくないわよねと、雅羅は自嘲した。
「だから家には誰もいないの。埃だらけだろうから掃除しなきゃいけないし、何のもてなしも出来ないわ。それでも来たいっていうなら別に構わないけど」
 そう言う雅羅に、それでも行ってみたいとヴィクトリカは即答した。
「オレも行っていいか?」
 2人の話を聞いていた鬼籍沢 鏨(きせきざわ・たがね)が尋ねると、雅羅は物好きが多いわねと呆れた顔になったが、どちらにもどうぞと答えた。
 
 
 雅羅の里帰りには、ヴィクトリカとパートナーのアーサー・ペンドラゴン(あーさー・ぺんどらごん)、鏨の3人が同行することになった。
 空京から日本へ、日本からアメリカへ。
「今のところは大丈夫なようね」
 新幹線の中でも飛行機の中でもずっと緊張を解かずにいたヴィクトリカがアーサーに囁く。
「このまま無事に雅羅の実家に着けるといいのですが」
「あたしもそう思ってる。というか……願ってる」
 災難体質の雅羅のことを、ヴィクトリカは心配していた。といっても、自分がそれに巻き込まれることをではない。
 ヴィクトリカが危惧しているのは、その災難を引き寄せているのは自分だと雅羅が感じてしまうことだった。
 どうか何も起きないようにと祈るような気持ちで、ヴィクトリカは雅羅の実家近くまで行くというバスに乗り込んだ。
 バスに乗る際見上げた空は、どんよりと曇っている。
 せめて、旅行で雨に降られる程度の災難で収まってくれればとヴィクトリカは願った。
 
 逆に、鏨は不安など露見せず、何が起きるのかとわくわくしながら雅羅の隣に陣取り、あれやこれやとどうでも良い話を雅羅に振っては、大げさに面白がった。
 鏨は雅羅の災難体質を、エリュシオンのアスコルド大帝と同種の力ではないかという仮説を立てていた。全ての物事が結果的に自分にとって良い方向に動くのがアスコルド大帝の力であり、雅羅はその正反対、災難な方向に動く力を持っているのではないかと。
 といっても、実際に鏨が見ている限りでは、雅羅自身にはあまり不幸は降りかかっていない。だとすると……。
(恐らく、雅羅の持つ力は周囲の人間の幸運を失わせる力だ……)
 もし再びアスコルドが目覚めるような場合において、雅羅はアスコルドに対してのジョーカーになり得る存在ではないかと推論した鏨は、この機械に雅羅と親交を深めたいと望んでいた。
 
 様々な思惑を載せ、だだっ広い荒れ地の真ん中を走る道をバスは行く。
 乗客は全部で15、6人といったところだろうか。
 時折止まって乗客の乗降がある以外、単調な時間が続く。
 幾つ目のバス停だったろう。
「あとバス停3つぐらいだから」
 雅羅が言ったその時。車内に武装した男が3人乗り込んできて、運転手と乗客に銃を突きつけた。
「てめえらよく聞け! このまま指示通りにしていれば、殺しはしない。てめえらの家族が身代金を払えばすぐに解放してやる。だが、少しでも抵抗しようものなら、すぐさま撃つ。死にたくなけりゃ言うことを聞け。いいな?」
「バス丸ごと誘拐と来たか……」
 派手なことだと鏨は感心する。
「……アーサー」
「分かっています」
 ヴィクトリカの呼びかけにアーサーはすぐに頷いた。
「雅羅、ちょっと待っててね。ヘンなのがいるみたいだから行ってくるわ」
 ヴィクトリカは軽くそう言ったけれど、雅羅は顔を曇らせる。
「これってやっぱり……私の所為だから私が」
「何言ってるの、違うわよ。こう暑いとヘンなのが出てくるのよ。ほんっと夏って困るわよね」
 原因を夏に押しつけると、ヴィクトリカは席を立った。アーサーが素速くヴィクトリカを守る位置に着く。
「何だてめえ! 座ってろ! 死にたいのか?」
 バスの通路を歩き出したヴィクトリカに犯人の1人が銃を突きつけて怒鳴る。
「ほんとにもう……こういうことされると困るのよね」
 武装した相手を前にヴィクトリカは恐れる様子もない。そのことを訝しんだ男の一瞬の隙を狙って、アーサーがその手の銃を跳ね上げた。発砲音と共にバスの天井に穴が開き、乗客の悲鳴があがる。
 が、その頃にはヴィクトリカが銃を取り上げ、アーサーがその腕をねじり上げていた。
「ほいよ、っと」
 犯人の意識がヴィクトリカたちに向いているうちに通路をやってきた鏨が、もう1人の犯人を殴って昏倒させる。犯人の手から落ちた銃を、アーサーが足を伸ばして遠くへ蹴った。
 だが……。
「ちくしょう!」
 計画が失敗したことを悟った最後の犯人が、乗客もろとも心中してやるとばかりに運転手めがけて引き金を引く。
 ――パン、と乾いた音がバス内に響く。
 皆が息を詰めた。
 が、バスは一瞬左右に振れたものの、走り続けている。
 運転手と犯人の間で……。
「ボクは死にましぇ〜ん!」
 犯人に撃たれた腕を押さえた鏨が、ここぞとばかりに声を上げた。
 
 
 あと少しで家だというのに、事件の現場検証とかで乗客たちは車内に留め置かれ、当時の状況等を聞かれることになった。
 そればかりでなく、雨まで降り出してバスの天井をざあざあと叩き、ごろごろと鳴る雷が近づいてくる。
「ほんと災難ね……」
 はふ、と息をついた雅羅は、うつむきがちにバスの座席に座り、腕を突っ張っているヴィクトリカに気づいて、どうかしたのと尋ねた。
「べ、別に何でも、なな、ないわよ……っ!」
 ぴかりと走った稲光に、ヴィクトリカの身体がいっそう強ばり、涙目になる。
「もしかして……雷が怖いの?」
「こ……怖いわけ無い」
「でも……」
「こ、こ、怖くないわよ!」
 震える声で否定すると、ヴィクトリカはぐっとまた身体に力を入れた。
 
 降り続く雨。
 今にもバスに落ちそうに鳴る雷。
 延々と続く現場検証。
 ……いつになったら雅羅が実家に到着できるのか。
 それに答えられる者はいないのだった――。