First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
7
今日、死者に会えるという話を聞いたネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は一人の顔を思い出した。
相手の名前は沢城 鈴。
日本にいた頃のネージュの大親友で幼馴染の女の子。
身体が弱くて病気がちで、入退院を繰り返していて。
一緒にパラミタへ行こうと、百合園女学院に入学しようねと話していたけれど、帰らぬ人となってしまった女の子。
――すずちゃんは、もしかしたらあたしよりヴァイシャリーに来たかったかもしれない。
パラミタとナラカが繋がるのなら、この場所に彼女を呼べるのなら。
ようやく彼女の願いは叶うのかもしれない。
依り代である人形を手に、ネージュは目を閉じて時間を待った。
人形を持っていない手には、鈴の遺灰から作った人工ダイヤが入ったペンダントを持ち。
ヴァイシャリーの街の入り口で。
鈴のためにと百合園女学院のカスタマイズ制服も用意した。短い時間だけれど、百合園女学院の生徒として過ごせるように。鈴の願いを叶えて、楽しませてあげたくて。
「ねじゅちゃん?」
不意に、懐かしい呼ばれ方をした。
目を開けると、人形はなくなっていて、代わりに鈴が立っていて。世界がじわり、滲んだ。
「おかえりなさい」
それでもネージュは鈴へと微笑みかける。鈴も微笑み、「ただいま」と言った。ふわり、両手を広げる。鈴がそこに飛び込んできて、背中に手を回してきゅっと抱き締めた。昔と同じような感触。あの頃の温かさはないけれど。
ひとしきり再会の抱擁をした後、
「これ。鈴ちゃん、着てみせて?」
制服を手渡した。
「これってもしかして……」
学校案内のパンフレットで見覚えがあったのか、鈴が期待を含んだ声でネージュを見る。
「百合園女学院の制服だよ。今日一日、街や学校を案内してあげる」
首肯して告げた言葉に、
「ねじゅちゃん、本当ですか?」
鈴が念を押すように訊くから。
「あたしが嘘ついたことあった?」
ネージュはそう返して、微笑みかけた。
「行こう。美味しいケーキ屋さんとか、可愛い小物屋さんとか、いろいろ教えてあげる」
もし鈴が居たらこうしただろうということを、色々してやるんだ。
――したいことがありすぎて、一日じゃきっと、時間は足りないけれど。
それでも、今できることをしよう。
精一杯楽しもう。
「はいっ」
手を取り合って、二人は歩き出す。
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last